世代間格差が生じている慣用句の意味のとらえ方
世代で異なる慣用句の意味
少なからぬ慣用句が従来とは別の意味で使われ、語り手と受け手との間に意志の齟齬を生じさせる引き金となっている。その「慣用句の意味」のとらえ方は世代で大きく異なり、それが世代間のギャップとなる可能性が生じている。2014年9月に文化庁が発表した「国語に関する世論調査の結果」の結果からも、その実情が垣間見れる値を確認することができる。
この調査によると6つの慣用句「他山の石」「世間ずれ」「煮詰まる」「天地無用」「やぶさかでない」「まんじりともせず」のうち、本来の意味で使っている人の割合が多いのは「他山の石」「煮詰まる」「天地無用」の3つのみ。残り3つは本来の意味で無い方を認識していた。また「他山の石」も「内容が分からない」とする意見がもっとも多いとの結果が出ている。
これらの慣用句における、本来の意味での回答率を回答世代別に記したのが次のグラフ。
慣用句の由来から考え直すと、年上ほど本来の意味を知っている、理解しているようなイメージがある。事実「世間ずれ」「まんじりともせず」はその通り。ところが「他山の石」は世代別の変移は特に無く、「煮詰まる」は高齢者ほど本来の意味では使っていない。また「天地無用」「やぶさかでない」は中堅層がもっとも多くの割合で本来の意味での使用をしており、若年層と高齢層は低めの値が出る、説明がし難い動きをしている。
慣用句はあくまでも「慣用」の「句」。コミュニティにおける共通認識としての造語。濃い趣味のグループ内における専門的な用語、あるいは隠語、ネットスラングのようなもので、唯一無比の回答は無い。「天地無用」「やぶさかでない」のように世代の中間部分で変移が生じているのはともかく、「世間ずれ」「まんじりともせず」のような、時代の流れに伴い本来の意味では使われなくなりつつある言葉は、あと数十年もすると今の若年層が用いている意味こそが、「本来の意味」として伝えられるようになるのだろう。
「分からない」の回答率の違い
一方、提示した慣用句に対して「分からない」とする回答率も、興味をそそる動向を見せている。
「他山の石」で「分からない」の回答率は歳を経るほど高くなり、70歳以上ではほぼ4割。「煮詰まる」「天地無用」などでも歳を重ねるほど値が高く、世間一般のイメージ「歳を経ている人の方が慣用句を良く知り、使っている」とは大きく異なる結果が出ている。
いずれにせよ、これら代表的な慣用句でも、世代差がある中で用いると意味を違えてしまう、聞き手側が語り手側の意図を理解できない状態が生じ得る。例えば上司が「天地無用」を指示して若年層の部下が意味をはき違えて解釈すると、悲劇が起きてしまうことになる。
重要な判断となりうる場面などでは、解釈の違いが生じ得る慣用句は用いない方が無難なようだ。
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