22卒就活は「まだら氷河期」~5つのポイントとその対策は
◆22卒は氷河期で厳しい?
昨年来のコロナ禍で社会はより一層、複雑となりました。それは就活も例外ではありません。就活全体の状況を示す用語としてよく使われるのが「売り手市場」「就職氷河期」があります。学生が有利なら「売り手市場」、学生が不利なら「就職氷河期」(本来は「買い手市場」という用語があるのですが、あまり使われません)。
この「売り手市場」「就職氷河期」の変化は2000年代に入ってから、コロナショック以前までは、実にわかりやすいものがありました。つまり、各年度ともどちらかに当てはまるからです。
2000年代以降の就活全体の状況
2001年~2005年:就職氷河期(57.3/56.9/55.1/55.8/59.7)
2006年~2008年:売り手市場(63.7/67.6/69.9)
2009年~2012年:就職氷河期(68.4/60.8/61.6/63.9)
2013年~2020年:売り手市場(67.3/69.8/72.6/74.7/76.1/77.1/78.0/77.7)
※年は卒業年。括弧内の数値は各年の就職率(卒業者に占める就職者の割合/文部科学省・学校基本調査)
では、前年の2021年卒と現在、就活が進行している2022年卒は「売り手市場」「就職氷河期」のどちらか。
実は、どちらとも言えないのです。
あえて言えば本記事タイトルにあるように、「まだら氷河期」。つまり、就活全体が氷河期ではなく、業界・企業など部分的には氷河期なのです。
◆まだら氷河期の理由 5つのポイント・その1~過去の氷河期経験
では、なぜ、21卒・22卒がまだら氷河期なのでしょうか。その理由は5点あります。
まず、1点目は過去の氷河期経験です。
1990年代から現在に至るまで、日本では大別すれば2回、就職氷河期となっています。バブル崩壊後の1992年~2005年、それと、リーマンショック後の2009年~2012年です。
それぞれ、各企業は新卒採用を中止ないし大幅に抑制するようになりました。
ところが、この新卒採用の中止・抑制は企業の人員構成を歪めることになります。
雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは、日本経済新聞夕刊の「就活のリアル」連載で、次のように指摘しています。
たとえば、90年代中盤はメーカー、後半は銀行、2000年前後は総合商社が新卒採用を大幅に絞りこみ、ゼロという大手企業さえまま見られた。
その結果、直前に入社した新卒採用者は、長い間後輩がいないという環境で育つことになる。当然、後輩への指導や支援の経験がなく、また、組織の最年少者として、時には過保護に、時には雑用係として、ようは半人前の扱いを長らく受けた。そうして彼らが30代になった時、実力不足を問われるという問題が各所で起きたのだ。その反省から、企業は不況期でも採用を絞りこみ過ぎないようになった。
※日本経済新聞2020年4月28日夕刊「就活のリアル 就活、2021年は悪化の恐れ 氷河期ほどは落ち込まず」
同様のことは、新卒採用を新規に始めた、メーカー採用担当者も認めています。
うちでは、中途採用だけでしたが、2010年代に入ってから新卒採用を始めました。確かに新入社員は大変ですし、採用広報なども苦労します。そうした点を差し引いても、新卒採用はプラスの効果がありました。先輩となる社員が後輩を指導することで新たな気づきがあったり、職場が活性化しました。結果として企業としてもプラスになり、以降、多少の業績悪化があっても新卒採用は継続しています。
企業は過去の就職氷河期経験や新卒採用のメリットなどから、新卒採用を継続した方がいいことに気づいています。
そのため、過去の氷河期ほど、新卒採用を抑制しようとはしていないのです。
◆まだら氷河期の理由 5つのポイント・その2~業界・企業により差が大きい
「いや、そういうけど、新卒採用をやめる企業がよく話題になるじゃないか」
と、反論する読者の方もいるでしょう。
これが、まだら氷河期となる理由、2番目のポイント「業界・企業により差が大きい」です。
次の表は、22卒採用を中止、または大幅に抑制することが決まっている企業・業界の一覧です。
22卒は中止
全日本空輸(パイロットなど一部職種を除く)
日本航空グループ (パイロット・障がい者雇用は募集)
スターフライヤー(総合職、客室乗務員、整備技術職など/パイロット候補者は若干名募集)
JR九州
JTB
近畿日本ツーリスト
日本旅行
エイチ・アイ・エス
藤田観光
レオパレス21
22卒は大幅縮小
スカイマーク 事務系・技術系・IT系で各数人(2018年~2020年は146~288人/客室乗務員・パイロットは3月現在・検討中)
JR東日本 430人(21卒703人)
小田急電鉄
東急電鉄
鉄道業界
観光・ホテル業界
アパレル業界
百貨店業界
※石渡調べ・作成/2021年4月10日現在/固有の企業名は新聞等に公表済み
いずれも、コロナショックにより、大きな影響を受けた業界・企業です。
ところが、新卒採用を中止・大幅抑制する業界・企業がある一方で、新卒採用は現状維持ないし微減程度、あるいは増やす業界・企業もあります。
建設・道路舗装、IT、スーパー、福祉、運輸、医療関連などの業界はいずれも新卒採用は微減~増加となる見込みです。
日経MJ2021年4月11日の11面には、ベタ記事が不思議な並びをしていました。
「正社員採用予定、10年ぶり低水準」記事の横には「コロナ収束後『人出不足』懸念49%」記事が掲載されています。
「低水準」記事は愛知県の中小企業について帝国データバンク名古屋支店の調査。
