クロダ・プットの誕生か
2月18日の東京市場の動きは、今後のマーケットと日銀の金融政策の関係を見る上でも非常に重要になると思われる。日銀は目先の株価の回復を目指したものではないとしても、何かしらの対策を講じて株価の下落を防ごうとしたことは確かではなかろうか。
バーナンキ・プットやドラギ・プットという言葉がある。プットというのはオプションの売る権利であり、これを購入しておけば保有株の損失を一定額で抑えることができる。たとえば、FRBが株価の下落等を限定的としてくれるという意味で使われた。米国の株価が下落しそうになると、FRBが金融緩和をするか、それを示唆するような発言をすることで下げを限定的にさせてきたとされる。
ドラギ・プットとは欧州の信用不安が吹き荒れた際に、ECBによるLTROと呼ばれた資金供給を行ったことや、2012年7月にECBのドラギ総裁はユーロ存続のために必要ないかなる措置を取る用意があると表明し、欧州の信用不安を後退させようとした動きによるものである。
2014年2月18日に日銀が発表した3月末に期限が来る貸出増加を支援するための資金供給と成長基盤強化を支援するための資金供給についての変更についても、追加緩和ではないものの、2倍という言葉を用意したり、拙速なれどもサブライズ効果を意識したような動きも、まさらクロダ・プットを意識させるような行動と言えた。
今回の資金供給はあくまで貸出等が伸びてからこそ威力が発揮されるものであり、この枠を倍にしたから貸出等が伸びて景気が良くなるとかの問題ではない。それにも関わらず、市場は2倍というキーワードを意識し、期間延長でECBによるLTROのような錯覚を招いたようである。18日の日経平均は一時500円を超す上昇となったが、その背景には円買い日本株売りのポジションが膨らんでいたところに、この日銀の発表を追加緩和、もしくはその先触れかと認識した海外投資家によるアンワインドがあったかと推測される。
日銀の黒田総裁は会見の様子から察するに、これほどまでの効果は計算していたわけではなさそうだが、市場の動きを睨んだ今回の日銀の発表であった可能性は高い。とすればそれは奏功したが、市場はこれで日銀に過剰な期待を抱く可能性がある。それとともに、実際には効果がさほどないものをアピールしていることが見透かされることになると反対に日銀の政策、さらにはアベノミクスの効果に対しても疑問符を抱かせることにもなりかねず、まさに諸刃の剣ともなりうる。
それ以上に問題なのは、日銀だけでなくFRBもECBも金融政策の目的は物価の安定であったり、雇用の安定であったりするはずである。ところが世界的なリスク拡大の際は、そのような目的ではなく市場の回復を目的としていたかに思われることである。だからバーナンキ・プットやドラギ・プットという言葉が生まれた。
ここに金融政策そのもの在り方を問うべき重要な問題が存在する。金融政策とは、そもそも市場の安定化のために存在しているのか。理屈の上ではそうではないとしても、実は金融政策には資金を供給したり、国債を買い入れることで市場の安定化が結果として最も効果があり、中央銀行の政策は国民全体というよりも市場参加者の思惑に向けられているようにすら映る。それで果たしてデフレからの脱却とかは可能なのか。市場と中央銀行の在り方とともに中央銀行の金融政策の目的とその目的達成のための経路についても、あらためて考えて見ることが必要ではないかと18日の市場の動きを見て感じた次第である。