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全米プロ2日目、ブルックス・ケプカ独走、タイガー・ウッズ予選落ちは「バトンタッチ」を意味している?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ケプカはウッズに憧れ、育った世代の筆頭だ。ウッズに取って代わる王者になれるのか?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 29歳のブルックス・ケプカと43歳のタイガー・ウッズ。全米プロの予選2日間を同組で回った2人の対比は、初日のスタートホールから歴然だった。ティショットをラフに入れたウッズがいきなり乱れてダブルボギー発進したのに対し、ケプカは悠然とバーディー発進。

ウッズのゴルフはドライバーもアイアンもウエッジもパターも、すべて「いいところ無し」で終始し、2オーバー、51位タイと出遅れたのに対し、ケプカのゴルフは「非の打ちどころ無し」でべスページのコースレコードとなる7アンダー、63をマークし、単独首位。初日から2人には9打の差が開いた。

 その流れは2日目も変わらず、ケプカは5アンダー、65で回り、通算12アンダーで単独首位をキープ。だが、ウッズのゴルフは一層悪化し、3オーバー、73、通算5オーバー。カットラインに1打及ばず、予選落ちとなった。

 2日目のウッズは、フェアウエイを捉えたのが、14ホール中、わずか3回。「ここで勝つためにはドライビングがカギになる」と言った開幕前の自身の言葉からは日に日にかけ離れていき、ショートゲームも最初から最後まで冴えずじまいだった。

 予選通過がかかった36ホール目。決勝進出のためにはバーディー獲得がMUSTだった。ようやくフェアウエイを捉え、チャンスありだとファンは固唾を飲んで見守った。しかし、フェアウエイのグッドライからのわずか113ヤードのウエッジショットでグリーンを捉えることができず、第3打のチップインは実現されずはずもなく、1打差で予選落ちとなった。

「残念だ。あまりにもミスが多すぎた。求められる小さな1つ1つが、できなかった」

 辛うじて交えたウッズの笑顔が、逆に悲壮感を醸し出していた。そして、黄金時代のウッズなら絶対に口にしなかったような胸の中の正直な思いを、素直にそのまま口にしたウッズの姿に、少しだけ淋しさも漂っていた。

「再びマスターズチャンピオンになれたことを喜んでいたが、この全米プロで、あっという間に反転してしまった。うまくプレーできなかった。残念だ」

【ウッズへの声援を自分の糧に!?】

 そんなウッズの一打一打、一挙一動をつぶさに見ていたのが、ケプカだった。

 振り返れば、昨年の全米プロではウッズとケプカが勝利を競い合い、勝利したのはケプカで、ウッズは2位だった。

 

 あのときケプカは、ウッズファンの熱い声援を聞きながら、自身が初めて全英オープン観戦に行って地響きがするようなウッズコールを体で味わった幼少時代に想いを馳せたと言っていた。

「タイガーのように大勢から熱く応援してもらえる選手になりたいと思った。それが僕のモチベーションになった」

 

 そう、あのときケプカ少年は、ウッズファンのパワーとエネルギーを採り入れ、自身の糧にした。

 そして今週の全米プロでは、ケプカが首位を独走しているとはいえ、予選2日間、ケプカの周囲に付いて歩いていたギャラリーの大群の大半は、ケプカではなくウッズ見たさで詰め寄せた人々だった。

「タイガーのファンがもたらすエナジーを楽しんだよ。とりわけ、自分がいいプレーができているときは、一層楽しめる」

 人々がウッズに送る声援をウッズとともに回っていたケプカが楽しみ、ウッズファンがもたらすエネルギーをケプカが自身の力へ変えていく。それは、ケプカが幼少時代も今も無意識に行なっているパワーアップの秘策と言えるだろう。

 

 その昔、ウッズの黄金時代に居合わせた他選手たちは、ウッズと優勝争いになった際、ウッズファンの声援に集中力をそがれたり、邪魔に感じたりすることしばしばだったが、ウッズファンがもたらすエネルギーを楽しんで糧にしたという話は聞いたことが無かった。

 それができること、そうすることでウッズを上回り、勝つことさえできるのは、時代の違いと言うべきか、世代の違いと呼ぶべきか。「隔世の感」と言っても過言ではない。

【メジャー、あと12勝?】

 ウッズに憧れ、ウッズに感化され、そうやってプロになった世代が、今、世界のゴルフ界の牽引役になりつつある。ケプカは、その筆頭だ。2017年と2018年の2年間、合計8つのメジャー大会で3勝を挙げた彼のメジャー勝率37.5%は恐るべき数字だ。

 米メディアは、あえて2017年のマスターズをカウントに入れず、同年の全米オープンから昨年の全米プロまでの「過去7つのメジャー」でケプカは「3勝している」という表現を用いている。これだとケプカのメジャー勝率は42.8%ということになる。

 同様にウッズの絶頂期のある一時期を切り取れば、その勝率はさらに高かったことになるのだが、いずれにしても、今、ケプカがかつての「無敵のウッズ」に近づきつつあることは事実。

 米メディアは早くも「王者交代?」「バトンタッチ?」なんて質問をストレートにケプカに投げかけている。問われたケプカも、まんざらではない表情で、即座にこう返答していた。

「あと11勝、いや12勝は必要だ」

 すでにメジャー3勝。あと12勝したらメジャー15勝となり、4月のマスターズを制したばかりのウッズのそれと並ぶ。

 残念ながら、ケプカの「エネルギー源」となりうるウッズは今週はもう姿を消してしまったが、すでにウッズファンが持ってきたエネルギーを存分に採り入れて備蓄したケプカが、メジャー4勝目を挙げる可能性は、どんどん高まりつつある――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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