「人出不足」記事は静岡県の企業について東京商工リサーチ静岡支店の調査によるものです。
愛知の景気が悪く、静岡の景気が良い、というわけではありません。
「低水準」記事でも、建設業では73%が採用意欲を示すなどしています。
これまでの就職氷河期・売り手市場の変遷では、全体が悪くなるか、良くなるか、はっきりしていました。
それが21卒・22卒では、過去に例がないほど、業界・企業によってバラバラとなっています。
◆まだら氷河期の理由 5つのポイント・その3~3点ある労働市場を巡る法改正
まだら氷河期となる理由・3点目は労働市場を巡る法改正です。
この4月から、労働関連の法改正が実施されました。具体的には、「同一労働同一賃金の中小企業適用」(働き方改革関連法)、「70歳雇用の努力義務化」(改正高年齢者雇用安定法)の2点です。それと、3月には障がい者雇用の法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられました(障害者雇用促進法)。
同一労働同一賃金は、正社員やパート、契約社員といった雇用形態の違いで、賃金に差別的な取り扱いをすることが禁止する、というものです。
これまでは、同じ仕事内容でもアルバイト・パート・契約社員など、非正規雇用であれば賃金を抑制することが可能でした。それを禁じる、ということは、起業からすれば人件費の負担が増えることを意味します。
70歳雇用の努力義務化や障がい者雇用の法定雇用率引き上げもそれぞれ、企業負担が増えることを意味します。
この労働市場を巡る法改正は、企業からすれば新卒採用を中止・大幅抑制する要因にはなりません。それでも、人件費等の増加から、新卒採用については現状維持か、微減にしよう、と考えるポイントになるのです。
◆まだら氷河期の理由 5つのポイント・その4~選考時期の分割化とセルフ氷河期
まだら氷河期となる理由・4点目は選考時期の細分化・早期化です。
4月に入り、大手就職情報会社3社の4月1日(マイナビは3月末)の22卒内定率データが出そろいました。
リクルートキャリア(リクナビ):内定率28.1%(前年比マイナス3.2ポイント)
ディスコ(キャリタスナビ):内定率38.2%(同プラス3.5ポイント)
マイナビ:21.5%(同プラス1ポイント)
リクナビが前年比からマイナスで、ディスコ・マイナビは微増、これは誤差の範囲内でしょう。
改めておさらいしますと、3月1日は広報解禁日、選考解禁日は6月1日です。
この選考解禁日より前に内定が出ている就活生が20~30%いる、これはそれだけ就活の早期化が進んでいることを示しています。
そして、もう1点、早期化と合わせて就活時期の分割化も進んでいます。なお、この就活時期の分割化は、それを示すデータがありません。ただ、企業・採用担当者を取材していると、この時期分割化はよく出てきます。
よく、新卒一括採用と言いますが、新卒採用は継続しても、時期を分割しているため、「一括」は崩壊している、と言っていいでしょう。
この就活時期の分割化は、企業により、時期の回数や時期そのものが大きく分かれます。しかも、就活生にのみ時期を示し、就職情報サイトなどには公表しているわけではありません。そのため、就活生はこの就活時期の分割化がどの程度、進んでいるか、つかみづらいものがあります。
この不明瞭さから、就活生が自暴自棄になるケースが増えつつあります。これが「セルフ氷河期」です。
本来なら、就活を続ければ内定を得られるところ、少ない情報だけで「今年は就職氷河期、もうチャンスはない」と勝手に思い込み、就活そのものをやめてしまうのです。
◆まだら氷河期の理由 5つのポイント・その5~非正規雇用解雇が誤解を生む
まだら氷河期となる理由・5点目は、非正規雇用の解雇です。
コロナショックにより、昨年2月から4月まで、厚生労働省の統計によると、解雇・雇い止めの人数は10万人を超えています。特に、コロナショックで大きな影響を受けた宿泊・飲食業での非正規雇用は解雇・雇い止めや、大幅な労働時間低下となっています。
宿泊・飲食業では就労者の過半を占める非正規労働の女性の雇い止めが増加。野村総合研究所の推計では雇用は維持してもシフト削減などで働けない実質的失業状態の女性も103万人おり、これを加えると2月の女性の失業率は総務省統計の2.6%から6.0%に上昇する。「女性不況」の解消には就業支援を含む息の長い対策が必要だ。
※産経新聞2021年4月5日朝刊「76兆円対策も回復二極化 製造持ち直し、宿泊・飲食は非正規女性の解雇増」
こうした報道はどうしても耳目を集めやすくなります。
そして、前記の1~4の状況が学生や一般人からすれば分かりづらい、ということもあり、「コロナショックで解雇も進んでいる」→「JALも新卒採用を中止」→「新卒採用全体が氷河期」という3段論法で考えられやすくなっているのです。
◆採用・業績状況を示す日本経済新聞記事2本
以上、まだら氷河期となっている理由5点を示しました。
では、採用状況や業績の好不調を示す客観的なデータはないのでしょうか。
それが、日本経済新聞の記事2本です。
採用状況については、3月22日朝刊26~32面の「採用計画2213社」に主要企業が網羅して掲載されています。
仮に掲載されていない企業だったとしても、同じ業界の企業を確認すれば、採用者数を増やすのか、減らすのか、おおよその見当がつきます。
業績については、4月5日朝刊に出た「主要30業種の天気図」がよくまとまっています。
就活生や採用担当者、キャリアセンター職員などは、この2本の記事で確認していくことをお勧めします。
◆22卒就活生はどうすればいい?
