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中国東北部の経済発展を阻む北朝鮮――中国の本音

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中朝の分岐点――中朝国境友誼橋(写真:ロイター/アフロ)

中国東北部の経済成長が滞っているのは、海に抜ける東側を北朝鮮に遮られているからだという不満が中国に渦巻いている。民間貿易は国境付近だけで、それも制限されれば庶民は南下し東北部はさらにさびれるだろう。

◆東北部の経済の全国比と衰退する理由

2015年上半期における中国東北三省のGDP成長率は「吉林省6.1%」、「黒竜江省5.1%」、「遼寧省2.6%」と全国ランキングからいくとそれぞれ最後から1番目、2番目、3番目という、非常に不名誉なものだった。全国平均7%をひとり引き下げているのは東北三省であると中国人は嘆いている。

2015年上半期における東北三省の財政収入変動に関しても、前年度同期の変動が全国平均6.6%増に対して、

遼寧省  : -22.7%

黒竜江省 : -19%

吉林省  : +0.9%

と、軒並みに異常なほど低い。

個人の平均年収も、全国平均が49,969元であるのに対し

東部地域:64,239元

西部地域:51,204元

中部地域:46,828元

東北地域:46,512元

と低い。失業率も全国平均より2%高く、結果、東北の労働人口は北京、天津、河北省や山東省へと流れていき、東北部の過疎化とともに少子高齢化が極端に進んでいる。

その原因としては、もともと石炭などの資源地域であったことと、それに伴う重工業が盛んで、改革開放前の「国営企業」の占有率が高かったため、資源の枯渇とともに改革開放を伸びやかに発展させていけないことなどがある。

それ以上に決定的なのが、北朝鮮の存在だ。

◆改革開放を阻む北朝鮮の「鎖国」

東北部の経済発展が改革開放に見合って伸びていかないのは、ひとえに岩盤のように立ちはだかっている北朝鮮が鎖国しているからだと、中国庶民の北朝鮮への恨みは大きい。

もし北朝鮮が改革開放を推進して、南の「深セン」のような役割を果たしてくれれば、東北経済は日中韓貿易の拠点になり、東北地方は一気に大きな経済成長を遂げるだろうと、中国の多くのメディアが北朝鮮への不満をぶちまけている。

金正恩の父親・金正日は、晩年、中国の呼びかけに応じて改革開放に乗り出そうとしたが、金正恩になってからは閉ざす方向にしか動いていない。

まず、庶民側の声を見てみよう。

中国政府寄りの香港メディア「鳳凰網」に「中国はアメリカより先に絶対に(北)朝鮮をやっつければならない」とするブログを載せている(作者:余以為)。

そこには以下のような激しい言葉が書いてある。

――北朝鮮は東北アジアの中心にあり、日韓が海路を通して中国や世界と交易をできる場所にありながら、中国の東北部は北朝鮮のために、まるで「内陸」のような位置づけになっている。これこそが、東北部に経済不振をもたらしている最大の原因であり、労働人口が(南に)流出する最大の原因だ。北朝鮮問題を解決しない限り、中国がどんなに「東北振興」戦略に金を注いだところで無駄になるだけだ。

――改革開放以来、中国経済が「南強北弱」となっているのは、北朝鮮が鎖国を続けているからに他ならない。そこでブロックされてしまっている。

――ソ連崩壊後、ベトナムは中国を「兄貴分」と思っているが、北朝鮮は中国を兄貴分とは思っていない。核武器を発展させて、「アメリカの弟分になろうとしている」のだ!

――アメリカが北朝鮮をやっつけて「弟分」にさせてしまう前に、中国が一刻も早く北朝鮮をやっつけて、中朝市場の一体化を推進しなければならない。そうすれば韓国だって喜ぶし、東北一帯は朝鮮半島を一体化して一気に経済発展を遂げるだろう。

――日本が東北部に「偽満州国」を樹立していたとき、実は東北部の経済は発展し、日本本国の経済成長をも上回っていた。その理由は決して日本人が優秀だったからではなく、「日韓満」という三つの地域の市場が統一されて相乗効果を上げていたからだ。北朝鮮の鎖国が、がいかに東北経済発展を阻害する岸壁となっているかが分かるだろう。

――だから、アメリカに持っていかれる前に、どんなことがあっても中国は先に北朝鮮の金王朝をやっつけなければならない。(1979年に中越戦争を起こした)トウ小平の勇気に学べ! アメリカが北朝鮮と戦うか否かに関係なく、今こそ北朝鮮(金王朝)をやっつけるチャンスだ。この機を逃すな!

これほどまでに激しい声が中国庶民の中にはある。

庶民だけではない。中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」も黙っていない。

◆朝鮮半島で戦争が起きても「抗美援朝」の再演はもうない

「抗美援朝」とは、朝鮮戦争時代に中国が中国人民志願軍を結成して北朝鮮に派兵したときの、「アメリカに抵抗し北朝鮮を支援しよう」という意味のスローガンである。

環球時報は「朝鮮半島で戦争が起きても“抗美援朝”は再演されない」という労木氏の評論を載せている(2016年2月17日)。それが数多くのウェブサイトに転載されている。

労木氏は、おおむね以下のようなことを書いている。

1. 北朝鮮の行動は、アメリカが2020年までに兵力の60%をアジア太平洋に配備するという計画を助長し、その時期を早めている。北朝鮮の挙動は中国を威嚇することはあっても、アメリカには利益をもたらしているだけだ。

2. 北朝鮮が中国国境付近に核施設を設置しているのは、実は下心がある。北朝鮮の核施設の性能は低いので核漏洩(放射能汚染)の危険性が大きい。中国東北部には大きな脅威となる。それもあって中国は北朝鮮の非核化を必死になって叫んでいるのだが、北はどうしても言うことを聞かない。もし核開発を続けるというのなら、各施設を平壌付近に移動させてくれ。中国はもうこれ以上、すぐ隣に核の谷を作るような北の核政策を容認することはできない。

3. 中韓関係の離間工作に関して米朝は「同床異夢」ならぬ「異床同夢」を見ているのだ。目的は同じで、手段が違うだけ。アメリカは遥か遠くにいて自分は放射能汚染の危害に合わないので、平気で北朝鮮をけし掛けている。犠牲になるのは中国なのだ。

4. 民意調査を見てみろ。どれだけ多くの人民が北朝鮮を嫌っているか。北朝鮮よ、中国の安全を脅かすのはいい加減にしてくれ。もし朝鮮半島で戦争が起きても、二度と再び「抗美援朝」が再演されるとは思うな。

おおむね、以上のような論評だ。環球時報が載せたということは、中国共産党がそう考えているという何よりの証拠だ。これが中国政府の本音だろう。

事実、ネットでは96%のユーザーが北朝鮮を嫌っているというデータもある。

このたび中国は安保理による北朝鮮制裁決議に賛同の意を表しているが、北朝鮮との間の中朝国境貿易が制限あるいは完全に遮断されたときに何が起き得るのかを、これらの評論は示唆しているように思われる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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