ラジオ番組までが半導体不足を採り上げる時代に
最近の半導体不足は、これまで半導体に見向きもされなかった一般のニュースになってきている。先月15日、NHKラジオの報道番組「Nラジ」へ出演させていただいたのに続き、5月13日にもニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy Up!」に出演させていただいた。ラジオ局の関心は、「半導体がなぜ不足しているのか、そんなに大事なものなのか」、である。
半導体が一般の話題に取り上げられることは大変ありがたいと思っている。これまで、半導体がなければGoogleやAmazon、Apple、Facebook、MicrosoftなどのIT企業にいつまでたっても追いつけないと思っていたからだ。日本では長い間、半導体は斜陽産業だという誤解に包まれてきた。学生が半導体企業に就職しようとすると親や先生に止められたという話も聞いた。だからこそ、ラジオでは開口一番、「世界の半導体は30年以上、成長を続けてきたのに、日本だけが成長が止まっている」ことを伝えた。
何度も使っている図で恐縮だが、WSTS(世界半導体市場統計)から出ている数字を集めると図1aのようになり、縦軸の半導体販売額を対数で表示すると図1bのようになる。1990年代終わりころから日本の総合電機や半導体事業のトップは図1bのグラフを使い、半導体産業は成熟しもう終わりを迎えています、と主張してきた。一つの産業の規模が数兆円規模になれば当然、成長率はそれまでの20%成長から一桁成長に落ちることはこれまでの経済原理の常である。
しかもWSTSの数字は半導体メーカーを表しているのではなく実は、半導体ユーザーを表していることに気が付かなかった。つまりWSTSの言うところの市場とは、半導体製品を第三者に譲り渡す地域を指している。半導体市場はユーザーが居る地域である。つまり、日本は半導体を使う総合電機のいる所、すなわち家電や民生が強かった時代は日本の半導体も強かった。しかし、家電が没落すると半導体も没落してきたのが正しい姿だ。半導体が悪かったから総合電機の業績が悪かったのではない。総合電機が悪いから半導体も悪くなったのである。
米国は半導体の設計は強いが、製造はさほど強くない。台湾と韓国が半導体製造のリーダーとなっている。半導体の世界では、米国が設計し、台湾か韓国に製造を依頼し、台湾や東南アジアでアセンブリする、といったグローバルなサプライチェーンが出来上がっていた。中国は出来上がった半導体を使ってスマホやパソコンを組み立てる。このため中国での半導体製品は毎年20兆円を超す輸入超過になっていた。中国が半導体製造を推進するのは輸入超過を解消するためだった。何が何でもドルを確保したいのである。米国は、中国との敵対的な関係から中国が台湾へ侵略を始めた時に備えて、製造を台湾に依存するのを避け米国内で製造しようと動き始めた。
最近の半導体不足では、台湾だけの製造能力には限界のあることが露出した。このことも米国の半導体業界は追い風にした。5月11日、米国半導体のメーカーとユーザーが手を取り合って、米国における半導体製造を強化するため、SIAC(Semiconductors in America Coalition:全米半導体連盟)を設立した。これは、大統領と議会に半導体製造の500億ドルの執行を促進させるための民間組織である。
SIACは、アメリカが弱い半導体製造と研究を強化・促進するために法律を制定してもらう狙いがある。組織の設立と同時にホームページを立ち上げた。米国の動きは速い。米国は半導体をけん引するITが速いスピードを進行していることに対して半導体ももっと早く動けるようにしたい。ITや半導体の米国経済への規模や成長性はやはりずば抜けているため、経済と国防、重要インフラを強化する上で半導体が欠かせない、としている。
SIA(米半導体工業会)会長のJohn Neuffer氏は「米国の経済成長と国防、デジタル社会インフラ、技術立国を可能にする半導体は、システムとテクノロジーの頭脳である」と述べている。実はラジオ放送で、私が「半導体が産業のコメではなく、頭脳になりました」と述べた時はNeuffer氏の話を知らなかったが。だから半導体の代替品はないのである。
しかもITが半導体をけん引しているからこそ、半導体ユーザーであるIT企業と手を組んでいる。SIACのメンバーには、SIAに所属するIntelやQualcommなどの半導体メーカーは言うまでもなく、Amazon Web Service(AWS)やApple、AT&T、Cisco Systems、General Electric、Google、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、Microsoft、Verizonもいる。現在、半導体不足が全世界的に問題視されているが、長期的にも国内の半導体サプライチェーンを強化し、Resiliency(素早く回復できる能力)を上げるためにも半導体製造の国内強化は欠かせない、とSIAC設立声明の中で述べている。