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ドイツ今年の言葉は「光の境界」 ベルリンの壁崩壊25周年を祝う感動のイベントシーンがトップに

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
ブランデンブルク門近くにて。11月9日は入場制限されたにも関わらず、人だかりが

ドイツ今年の言葉(Wort des Jahres)は、「光の境界(リヒトグレンツェLichtgrenze)」に決定。ベルリンの壁崩壊25周年を迎えた今年は、この歴史的出来事を記念して、11月7日から9日まで、同市で大規模なイベントが繰り広げられました。

なかでもハイライトは、壁跡の一部15キロメートルに渡り、光るバルーンを設置して東西分断の証だった壁を可視化したことでしょう。11月9日、光るバルーンが夜空に解き放たれると、壁崩壊に思いを馳せる人々の興奮は最高潮に達しました。(画像はすべて筆者)

選出リストになかった言葉「光の境界」がトップに

ドイツの「今年の言葉」は、流行語や頻繁に使われた言葉ではなく、一年を象徴する語を選出します。毎年12月初旬にドイツ語協会GfdS(Gesellschaft fuer deutsche Sprache e.V.)より発表されます。

2014年の言葉10位は、以下の通りです。

1. 光の境界

2. 借金ゼロ

3. ゲッツェに感謝

4. ロシア理解者

5. 狂気沙汰の国鉄

6. 移民歓迎文化

7. 卵子凍結保存

8. テロリズム観光

9. フリーキックスプレー

10. うつむき世代

ドイツ語協会の審査員によれば、1位に選出された光の境界は、2014年の言葉の最終選定リストには載っていなかったそうです。審査中、光の境界が急遽ノミネートされ、満場一致で今年の言葉に選出されたとのこと。

Licht は光、Grenzeは境界、国境の意味。かって東西ベルリンを分断した壁(全長155キロ)跡の一部に設置された8000個の光るバルーンは、全世界の注目を浴びました。

11月9日夜、ブランデンブルク門前ステージでベートーベン「第9交響曲・歓喜の歌」が演奏されると、バルーンはひとつずつ夜空に解き放たれました。25年前の歴史的な出来事「壁崩壊」と激動の過去を振り返り、中には感極まって涙する人もいたほどです。

寒さも忘れ、夜空に消えていくバルーンを眺める人たち
寒さも忘れ、夜空に消えていくバルーンを眺める人たち

今年の言葉でドイツを知る

2位の借金ゼロ(schwarze Null)は、「新規国債の発行がゼロになる見通し」と述べたショイブレ財務相の見解から発生した言葉です。新規国債発行をせず、予算を組むのは1969年以来のことです。2015年までに公共財政赤字ゼロを目指す同財務相ですが、期間内に達成できる見通しは連邦予算のみで、16州が達成するのはさらに2年を要するという意見も。

2014年の言葉10位中、サッカーに関する語が3位と9位に選出されています。

3位のゲッツェに感謝(Goetz sei Dank)は、サッカーファンならすぐお判りでしょう。由来の言葉は、Gott sei Dank で、もともと神様に感謝、平たく言えば、おかげ様でという意味でしょうか。今夏のFIFAワールドカップ決勝戦で黄金のシュートを果たしたマリオ・ゲッツエ(Mario Goetze)に感謝の気持ちを込めた造語がGoetz sei Dankなのです。ゲッツェのおかげで、ドイツチームは強敵アルゼンチンを倒し、4度目のワールドカップ優勝を果たしたのですから。

また、9位のフリーキックスプレー(Freistossspray)は、FIFAワールドカップで今年の大会から導入された白線を引くスプレーを指します。フリーキック地点10ヤード(9.15メートル)のラインを白線で明確にすることで、フェアなプレイでゲームを進行させることが目的とか。白線は、1分ほどで消えるそうです。

4位ロシア理解者( Russlandversteher)。ウクライナ騒乱が発生してから、ロシアがウクライナ南部のクリミア自治共和国に対して軍事行動を開始。ロシア軍は、クリミア半島の住民投票でロシアへの編入が支持されたとして、編入条約に調印しました。これに対して、欧米は反発しましたが、プーチン大統領は、欧米に理解を求める考えを述べました。このような背景があり、ロシア理解者が選出されたようです。

5位の狂気の国鉄(Bahnsinnig)は、Wahnsinnig からの造語で、狂気のとか、気が変になりそう!という意味でしょうか。ドイツ国鉄(Deutsche Bahn)機関士のストライキのため、交通機関のマヒが利用客を苦しめました。日本と異なり、ドイツでは列車の遅延やストライキは、頻繁にあります。その権利や報酬を求め主張するのはよく理解できますが、利用客は、ストが長く続くとお手上げです。

ドイツ社会を反映した言葉6位から10位

6位移民歓迎文化(Willkommenskultur)。移民の背景を持つ住民は、ドイツ全人口の20%近くです。しかも、年々増加している移民の割合が年々増加するにつれ、ドイツ社会に統合できない移民の言動が問題となっています。今年は、特に内戦状態が激化しているパキスタンやシリアからの避難者/政治的亡命者が増え続けています。無条件で受け入れ態勢を整えることはできるのか、救済逃避者のドイツ国内での同化は可能か、など問題点は限りなくあります。

7位 卵子凍結保存(Social Freezing)。女性の社会進出が進む中、仕事をとるか、子供を産むかの選択に悩むキャリアウーマンたち。米アップル社とフェイスブック社が2015年から社員対象で卵子の冷凍保存資金を支援する福利厚生策が導入されると報道されて、大きな注目を集めました。ドイツでも女性の社会進出が増えるにつれ、健康な独身女性が希望する卵子凍結は、静かなブームを呼んでいるようです。

8位テロリズム観光(Terror-Tourismus)。イスラム過激派の思想に賛同し、イスラム国へ向かう外国人若者たち。ドイツでは、フランス、イギリスに次ぎ欧州圏で3番目に多い国です。

10位うつむき世代 (Generation Kopf unten)。青少年のスマホ利用者は、ドイツでも急増中です。つまり、スマホでゲームやチャットに夢中になる青少年の様子を反映した言葉です。人間同士の会話が減り、孤独な時間を過ごす青少年たちに警告したいようです。議論好きのドイツ人といわれていますが、うつむき世代は、余暇時間の大半をスマホ片手に過ごし、意見交換や議論を学ぶチャンスをおのずからなくしているようで、先行きが懸念されます。

さて、2015年は東西ドイツ統一から25周年記念の年、公的医療保険料金や失業給付金の改定、高齢者増加と介護人への厚遇、育児手当や育児期間における両親の休暇改善などが予定されています。またアウトバーン(高速道路)をはじめ、主要道路で2016年から通行料を徴収する法案が閣議承認されたこともあり、賛否両論の話題は尽きません。

一年後には、ここに挙げた分野から、あるいは今年のように全く想像していなかった分野から、一体どんな2015年を象徴する言葉が選出されるのでしょうか。

取材協力

ドイツ観光局

ベルリン観光局

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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