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金正恩氏、再び訪中の噂が

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
南北首脳、板門店で再び会談 (5月26日)(提供:The Presidential Blue House/ロイター/アフロ)

 25日、大連にいる教え子から東北一帯の列車統制に関する連絡があった。5月27日か28日に金正恩氏が訪中するかもしれない。統制は6月12日を含んでいるので、中国を経由してシンガポールに行く可能性もある。

◆東北一帯の駅の戒厳体制指示に関して

 25日夜、大連にいる教え子から連絡があった。大連を含んだ東北一帯の列車の主要駅に関して、非常に厳格な統制指示が出ているという噂が広がっているとのこと。北朝鮮の高官も訪中したばかりなので、金正恩委員長がまた訪中する可能性は否定できない。

 そこで瀋陽や、筆者の生まれ故郷である長春にいる教え子たちにも連絡を取ってみた。すると遼寧省の丹東をはじめ、大連、撫順、鞍山、瀋陽、長春(吉林省)やハルビン(黒竜江省)などをカバーする北京行きおよび北京から戻る列車に関して、かなり具体的に運休などに関する統制指示が出ているという噂が広がっていることがわかった。

 それらを総合すると、おおむね以下のような統制指示が出ているらしい。

     5月20日~23日:北京行き列車の運休。

       21日~24日:北京から戻る列車の運休。

     5月27日~28日:北京往復列車の運休。

     6月10日~13日:北京行き列車の運休。

       11日~14日:北京から戻る列車の運休。

◆27日あるいは28日に金正恩訪中か?

 この情報が真実に近いものだとすると、24日までの列車の運休は、北朝鮮政府高官の訪中のために使われたのかもしれないが、27日と28日の運休は、金正恩委員長が3回目の中朝首脳会談を行うために北京入りするのではないかと推測される。

 トランプ大統領との駆け引き合戦に敗れた金正恩委員長は、非常に慌てているにちがいない。その証拠に、5月11日から始まった米韓空軍の合同演習(マックス・サンダー)が25日に終わったことを口実に、5月26日、今年に入ってから2回目の南北首脳会談が板門店の北朝鮮側にある「統一閣」で予告なく電撃的に行われている。会談終了後に発表された。

 まずはトランプ大統領との仲介役を果たしてくれた文在寅大統領に会わなければと思ったのだろう。

 なんと言っても5月15日に南北閣僚級会談を提案しておいてから翌日の16日にキャンセルするという恫喝を用いて、韓国の文在寅大統領にプレッシャーを掛けたのだから。その文在寅大統領に対して詫びを入れなければならないだろう。謝罪の代わりにハグをしたようだが、いずれにしても礼を尽くしておかないと、何十年も待ってようやく訪れたアメリカとの首脳会談が無くなってしまう。

 だからトランプ大統領が24日に米朝首脳会談を中止すると宣言した瞬間、金正恩委員長は金桂冠(キム・ケグァン)第1外務次官に「いつでも、どこでも(トランプ大統領と)会う用意がある」という「超低姿勢な」談話を発表させたのだ。

 トランプ大統領も25日、金桂冠談話を歓迎し、「本当は対話をしたい」旨の意思表明をしている。そして「6月12日にシンガポールで」米朝首脳会談を開くという、これまで通りの可能性もあると言っている。

 となれば、次は中国の習近平国家主席に会わなければならない。

 列車統制表に「6月10日~14日」という日程があるところを見ると、そしてもしこれが本当なら、トランプ大統領が示唆したように「6月12日にシンガポールで米朝首脳会談を開催する」という方向での水面下の交渉が、米朝間ですでに了解事項として進められているということになろうか。

 あの大国のアメリカの大統領と、しかもあの「ドナルド・トランプ」という、破格の人物と会う!本当に会うことになってしまった!

 「さあ、どうしよう!」と、習近平国家主席に泣きつきに行くつもりなのだろうか?

◆シンガポールに飛ぶフライトは中国製を?

