東京都が初めてオープンデータを冠したイベントを開催
9月4日(日曜)の朝早く、東京スカイツリーの近くの会議室に50名ほどの参加者が続々と集まってきました。雨降りが心配されましたが、外は晴れ。東京都が初めて開催するオープンデータを冠したワークショップは、墨田区が舞台。いわゆるグループごとにアイデアをまとめて発表する「アイデアソン」形式。私も一参加者として参加してきました。
「もし今地震が発生したら、どんな情報を使えば、あなたの大切な人を守れるでしょうか?」
発災から経過時間によって求められる情報やサービスは異なるのでしょう。今回は「地震発生時に一時滞在施設などへ避難すると判断した人」に対してどのようなデータを使って、どのようなサービスが考えられるかに焦点を定められていました。
土地勘のない場所で被災した際、避難する場所にちゃんとたどり着けるのか。
土地勘のある人であっても、たとえばベビーカーを使っていて両手がふさがっていることがあるかもしれないし、ペットを連れているかもしれない。そういった普段とちょっと違う状況が、避難にどのような影響を与えるのか。
(今回の舞台であるスカイツリー近辺の特徴として)国内外から来る観光客の方たち、成田・羽田を結ぶ電車の最寄駅である押上に立ち寄る方たちなど、土地勘のない外から来た方々が被災して街にあふれた場合、どのように誘導できるのか。
といった風に想像の幅を広げていくような促しがありました。実際に墨田区の方でそういったシチュエーションを念頭に何ができるか検討しているとのことで、そこに民間側の知恵をインプットするチャンスであるともいえますね。
東京都の情報通信施策推進担当課の斎藤さんは
「技術は何かを実現するための手段であり、それの活用自体を目的としてはならない。」
情報通信施策を推進する立場として常に自戒していることです。
東京都では、今回、オープンデータ利活用促進策として初めてのアイデアソンを開催しました。地域課題に設定したのは、「防災・減災」です。このテーマのもと、沢山のアイデアが創出され、併せて、その実現に必要な地域情報が明らかになり、さらに、オープンデータの有用性が共有できたらいいな、と考えていました。
と語ってくださいました。
フィールドワーク
実際に街を歩きながら課題を探します。コースは3種類。一時間でコースを回りました。
コース1
言問通りから隅田公園へ。
スカイツリー・浅草への散歩コース。
歩道は狭い。
コース2
吾妻橋三丁目から墨田区役所へ。
スカイツリー・浅草への散歩コース。川沿いを歩く。
下水道局のポンプ施設の横を通る。飲食店は少ない。外国人などの観光客が比較的多い。
コース3
浅草通りを通り、橋を渡って浅草へ。
橋を渡る唯一のコース。船着場もある。船を使った逃げルートにもつながっている。
隅田川を渡ってもらうことで水辺も見れる。
人通りが多い。飲食店やコンビニが多い、比較的賑やかなコース。
フィールドワークでの課題意識
実際にフィールドワークしてみての私の課題意識と、他の参加者との会話や発表から想像できたものを忖度し、ポジティブなもの・ネガティブなもの、まとめて列記してみると、だいたいですがこんな感じでした。
・街でみかける地図案内板は、観光や一般情報しか載っていない割に細々していて、全体感と細部の書き込みを同時に達成しようとしているので、土地勘がないとパッと見てサッと情報を探し出せない。また防災についてのデータは掲載されていない。
・スカイツリーの印象が強いが、意外と高層ビルが少なく空は広い。発災時はまずはざっくりとどっちの方向に行きたいか知りたいはずので、この空の抜けの良さを何かに使えないか。
・スカイツリーを少し離れると途端に街の雰囲気が変わり、築年数がかなり経つ家屋が並ぶ。たとえばお菓子屋さんが店先に観光マップを紙で配布していたり、消化器が置かれていたり。そういったすでにいる方たちとうまく連携できないか。
・地図案内板、避難所案内、消化器、コンビニの災害時帰宅支援ステーションマーク、それぞれがバラバラに街に存在している。アプリやモバイルで対応する領域かもしれないが、現在の墨田区の防災アプリではそこまで実現できていない。
グループワークと成果発表
フィールドワーク後に、グループごとに模造紙と付箋を使いながら、アイディアを組み立てていきます。
各グループごとに発表をし、革新性、実現可能性、データ活用の有用性の3つの観点から、参加者自身が投票し、3つのグループが選ばれました。それぞれの受賞案はこんな感じです(発表そのままではなく、筆者が数十文字でまとめました)。
・革新性賞を取ったアイデア...避難所からなんらかのサインシステムを掲示できるバルーンを打ち上げ情報提供するサービス。避難する人はスマートフォンがオフラインもしくは持っていなくても、方向感やザックリした情報を得ることができる。
