【東京都杉並区】オリンピック選手とも関係が深い!?下町的な雰囲気の知る人ぞ知る寿司屋が荻窪にあった。
『寿司 魚くま』
JR荻窪駅西口(北側)から線路沿いに西荻窪方向に向かい、環八を越えた先にある上荻本町通りに出ると、住宅と住宅に挟まれるようにひっそりと佇む寿司屋『魚くま』(うおくま)にたどり着く。昔ながらの下町の風情を残す一軒家の店先に立つと、まるでどこか地方の街にでも迷い込んだような不思議な感覚にとらわれてしまう。
三代目店主の成瀬雅人さんは、銀座の懐石料理店での修業を経た後に独立し、母親のひろ子さんと二人三脚で店を切り盛りしている。親子の温厚な人柄も相まってだろう、店内はいつもアットホームな空気に包まれている。
ただし、なにせカウンター8席のみという小さな寿司屋である。以前は予約がまったく出来なかったせいもあって、「行ってみて入れたら今日の運勢がいい」「地元住民が有利な幻の寿司屋」などと皮肉られたこともあった。
コロナ禍以降は、完全予約の二部制に変更したのが功を奏し、今では誰もが気兼ねなく入店できるようになった。「諦めて引き返す心配が無くなったと聞いて、若い人たちも多く来てくれるようになりましたね〜」と、成瀬さんは顔をほころばせる。
店内に入ると、正面の壁には、どこかで見覚えのあるユニフォームが飾られている。
『東京2020オリンピック』のバトミントン混合ダブルスで、銅メダルを獲得した渡辺勇大(ゆうた)さんが実際に着ていたものなのだそう。そう、あの「ワタガシペア」である!
実は、成瀬さんと勇大さんは伯父と甥の関係にある。まだ「知る人ぞ知る」裏情報かもしれないが、いつか『魚くま』が、バトミントン選手たちの聖地になる日が来るかもしれない。
中央は、テレビ局のインタビュー取材で店を訪れた、同じく元・オリンピック金メダル選手の高橋尚子さん。他にも有名バトミントン選手の来店写真がたくさん飾られている。
毎朝、豊洲市場に通って仕入れるという、その日の新鮮なネタが黒板に並ぶ。「あれも食べたい、これも食べたい」と、間違いなく目移りしてしまうだろう。
地酒の種類も豊富に揃えている。日本酒好きなら12種類の中から選べる3種類の呑み比べセット(1100円)がおすすめだ。運が良ければ『十四代』や『飛露喜』など、一杯取りはできない希少な銘酒が含まれる日もある。
この日のツマミ第一弾は、牡蠣や赤貝、つぶ貝などの「貝の盛り合わせ」(時価)から開始。コリコリとした食感で、どれもたまらなく旨い。
ツマミ第二弾は、他の貝と脂ののったサバと小肌を追加する。とにかく一切れが大きく、盛り付け方も豪快だ。ツマミがメインになりすぎて、〆の握りが二〜三貫という日も・・・。
もちろん握り寿司は一貫ずつ頼んでも構わないが、まとめて食べたい派は「にぎり11貫(松)」(3500円)、「にぎり10貫(竹)」(2800円)、「にぎり9貫(梅)」(2000円)がチョイスできる。それぞれに玉子焼きがサービスで付くのが嬉しい。
サイドメニューの充実ぶりにも目が離せない。「カニクリームコロッケ」(800円)などは寿司屋とは思えないほどのグレードの高さなので、一度は試していただきたい。
かつては多くの店が軒先を並べて賑わったであろう商店街の飲食店も、現在はほんの数軒を数えるほどに減ってしまった。『魚くま』は、鮮魚と仕出しを中心とした魚屋時代から数えて、今年で創業90年を迎えるという。
「いいネタを安く提供する」ことにおいて、『魚くま』は寿司屋の王道を行く大衆店だ。毎回、散々食べて呑んだつもりでいても、勘定はいつもいい意味でこちらの予想を裏切ってくれる。
常連同士でも一見客同士であっても、まるでバトミントンのロングラリーのように会話の応酬が途切れない和やかな雰囲気に、今宵もどっぷりと酔い浸ってしまった。
さてさて、今宵も大満足。ご馳走様!