英王室ドラマ『ザ・クラウン』の大成功が増幅させるメーガン夫人の勘違い 番宣優先に批判広がる
心配されるフィリップ殿下の容体、心臓検査で転院
[ロンドン発]2月19日、「慈善活動は(王族でなくても)誰にでもできる。英王室には永遠に戻らない」と宣言した英王位継承順位6位のヘンリー公爵と妻のメーガン夫人への風当たりがイギリス国内で強まっている。
エリザベス女王(94)の夫、フィリップ殿下(99)の容体が悪化しているにもかかわらず、自分たちの都合で宣伝活動を優先させているからだ。
体調を崩して2月16日に入院したフィリップ殿下は3月1日に心臓検査のためロンドンの聖バーソロミュー病院に急遽(きゅうきょ)転院した。今年6月に100歳の誕生日を迎えるフィリップ殿下は偉丈夫で知られるが、高齢を理由に2017年8月に公務から引退。年々、衰えが目立つようになった。
第二次大戦の生き残り兵士で、原則無償で医療を提供する英国民医療サービス(NHS)を支援するため歩行募金で150万人超から3279万4701ポンド(約48億6千万円)を集めた「キャプテン・トム」こと英陸軍退役大尉トム・ムーア氏(100歳)が新型コロナウィルスに感染して2月2日に亡くなったばかり。
それだけにフィリップ殿下の回復を祈る市民の声は広がっている。
ゴールデン・グローブ賞を席巻した『ザ・クラウン』
ヘンリー公爵とメーガン夫人は2月28日、ネットフリックス(Netflix)で配信された英王室ドラマ『ザ・クラウン』が今年の米ゴールデン・グローブ賞を席巻する機会を逃さなかった。ヘンリー公爵とメーガン夫人はネットフリックスと巨額の複数年契約を結んでいる。
ゴールデン・グローブ賞では『ザ・クラウン』がテレビドラマ作品賞、ダイアナ元妃役の英女優エマ・コリンが主演女優賞、チャールズ皇太子役の英俳優ジョシュ・オコナーが主演男優賞、マーガレット・サッチャー役の米女優ジリアン・アンダーソンが助演女優賞に輝いた。
保守系英高級紙デーリー・テレグラフの女性コラムニスト、ハンナ・ベッツ氏は「メーガン夫人は故ダイアナ元皇太子とは異なるが、『ザ・クラウン』がゴールデン・グローブ賞で大成功を収めたため、すべてを変えていく」と指摘する。
ゴールデン・グローブ賞が発表されたのと同じ日に、米人気司会者オプラ・ウィンフリーによるヘンリー公爵とメーガン夫人の独占インタビューの予告編がリリースされた。ヘンリー公爵は王室を離脱した理由について「歴史(最愛の母、ダイアナ元妃の悲劇)が繰り返される」ことを恐れたと告白した。
ナイーブなダイアナ元妃は「カメラ・シャイ(カメラの前で恥ずかしがる人のこと)」なのに対して、元女優のメーガン夫人は「カメラ・レディ(カメラにどう映るか計算できる人)」。ダイアナ元妃は「ケアラー(世話をする人)」、独立独歩のメーガン夫人は「アクティビスト」と2人の間には根本的な違いがある。
ヘンリー公爵「『ザ・クラウン』は大筋で真実に基づいている」
セント・ポール大聖堂でチャールズ皇太子とダイアナ元妃の「世紀の結婚式」が行われたのはもう40年前の話。若者世代、特にアメリカの若者世代にとっては、君主の存在と王室の伝統と文化、チャールズ皇太子の冷淡さに苦しめられたダイアナ元妃を生々しく描いた『ザ・クラウン』こそ歴史そのものなのだ。
ヘンリー公爵自身、2月25日、英コメディアン、ジェームズ・コーデンのインタビューに「家族や妻、自分自身について書かれた物語を見るより『ザ・クラウン』の方がはるかに快適だ。それは明らかにフィクションだ。あなたの思うように受け取っていい。しかし大筋で真実に基づいている」と話している。
テレグラフ紙のベッツ氏は「ヘンリー公爵にとってメーガン夫人はダイアナ元妃だ。彼は母親を救うことができなかったので、メーガン夫人を偶像化してメディアから救おうとしている」と分析する。メーガン夫人はダイアナ元妃の遺品である指輪やブレスレットを身につけ、「ダイアナ2.0」を強くアピールしている。
「あなたは沈黙していたのか、それともさせられたのか」というウィンフリーの質問に対するメーガン夫人の答えは3月7日の2時間特番で放送される。英王室は戦々恐々だ。しかし、そもそも問題がこじれたのはメーガン夫人の勘違いにあるとベッツ氏は言う。
脇役が主役より目立ってはいけないという英王室の不文律
ダイアナ元妃は将来、国王となるチャールズ皇太子の妻だったのに対して、メーガン夫人は、ウィリアム王子の「スペア」であるヘンリー王子の妻に過ぎないという事実を理解していない。英王室には王位継承ラインのチャールズ皇太子、ウィリアム王子より「スペア」が目立ってはいけないという絶対不可侵の不文律がある。
ウィリアム王子の妻、キャサリン妃が主演女優にもかかわらず、助演女優のメーガン夫人が主演女優としてのスポットライトを独占しようとしたことに不幸の始まりがある。
王室担当記者の1人は「キャサリン妃は退屈過ぎるからこそ王室に溶け込むことができた」と打ち明ける。これに対してメーガン夫人は活発で自己主張や自己顕示欲が強すぎるというのだ。
英大衆紙デーリー・メールのコラムニスト、リチャード・ケイ氏は「物事はタイミングがすべてだ。特に悪いタイミングだ」と書いている。フィリップ殿下の容体が快方に向かうまで、ヘンリー公爵は特番そのものの放送を延期した方がいいと忠告する。
「フィリップ殿下は揺るぎない献身により、現代の英王室の建築家になった。公務が彼とエリザベス女王が70年以上にわたって代表してきたすべての中心だった」(ケイ氏)。王族に求められるのは自己顕示欲や個人的な野心ではなく、国家への献身だ。
「ダイアナ元妃とメーガン夫人の苦悩ではレベルが違いすぎる」
「ヘンリー公爵とメーガン夫人がメディアから受けたと主張する虐待と、ダイアナ元妃のプライバシーと侵害を巡る闘いを同一視しようとするヘンリー公爵の試みは絶望的に混乱している」とケイ氏は書く。ダイアナ元妃の苦悩は17年に及んだのに対し、メーガン夫人のそれはたった20カ月だ。
メディアスクラムに苛まれたダイアナ元妃にも親しいジャーナリストはいた。ケイ氏もその1人だった。ヘンリー侯爵とメーガン夫人も自分たちにとって都合の悪い話を書き立てる英メディアを徹底的に毛嫌いしているものの、ウィンフリーやコーデンのインタビューには快く応じている。
「バンクシー・トンネル」と呼ばれ、トンネルの壁に若者が落書きすることが許されているロンドンのリーク・ストリート(長さ300メートル)には「メーガン・マークル 止められない公爵夫人 アウトロー(無法者)」という作品があった。
(おわり)