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アトピー性皮膚炎の最新治療薬ウパダシチニブ - 日本人患者における長期的な安全性と有効性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎とは?症状や原因を解説】

アトピー性皮膚炎は、慢性的に経過する炎症性の皮膚疾患です。主な症状は、湿疹(赤み、腫れ、かさつき、浸出液など)と、強い痒みです。症状が長期間続くことで、患者さんのQOL(生活の質)は大きく損なわれてしまいます。アトピー性皮膚炎は世界中で見られる疾患ですが、特にアジア人に多いことが知られています。日本では子どもの5~30%、大人の2~10%が罹患していると推定されています。

アトピー性皮膚炎の原因は複雑で、まだ完全には解明されていませんが、遺伝的な要因、環境因子、免疫システムの異常などが複雑に絡み合っていると考えられています。アトピー性皮膚炎の患者さんでは、皮膚のバリア機能が低下しているため、刺激物質やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が皮膚の中に侵入しやすくなっています。侵入した刺激物質やアレルゲンに対して、免疫システムが過剰に反応することで、炎症が引き起こされるのです。

皮膚バリア機能の低下には、フィラグリンという蛋白質の異常が関与していることが分かっています。フィラグリンは角層(皮膚の最も外側の層)の形成に重要な役割を果たしており、これが欠損または減少すると、皮膚からの水分蒸散が増加し、外部からの刺激物質の侵入を許しやすくなってしまいます。また、掻破行動によって生じる皮膚の傷も、バリア機能をさらに悪化させる要因となります。

【ウパダシチニブという治療薬の特徴】

ウパダシチニブは、比較的新しいタイプの内服薬で、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬と呼ばれるグループに属します。JAKは、細胞内のシグナル伝達に関わる酵素で、特に免疫反応の調節に重要な役割を果たしています。ウパダシチニブは、JAKの中でもJAK1に対して選択的に作用することで、過剰な免疫反応を抑え、炎症を鎮めることが期待されています。

ウパダシチニブは、2021年8月に日本で承認された比較的新しい薬剤です。中等症から重症のアトピー性皮膚炎の患者さんに処方され、1日1回15mgまたは30mgを内服します。既存の外用薬では十分にコントロールできない場合に、治療の選択肢の一つとして考慮されます。

ウパダシチニブのユニークな点は、JAK阻害作用による炎症抑制効果だけでなく、痒みの伝達経路にも働きかけることです。痒みは、アトピー性皮膚炎患者さんにとって最も辛い症状の一つですが、ウパダシチニブはこの痒みを直接抑える効果も期待されているのです。これは、既存の治療薬にはない特徴と言えるでしょう。

ただし、ウパダシチニブは免疫機能に影響を与える薬剤ですので、感染症などの副作用には注意が必要です。特に、帯状疱疹や結核などのウイルス感染症、細菌感染症のリスクが上昇する可能性があります。そのため、治療開始前には感染症のスクリーニングが行われ、治療中も定期的なモニタリングが必要となります。

【ウパダシチニブの長期投与試験から見えてきたこと】

ここで紹介する研究は、日本人の中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんを対象に、ウパダシチニブの安全性と有効性を3年間にわたって評価した臨床試験の結果報告です。15mgと30mgの2つの用量が検討され、外用ステロイド薬との併用についても調べられました。

安全性の面では、ウパダシチニブは長期投与でも概ね安全で、忍容性が高いことが示されました。最も多くみられた副作用は、ニキビ、鼻咽頭炎(鼻と喉の炎症)、帯状疱疹でした。これらの副作用の発現率は30mg群で若干高い傾向にありましたが、重篤な副作用や治療の中止に至った副作用の頻度は両群で同程度に低いものでした。感染症については、特に注意深いモニタリングが行われましたが、重篤な感染症の発現率は低く抑えられていました。

有効性については、投与開始から16週時点で、ウパダシチニブ群ではプラセボ群と比べて、皮疹(EASI: Eczema Area and Severity Index)と痒み(WP-NRS: Worst Pruritus Numerical Rating Scale)の改善効果が有意に高いことが示されました。そして、この効果は3年間の投与期間を通して維持されることが確認されたのです。用量による違いでは、30mg群の方が15mg群よりも一貫して高い効果が認められました。さらに興味深いことに、ウパダシチニブ投与群では、併用している外用ステロイド薬を使用しない日数の割合が多くなる傾向が見られました。これは、ウパダシチニブによって外用ステロイド薬への依存度が下がる可能性を示唆しています。

以上の結果から、ウパダシチニブは中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さん、特に既存治療で十分な効果が得られない難治性の患者さんに対する新たな治療選択肢になり得ると考えられます。外用ステロイド薬の使用を減らしたいというニーズにも応えられる可能性があります。一方で、感染症など一部の副作用には十分な注意が必要であり、治療の選択は医師との綿密な相談の上で慎重に決定すべきでしょう。アトピー性皮膚炎は患者さんによって症状や重症度が大きく異なる疾患ですから、一人ひとりに最適な治療を提供していくことが肝要だと言えます。

今後、ウパダシチニブのさらなるエビデンスの蓄積とともに、アトピー性皮膚炎の治療戦略における位置づけがより明確になっていくことが期待されます。同時に、患者さんや医療者に対する適切な情報提供と教育も欠かせません。アトピー性皮膚炎は長期的な管理が必要な疾患ですから、治療薬の特性をよく理解した上で、患者さんの生活の質の向上を目指した取り組みが求められるでしょう。

参考文献:

Katoh N et al. Safety and Efficacy of Upadacitinib for Atopic Dermatitis in Japan: Analysis of the 3-Year Phase 3 Rising Up Study. Dermatol Ther (Heidelb). 2024;14:213–232. doi: 10.1007/s13555-023-01071-2

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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