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畑岡奈紗との一騎打ちを制し、全米女子オープン初制覇。19歳のメジャー・チャンプ、笹生優花の勝ちっぷり

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

「よろしくお願いします」

「タイトリストです」

 そんな日本語がメジャー大会のプレーオフの始まりに聞こえてきたことは、信じられないような現実だった。

 米女子ゴルフの最高峰、全米女子オープン最終日、優勝争いはサドンデス・プレーオフへもつれ込んだ。そのプレーオフを戦おうとしていたのは、共に通算4アンダーでフィニッシュした畑岡奈紗と笹生優花だった。

 22歳の畑岡は米女子ツアーを主戦場としており、すでに米ツアーでは3勝、日本でも5勝を挙げている。

 19歳の笹生は2019年に日本ツアーでプロテストに合格し、2020年に2勝を挙げたばかりで、米ツアーではもちろん未勝利。

 そんな2人が、メジャー大会で激突したことは大きな驚きだった。

 プレーオフは9番、18番、9番の順に進んでいった。その3ホール目で2メートルのバーディーパットを沈めた笹生が勝利。彼女がメジャー初制覇、そして米ツアー初優勝に至った道程も、まさに大きな驚きの連続だった。

【終盤、猛チャージ】

 最終日。首位のレクシー・トンプソンから1打差の2位でスタートした笹生は、序盤から大きく躓いた。2番、3番で連続ダブルボギーを喫し、首位との差はどんどん開いていった。

 7番で1つ奪い返したものの、折り返し後の11番でボギーを喫し、またしても後退。笹生の勝利は遠のいたかに見えた。そう、このとき笹生は劣勢だった。

 いつしか、後半に猛チャージをかけ始めた畑岡に追い抜かれた。畑岡は13,14、16番でバーディーを奪い、この日、スコアを3つ伸ばして通算4アンダーでホールアウト。

 一方、単独首位でスタートしたトンプソンは、前半で1つ伸ばしたものの、後半は大きく崩れ始め、17番でもボギーを喫して通算4アンダーへ後退。

 そんなトンプソンとは対照的に、今度は16番でバーディーを奪った笹生が17番でもバーディーを奪ってチャージをかけ、通算4アンダーとして畑岡、トンプソンと並んだ。

 そして最終ホールの18番。トンプソンがボギーを喫し、通算3アンダーとして脱落。18番をパーで切り抜けた笹生とすでにフィニッシュしていた畑岡が、ともに通算4アンダーでプレーオフへもつれ込んだ。

【ピンチをチャンスへ】

 プレーオフ1ホール目の9番は、2人とも、ほぼ互角なプレーで、ともにパー。

 2ホール目の18番。笹生はフェアウエイからピン上5メートルへ付けたが、畑岡は右カラーへ外した。この時点では笹生が優勢、畑岡は劣勢だった。

 しかし、先に畑岡がパーセーブすると、笹生はバーディーパットを入れに行った結果、1.2メートルもオーバーさせ、一転して劣勢になった。しかし、返しのパーパットをしっかり沈め、ピンチを跳ね返した。

 3ホール目の9番。畑岡が見事にフェアウエイを捉えると、笹生は左ラフにつかまり、またしても劣勢。だが、今週4日間、ラフから見事なリカバリーを何度も見せてきた笹生は、大詰めの最も大事なこの場面でもラフからピン下2メートルにピタリと付け、ピンチをチャンスへ変えた。

 フェアウエイを捉えていた畑岡は、逆に第2打をピンそばに付けられず、バーディーパットを沈めることができなかった。

 最後は笹生が、自ら作り出した優勢をそのまま生かし、バーディーパットを沈めてメジャー初制覇を達成。19歳11か月7日でのメジャー優勝は史上最年少記録に並んだ。若いとはいえ、彼女のゴルフに未熟さは感じられず、むしろ堂々としたプレーぶりは圧巻だった。

【世界が沸いた日】

 笹生は日本でお馴染みの日本人選手だが、今大会はフィリピン国籍でエントリーしている。

 2016年にフィリピンの女子ツアーを14歳のアマチュアにして初制覇し、2018年、2019年はフィリピン女子オープンを連覇。同年、日本の女子ツアーでプロテストに合格し、2020年に2勝を挙げた。

 憧れはタイガー・ウッズとローリー・マキロイ。マキロイのスイング動画を範として何度も眺めてから就寝していたそうで、いつしかマキロイとそっくりになった笹生のスイングが、今大会では大きな話題になっていた。

 マキロイ本人からも「優勝トロフィを是非とも手に入れてね。東京五輪でメジャー・チャンプになったキミと会えるのを楽しみにしている」というメッセージをもらっていた。

 しかし、最終日は出だしから躓き、「正直、とても焦りました。でもキャディから、まだ残りホールはたくさんあると励まされ、自分のゴルフをすることに努めました」。

 パー5の17番は「2オンできるのでチャンスだと思っていました」。狙って奪ったバーディーは、笹生の強靭な精神と精緻な技術、その両方を物語っていた。

 72ホール目を終え、プレーオフ進出を決めたあとは「胃が痛かった」と明かしたが、前半から大きく劣勢に回りながらも終盤の追撃でプレーオフへ持ち込み、プレーオフでもピンチをチャンスへ変え、何度も劣勢を優勢へ変え、そうやって我慢に我慢を重ねた末にもぎ取った勝利だった。

「ここでプレーできるだけでもありがたいと思っていたので、勝てたことは信じられない、、、、」

 スピーチは、すべて英語。そこまで言ったら、嬉し涙が込み上げ、言葉に詰まった。

「スポンサーのみなさん、ファンのみなさん、フィリピンとジャパンのみなさん、ありがとうございます。もっといい選手になれるように、もっと頑張ります」

 「無欲」と「感謝」と「忍耐」が笹生を勝利へ導いた。会釈を交えながらトロフィーを掲げる姿が愛らしかった。初々しいメジャー・チャンピオンの誕生に、フィリピン、日本、アメリカ、いや世界のゴルフ界が沸いた日だった。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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