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ACジャパンのCM出演でも注目。カナダ出身の落語家・桂三輝がコロナ禍で示す“世界を笑いで繋ぐ方法”

中西正男芸能記者
ニューヨークを拠点に活動する落語家・桂三輝(写真・田村充、桂三輝提供)

 ACジャパンのCMでも注目されたカナダ出身の落語家・桂三輝さん(50)。2008年に桂三枝(現・文枝)さんに弟子入りし、これまでワールドツアーとして13カ国で英語落語を披露、米・ニューヨークを拠点に活動しています。新型コロナウイルスの感染拡大で日本のみならず各国に閉塞感が漂う中ですが、世界中を笑わせてきた経験をもとに、今あるべきエンターテインメントについて言葉に力を込めました。

ニューヨークもロンドンも休演

 基本的にはニューヨークで活動しています。と言いますのも、去年9月19日からブロードウエーで英語落語のロングラン公演が始まりまして、予定では少なくとも今年の9月までは続くはずだったんです。

 ただ、ブロードウエー自体が3月12日から休演になりまして。私の公演ももちろんできなくなって、1カ月ほど前から日本に戻ってきました。

 ブロードウエーでの公演は毎週木曜と土曜の午後8時からだったので、それ以外の曜日は動くことができる。なので、空いた日に、バッファロー、シアトル、ロサンゼルス、メンフィスなどいろいろな北米の街をまわる予定にもなってました。それと、4月からロンドンのウエスト・エンドでの英語落語公演も並行してさせてもらう予定だったんです。でも、それらもコロナで全部なくなりました。

 ブロードウエーの会は毎回2席やって、月ごとに違うテーマを決めているんです。最初は古典落語から始まって、11月は怪談話。12月はクリスマスがあるから子どもが喜ぶようなファミリー落語。1月は大人が喜ぶような下ネタありのアダルト落語。2月はバレンタインがあるからロマンチック落語とか。

 そうやって9月までの流れを考えていて、一応、6月20日に再開予定ということになってるんですけど、そこでスタートするのは極めて難しそうな状況になってしまっています。

今こそやるべきこと

 でも、落ち込んでいても仕方ない。なので、ブロードウエー公演がなくなってから、YouTubeやSNSを使って生配信を始めました。

 毎週木曜と土曜、本来ニューヨークで会をやっていたはずの現地時間午後8時から生配信。同じく木曜、土曜、日本時間の午後8時から日本語で日本向けの生配信もしています。

 生配信の良いところは、お客さまがコメントを書き込んでくれます。「あの噺をやって」とか「あのマクラやって」とかリクエストもいただけますし「やっと三輝の落語を聞けたよ」「これを待ってた!」とか言っていただくと本当にうれしいです。

 ブロードウエーの舞台に出ても、ここまでお客さまからのコメントはリアルタイムに受け取れないから(笑)。これはこれで、とても意味のあることだと思っています。

 見てくださっている方から落語について、日本の文化について、面白い質問も来ます。一つの質問だけで30分くらい話せるくらい。そんなことも、いつか落ち着いた時のネタになるから、ネタ帳がすごい勢いで増えてます(笑)。

リモート取材で思いを語る桂三輝(4月24日取材)
リモート取材で思いを語る桂三輝(4月24日取材)

世界中の人が先生

 あと、こんな時こそと思って、中国語も勉強してまして。以前から、中国のSNSであるWeibo(ウエイボー)もやっていて、いつか、中国語落語もできたらとは考えていたんです。

 そんな中、このコロナで世界中の皆さんがふさぎ込んだ状態になってしまった。そこで4月21日から新しい企画を始めたんです。

 中国語用の私のYouTubeチャンネルとWeiboに中国語に訳した小咄をアップしました。私が中国語で小咄をしているのですけど、それはどなたか先生から学んだのではなく、自動翻訳のツールを使って自分で訳したものを覚えてやっているんです。

 「ちょっと聞いた?隣のおばちゃん、コケて、顔大けがしたんやって」

 「そうなの?お気の毒ねぇ」

 「でも、すごい名医さんが手術して、顔が完全に戻ったんやって」

 「そうなの?お気の毒ねぇ」

 日本語で言うと、こんな感じなんですけど、これを中国語にします。自動翻訳もすごく進歩してますけど、それでも不自然な言い回しとかもあります。それも含めて動画の中で伝えています。

 「この小咄は私が自動翻訳ツールを使って作ったんですけど、多分おかしなところもあると思います。なので、皆さん、よろしければ正しい中国語をコメント欄で教えてください」と。

 すると、皆さん、本当に親切に教えてくれるんです!笑いがベースにあるから「こういう言い方は中国人はしないんだよ」とすごく優しく、フレンドリーに教えてくれるんです。

 教えてくださったものをもとに、もう一回、小咄を作り直して「皆さんから教わって、作り直してみました。皆さま、ありがとうございました!良くなったでしょうか?」と再度修正版をアップする。

 少し前から、クラウドファンディングというのはありますけど、これは皆さんのお気持ちで学ぶクラウドラーニングです(笑)。世界中の中国の人が私の先生になってくれます。私もうれしいし、それを楽しんでくれる人がたくさんいるのも本当にうれしいです。

 思わぬ発見もありますしね。自分では私の中国語はどう聞こえるか分からない。でも、中国の人からすると「あなたの中国語のなまりは、半分日本人。半分ヨーロッパ人です」だと。カナダは一つも入ってないんかい!と(笑)。今は皆さんからの声をもとに修正版の台本を作って、一生懸命覚えているところです。でも、50歳だから、もうそんなに早くは覚えられないけど(笑)。

せめてプラスを残さないと

 また世の中が戻った時にも、この期間に始めたものはプラスとして続けたいです。新しいことを始めるのは時間かかりますし、大変です。でも、今回、コロナのことがあって、みんな本当に大変だから、否応なく、一歩を踏み出さざるをえなくなったところもある。

 私はその結果、いろいろな人とSNSを通じてつながることができました。そこでせっかく生まれたものは続けていきたい。こんな中ですけど、せめて、プラスを残さないと。

 師匠(桂文枝)にも日本に帰ってきた時に、もちろん連絡させてもらいました。本当だったら、ちゃんとご挨拶にあがるべきところなんですけど、コロナなので、電話でとなりましたけど。

 無事に日本に戻ってこられたことをすごく喜んでくれました。あと、ニューヨーク公演のこともすごく気にかけてくださっていて、これからどうしていくのかという今後の話にもなりました。

 でも、そういう話はしっかり会ってお伝えした方がいいので、それは直接お会いした時にと話しました。SNSやリモートは便利ですけど、大事な話は、目を見て話をしないといけませんので(笑)。

■桂三輝(かつら・さんしゃいん)

1970年4月6日生まれ。カナダ・トロント出身。本名はグレイグ・ロービック。吉本興業所属。トロント大学で古典演劇を専攻し、大学院在学中からロングランヒットのミュージカルを手掛ける。能と歌舞伎に興味を抱き、99年に来日。2003 年からアコーディオン漫談や英語落語の活動を始める。07年、大阪芸術大学大学院芸術研究科に入学し、落語を研究。08年、桂三枝(現・文枝)に弟子入りし桂三輝と命名される。14年から英語落語のワールドツアーを始め13カ国を巡る。昨年9月からニューヨークのオフブロードウェイにある劇場「ニュー・ワールド・ステージ」で落語のロングラン公演を開始。昨年からACジャパンのCMにも出演し注目を集める。先月、著書「桂三輝の英語落語」を上梓した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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