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ビッグマウスこそ綿密な計算に打ち出された信念。本田圭佑、発言の流儀

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
ビッグマウス。この言葉に惑わされてはいけない本田圭佑の信念と流儀がそこにはある。(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

本田圭佑は自分の流儀がある。それはメディアに対しても同じだ。

彼は自分の発言の影響力、どのように扱われるかを理解した上で言葉を発している。

自分の発言はどのように扱われるか―。

その中には当然、発言の意図まできちんと理解した上でのポジティブな見解だけではなく、時には悪意によって捻じ曲げられるものもある。

しかし、本田は良い面、悪い面すべてを理解した上で、敢えてどう扱われても問題ないと言わんばかりに、時には逆に煽るように強気な発言をする。

それが『ビッグマウス』という言葉に一括りされ、時には面白おかしく扱われる。それでも本田は一切ぶれること無く、平然とした顔で自分の流儀を貫く。

はっきり言って、これが出来る選手はそういない。多くの選手が悪意や意図的にねじ曲げられることを嫌い、言い切る発言や煽るような発言は一切せずに、ありきたりの言葉に終始したり、定型文を組み合わせてやり過ごす。

裏を返せば、こうだからこそ日本代表において本田の発言ばかりが目立つ―。

もう一度言うが、本田はすべて織り込み済みで発言をしている。だからこそ、今回のロシアW杯で本田が「俺はいい。他はやめてくれ」という発言をしたことに繋がっている。

彼の信念を深く理解出来たのは、かつて筆者がロシアのCSKAモスクワの取材に行った際に、彼に「よくビッグマウスとか言われるけど、どういう意図と想いで発言をしているの?」と聞いたときの回答だった。この時、彼はメディア対応に対してこう見解を示していた。

「みんなね、俺の普通のコメントは求めていないんですよ。他の選手と違って、俺の口から『ネタ』になる言葉を求めているんです。それが分かるから、俺も出来るだけ応えようと思っている。囲みの時に俺は囲んでいる人の顔を見ます。それであの人は〇〇新聞の人だな、あの人は雑誌の人だなと把握して、〇〇新聞の人が質問したら、『あ、この人はこういう答えを欲しがってるんやろな』と思って、時には敢えて欲しがっているコメントをして乗っかることもある」。

この回答を聞いて、少なからず衝撃を覚えた。「ここまで周りに目を配って、強気な駆け引きしながら話す選手はそういないな」と思った。

当然そこにはリスクが大きくある。ネタを提供すれば、それが面白いように活用され、自分の意図とは全く違う伝えられ方をし、時にはそれが

素直に『成立したネタ』として読者やファンに伝わるのでなく、『真実』や『本田圭佑の本質』として伝わってしまう。

それは時に人の心を大きく傷つける。本田もこれまで多く傷つけられたことだろう。しかし、それでも彼は発言姿勢を崩さなかった。

筆者が印象的だったのが『ケチャドバ』発言だ。これは2012年のブラジルW杯アジア最終予選のホーム・イラク戦のミックスゾーンで、本田が日本の得点力不足について聞かれたときに、「ゴールはケチャップのようなもの。出ないときは出ないけど、出るときはドバドバ出る」と回答をしたもの。

これが『ケチャドバ』発言として、新聞や多くのメディアで大々的に取り上げられ、見出しとして大きく掲載された。

この表現はまさにメディアが欲しがっていたフレーズだった。ありきたりな定型文のような言葉ではなく、一発で見出しを飾りそうなキャッチーな言葉。

筆者はその発言が飛び出した場にいたが、本田の表情は完全に「欲しがるから言った」という確信的な表情をしていた。

ロシアW杯の直前、そして開幕後も彼はストレートな物言いで、自身が触れた時点で『ネタ化』すること間違いないことでも迷わず言及し、その反応をきちんと受け止めている。

そんな本田がグループリーグ最終戦のポーランド戦のスタメン漏洩の問題で、先陣を切るようにTwitterでこう発言をした。

『メディアの皆さん

ポーランド戦前にスタメンを公表してたけど、練習は非公開やったわけで。。。

真実の追究するポイントがいつもズレてるよ。

選手達も普段、後ろにファンがいるからと思って喋ってるんやから、もうちょっと考えてください。』(原文のまま)

この発言に筆者は本田の本心とぶれない信念の根幹が見えた気がした。まずは日本に不利な情報を流さないで欲しいという懇願は本心であり、信念はこの言葉に隠されていた。

『後ろにファンがいるから』。

この発言は前述したCSKAモスクワ時代の会話でも出ていたフレーズだった。本田はメディアの顔や意図だけでなく、その向こう側にいるサポーター、サッカーファンをしっかりと見つめていた。

例えネタであっても、向こう側の人間が喜んでくれたり、サッカーを話題にしてくれたらいい。本田は相変わらずそこまでの深い意図を持って今も発言を続けている。

日本が躍進し、決勝トーナメント進出を決めたことで、より本田の発言が注目されている。ラウンド16のベルギー戦の結果如何では、さらにその注目度は跳ね上がって行くだろう。

だが、過熱とも言える状況下であっても、彼は冷静に状況を見つめ、綿密な計算に基づいて信念を貫く。

「俺の発言が話題になることは良いこと。議論が巻き起こるのは決してネガティブなことじゃない。ただやり過ごされるより、俺はそっちの方がいい」(本田)。

ロシアW杯が幕を閉じた時、果たして彼の口からどんな発言が飛び出すのか。今から非常に楽しみでならない―。

CSKAモスクワ時代、取材に答える本田圭佑(安藤隆人撮影)
CSKAモスクワ時代、取材に答える本田圭佑(安藤隆人撮影)
サッカージャーナリスト、作家

岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞めて上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作(共同制作含む)15作。白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯27試合取材と日本代表選手の若き日の思い出をまとめたノンフィクッション『ドーハの歓喜』が代表作。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼務。

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