このまだら氷河期である就活を22卒の就活生はどうすればいいでしょうか。
ポイントは、「あきらめない」「複数業界の志望」「業界によっては断念」の3点です。
まず、1点目「あきらめない」。文字通りで、周囲の友人が内定を得たとしても焦らないことです。就活時期の分割化により、選考を改めて実施する企業はまだまだあります。
昨年の21卒も、インターンシップに参加せず出遅れた就活生(出遅れ組)のうち、あきらめずに就活を続けた就活生は結果的には内定を得ることができました。緊急事態宣言発令などの影響で就活は結果的に後ろ倒しになりました。そのため、あきらめずに動いた就活生は会社説明会などに参加でき、内定を得ることができたのです。
一方、早々にあきらめてしまった就活生が、どうも就活全体が後ろ倒しになっている、と気づいたときにはもうピークを過ぎていました。就活を再開したときには、もう、採用を終了としている企業が大半だったのです。
今年は、21卒よりはオリンピック開催の影響で、選考ピークも相当前倒しになる見込みです。その反面、業界・企業によっては、学生集めに苦戦しているところもあります。あきらめずに就活を続けることが大事です。
2点目は複数業界の志望です。詳細は別記事にしますが、総合職ないし一般職希望であれば、業界を絞る必然性は特にありません。
2010年代半ばから複数業界を志望し、複数業界から内定を得る学生が増えています。これは21卒でも大きくは変わっていません。
まだ就活中の22卒生は、なおさら、業界を複数、見た方がいいでしょう。
3点目「業界によっては断念」は就活生にとっては酷な話です。
が、現実問題としてお伝えすると、コロナショックでダメージを受けた業界、特に航空業界については断念することをお勧めします。これは22卒がダメ、というだけでなく、23卒についても同様です。
航空業界は志望学生の多い業界です。あこがれだった、とする学生も多くいます。
しかし、コロナショックにより、もっともダメージを受けたのが航空業界です。昨年4月から訪日外国人観光客は99%減。度重なる緊急事態宣言・自粛やテレワークの普及などで旅行・出張とも、日本人利用者は大きく減少しました。
コロナショックがいつ収束するか、これで変わりますが、新卒採用がコロナショック以前に戻るのは早くても数年後でしょう。
この状況を考えれば、航空業界志望者は別業界に志望を切り替えることをお勧めします。一度就職して、それでもあきらめられない、ということであれば、コロナショックが収束したあとに社会人転職を考える方が現実的でしょう。
◆23卒の学生はどうすればいい?
最後に、現在、大学3年生である23卒生へのアドバイスです。
実は、企業・採用担当者は22卒の選考・内定出しを進めつつ、23卒のインターンシップや選考について、すでに検討しています。
23卒のインターンシップサイトはこの4月に大手3社(リクナビ、マイナビ、キャリタスナビ)がすでに仮オープンしています。
楽天みん就は5月15日にオンライン合同説明会を開催、すでに予約受け付けを開始しています。
このように、インターンシップの話自体はすでに動いています。23卒生も、この動きに注目し、今のうちから情報収集をしておいた方がいいでしょう。
それから、今後出す別記事で詳しく解説しますが、日本の就活市場におけるインターンシップは就業体験だけ、とは限りません。就活支援講座から業界説明、グループワークなども含め、幅広くあります。そのため、志望業界・企業かどうか、にこだわることなく広く見ていく必要があります。
◆終わりに
就活はコロナショック以上に複雑化しています。これまでの就活を巡る言説が通用しない場面も増えています。今後も、このYahoo!ニュース個人(石渡嶺司)では大きく変貌した就活についての解説記事を出していく予定です。