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「必ず元気な姿をお見せします!」糖尿病で右腕を失った佐野慈紀氏が現在の心境を語る

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
右腕を失い現在の心境を語ってくれた佐野慈紀氏(筆者撮影)

 糖尿病による感染症拡大のため、今年5月1日に右腕の切断手術を受けたことを自身のブログで報告していた佐野慈紀氏が、ほぼ3年にわたる長期入院生活を終え8月20日に退院した。野球人生を支えてきた右腕を失った後も、いつものように前向きに生きている佐野氏に現在の心境を語ってもらった。

──8月20日に退院され、現在はどのような日々を過ごしているのか。

「久しぶりに病院を離れてみて、すっかり体力が落ちてしまったことを痛感しています。現在も週3回透析を受けているのですが、それ以外は1日も早く日常生活を送れるように、リハビリやトレーニングをするようにしています。

日々生活していく中でまだまだできないことが多いので、それに戸惑っている感じです。まだ漠然とした日々を過ごしていますね」

──日常生活を取り戻すまで時間を要しそうか。

「いずれにせよ生活の基盤をつくっていかねばならないので多少焦りはあるんですけど、今はその準備をしているところです。ただ今は長時間出歩くことができないので少しずつ進んでいくしかないです。

まず体力を回復させることが大前提なので、そろそろ本格的にトレーニングを再開しようとも思っています。透析のない日の午前中にトレーニングをして、午後はなるべく行動していけるようなルーティーンをつくっていきたいです」

──ご自身の中で右腕を失ったという事実を受け入れることができたのか。

「正直に言えば、今も受け入れていないですし、今後も受け入れることはできないと思います。

ただこうなった以上は、どうしようもないことです。自分としてはこれまでの野球人生同様に強がり続けていくだけです。それと今後さらにできないことがたくさん出てくると思うので、絶対にネガティブにならないようにしたいです。

それが自分にとって一つの支えになっているので、ある意味自分の中で受け入れられているのかもしれません」

──強がりこそ長年プロ野球選手として活躍してきた佐野氏の人生そのものではないか。

「そうですね。強がる姿勢を失ってしまうと、ボロボロになってしまうと思います(笑)。

誰かを頼って泣きつくこともできないです。とにかく前を向いていくしかないですからね」

──自身のブログで左投げに挑戦すると表明している。

「まだ正式発表されたわけではないんですけど、毎年お世話になっている学童軟式野球のポップアスリートカップ全国大会で、始球式を務められればと考えています。そこで左投げをお披露目したいです。

全国大会は12月に実施されるので、それまでにしっかり準備していきたいです。とりあえず9月中旬くらいから左投げの練習を始められればと思います。ただ下半身の衰えが激しいので、座り投げから始めるのがいいかもしれないですね。

まずはポップアスリートカップでの始球式を目指していきますが、その後も自分を呼んでくれる場所があるのなら、積極的に参加して左投げを披露していきたいです。

また始球式に止まることなく、いつかはキャッチボールもできるようになりたいですし。最終的に野球教室などの活動も再開できるようになれるという期待があります」

──他に何かチャレンジしたいことはあるか。

「まだ詳細について確認していないのですが、知人から教えてもらったところでは、障害者スポーツの中にソフトボール投げという競技があるということでした。

その世界記録が50メートルくらいらしく。ちょっと興味を持っています。後で詳しい内容を確認するつもりですが、世界記録に挑戦するのも面白いですよね」

──最近のブログでは常に糖尿病の恐ろしさを伝えようとしている。

「自分の中でどのようなことができるのか、まだ具体的になっていないのですが、自分がこういう立場になって糖尿病の恐さを人に伝えることができるのではと思っています。

現在のようにブログを書くなどして啓蒙活動を続けていくことで誰かの力になれるのであれば、人前に立つこともやぶさかではないですし、しっかりサポートを受けられていない人たちを手助けできたりしないかと考えています。

今後いろいろ調べていくつもりですが、基金やボランティア活動などが存在しているのであれば積極的に参加したいです」

──最後に人々に伝えたいメッセージはあるか。

「まず一つ言えることは、元気です(笑)。それだけです。そして必ず皆さんの前で元気な姿をお見せします」

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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