 しかも今度は日帰りでないのか、あるいは、余分に日程が確保してあり、28日に訪中するのかもしれない。

 それとも、27日と28日の2日間を使ってフライトなどの相談もするため、北京に一泊するのかもしれない。

 なぜなら、6月12日を挟んで列車統制指示が出ているということは、金正恩委員長が「中国を経由してシンガポールに行く」ということを意味していると解釈されるからだ。

 北朝鮮製の飛行機に乗って中国を経由し、中国から再びシンガポールに向かうのか、あるいは中国まで列車で行って、そこから中国製の飛行機に乗ってシンガポールに行くのかは、まだ分からない。「6月10日~14日」という列車統制指示が本当だとすれば、列車で中国に入る可能性が高い。そこから中国製の飛行機に乗る。シンガポールからは飛行機で北京に戻り、北京から北朝鮮に列車で戻るという可能性は否めない。

 ただし、この日程も教え子たちが手分けして調べてくれた情報なので、どれだけの正確さがあるかは、何とも言えないところはある。教え子たちには申し訳ないが、慎重に判断し分析しなければならない。

 しかし、いずれにしても、トランプ大統領に会うことはまちがいないと見ていいだろう。それもトランプ自身が言っているように(何度も繰り返して申し訳ないが)「6月12日にシンガポールで」という可能性が高い。

 トランプ大統領と何度も会ったことのある習近平国家主席に手ほどきを受け、非核化に関する工程表などを相談したり、シンガポールに行く飛行機に関して、中国の最も安全なものを確保してもらったり、そのようなことを相談するのかもしれない。

◆ヒル元次官補のコメント

 会談内容に関しては分からないが、中国の中央テレビ局CCTVは26日のお昼のニュースで、クリストファー・ヒル元米国務省東アジア太平洋担当次官補を単独取材し、そのコメントを流していた。

 ヒル氏は元六者協議のときのアメリカ代表だった人物だ。

 彼は26日のCCTVで、「トランプ政権は、実は準備不足で困っている。なにせ、米朝首脳会談が行われたとしても、会談後に、どのような共同声明を出すのか、まだ何も決まっていないのだから」とコメントしている。「だからトランプは、何か口実を設けて会談時期を延ばしたかったのではないか」とのこと。

 となると、27日(and/or 28日)、習近平国家主席に、どのような共同声明にしたらいいかに関しても相談するのかもしれない。

 

 以上はあくまでも教え子たちが知らせてくれた情報に基づく推論であることをお断りしておきたい。

 トランプ大統領はこの週末にシンガポールで米朝ハイレベル協議を首脳会談前に開くと言っているので、もしかしたら5月27日と28日の列車は、北朝鮮高官たちのために確保した列車かもしれない。そうであったとしたら、金正恩訪中ではなくなるので、心からお詫びしたい。その場合は、どうかお許し願いたい。

◆明鏡ラジオ局も

 一方、筆者の『毛沢東 日本軍と共謀した男』の中国語版を出版してくれた、ニューヨークに本部がある明鏡出版のラジオ局が5月26日、一枚の北京駅が出した「公告」を基に「金正恩3度目の訪中か、中国東北の列車がまた道を空けている?」という YouTubeを発信している。そこには鉄道路線「北京駅」の「公告」が大きく貼りだされている。このコラムをここまで書いて終わった後に、たったいま発見した。

 しかし、もし鉄道局の通告なら、文末の「2018年5月」の個所に日付がないのはおかしいし、また「北京駅」と書くのもおかしい。公式のものなら、ここに書くべき文字は「北京局集団公司」だ。たとえば「中国鉄路旅客サービスセンター」のような所が知らせを出す。

 もし教え子たちが連絡してきた情報源が、この「公告」の噂が広がったものだとすると、信憑性が低くなる。もっとも、秘密裏に動いているので、「中国鉄路旅客サービスセンター」などには載せない可能性がある。今のところ、やはりまだ何とも言えない。

◆金正恩には宿題が

 ただ、これらの噂は別として、少なくとも金正恩委員長にはその前に果たさなければならない宿題があるはずだ。それは自分の言葉で、自分の署名入りで、トランプ大統領に「返信」を書くことだ。今まで一度も自分の言葉で米朝首脳会談を語ったことがないというのは、外交的にはあまりに非礼だろう。それをしなければ、首脳会談開催など、失格だと言っても過言ではない。

(なお、5月25日付のコラム「中国激怒――米朝首脳会談中止」は、あくまでも中国がどのように報道しているかをご紹介しただけで、決して筆者の意見ではないことを、念のために記す。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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