・実現可能性賞を取ったアイデア...避難所とスカイツリーの場所と現在地をつなぐ三角形をアプリで保持しておくことにより、オフラインでも(GPSとジャイロ機能で)現在地さえわかれば避難所の場所を特定し、避難する人を誘導できるアプリ。
・データ活用賞を取ったアイデア...地域をマトリックス上に抽象的に区分けIDを振る。避難所に0番を振り、区分けされたIDの数字が小さいほど避難所に近い作りにし、スマートフォンなどなくても番号をたどっていけば避難所にたどり着ける仕組み。区分けは緯度経度ほど細かくない割にはカバーする領域が広いので、QRコードなどで扱いやすくし、データの可搬性上がる。
墨田区の防災への取り組みについて
墨田区の防災課長がインプットくださいました。
地震や火事については『墨田区は90年前の関東大震災で一番被害が多かった地域で、今でも木造の家屋が多く「東京都で公開している地域危険度(地震に関する地域危険度測定調査)を公開しているが、墨田は上位に入るエリアが多い』とのこと。
河川の浸水については『墨田区は意外とめったなことでは河川の浸水はない。荒川の両岸が決壊するぐらいのときは、建物の二階床下まで埋まっていて2週間引かないぐらいの規模感」。ただ、荒川が洪水を起こした場合どうするか。去年から東京東部低地帯に位置する江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)で協議をはじめた。避難方針を定め、先月公表した』
また、複合災害への対策についても意識しており取り組んでいくつもりだとか、地元に本社のある企業と連携しているとか、100m置に消火器を設置しているのは墨田区が先駆けである、など、たくさんインプットをいただきました。
まとめ
アイデアワークショップ全体は慶應義塾大学大学院SDM 神武直彦さんがコーディネイトされ、短時間にみっちりしたワークでしたが、スムーズに進行していました。
東京都の斎藤さんは「会場は大変な熱気に包まれ、濃密な時間が流れていました。こういうイベントっていいなー、と心から思いました。今回のイベントをきっかけに、ご参加いただいた皆様の間で新たな交流が生まれ、地域のことを考える輪が広がるといいな、と思います。」と語ってくださいました。
参加された方は「問題点を挙げるばかりでなく、それをどう解決できるか知恵を出し合おうという雰囲気に変わっていったのがよかった。」「市民が公共サービスやアプリケーションを考えて提案するって面白い。」と語ってくださいました。
私たちコード・フォー・トウキョウとしても、オープンデータの活用がさらに広まっていくために活用事例を増やしていくべく、活動を続けていきたいと思います。データのフォーマットにもいわゆるベンダーロックが存在するケースがあるようなので、如何に統一したフォーマットを策定していけるか、という環境作りにも。
「オープンデータ」「コード」という言葉の響きは、一般の方にとって自分にとって関係のないものと響いてしまうでしょうから、課題先行、課題自体を打ち出す形で、解決方法を考えよう、と呼びかけるといいと(自分たちへの反省をこめて)考えています。
今回のワークショップはそういう意味でもよかったと思います。今後の東京都のオープンデータへの継続的な取り組みに期待したいと思います。
東京都 - オープンデータ利活用 防災アイデア ワークショップ
以下余談です
グループワークでのアイディアからは漏れてしまいましたが、当日の私個人のアイディアは、
・iRodという長い(最長7.5メートル)一脚を使うとDroneを使わずに動画を擬似空撮できるので、この一脚とビデオカメラの組み合わせてデバイスとし、一脚の手元に中古でいいのでiPhoneをつけておく。
・昔から住んでいる方たちに、発災時には土地勘のない人を誘導する役割を担ってもらうため、このデバイスを配布する。
・発災時には、このデバイスを持ち、視覚的に目立ちながら、多くの人を誘導していただく。
・ビデオカメラで撮影した動画はMapillaryという、投稿した動画がGoogleストリートビューのようになるサイトへ投稿し、その場所の被災の様子がわかるようにする。
・備え付けのiPhoneのアプリから、このデバイスの位置情報と周りに何人ぐらい一緒に避難しているかを報告する。
・アプリからのデータを受け取った行政側で、全体を俯瞰したデータを手に入れ、施策に利用する。
というソリューションを考えてました(発表するタイミングなかったけど)。
まるで参勤交代のようなその様子に、なにか気の利いた名前をつけてあげたかった...。
なかなかの迫力なので動画も見てみてください(ステディカムがついているので滑らかです)。