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テーパリングを決定する条件は整いつつある

久保田博幸金融アナリスト

米労働省が12月6日に発表した11月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月から20.3万人増加し、市場予想の18万人増を上回った。失業率も7.0%に低下し、2008年11月以来5年ぶりの低水準となった。

10月の雇用統計でもある程度確認できたが、10月の米政府機関閉鎖に伴う影響は極めて限定的であり、雇用は予想以上に改善してきている。市場では20万人規模の雇用者数、7%程度への失業率の低下がFRBのテーパリングのひとつの条件と読んでいたかと思う。そのハードルは意外と高く、12月のFOMCでのテーパリング開始の可能性は極めて低いとの見方が大勢であった。しかし、11月の雇用統計の数字を確認したことで12月17日、18日のFOMCでテーパリング開始決定の可能性は五分五分との見方も出てきたようである。個人的には12月の可能性はかなり高いものと考えている。

ここにきて発表される米国の経済指標も総じて景気回復を示すものが多くなっている。それを端的に示しているのが株価のように思われる。先週は雇用統計を前にポジション調整が入り、下落したものの6日の米国株式市場はテーパリング開始はある程度織り込み、むしろ景気回復が意識されて大きく買い戻されていた。

テーパリングとはFRBが行っている米国債やMBSの買入額の縮小を示す。QEと呼ばれる、このFRBの量的緩和は何故、実施されたのか。これは米国の景気対策が主目的ではなかった。リーマン・ショックを引き起こしたサブプライム・ショックから始まり、それが収まりかけたところにギリシャ・ショックが起きてしまった。すでに財政政策には限界があり、そもそも欧州の信用不安は財政問題が主因であった。このため日米欧の中央銀行による金融政策への依存度が高まり、その結果、伝統的な金利を操作するものに加え、非伝統的な金融政策、つまり量的緩和や信用緩和と呼ばれる政策が打ち出されたのである。

その危機はすでに過去のものとなりつつある。欧州の信用不安はかなり後退しているとみて間違いはない。格付け会社ムーディーズは11月29日に、ギリシャ国債の格付けを「C」から「Caa3」に引き上げた。格上げの理由として、財政再建の著しい進展や中期成長見通しの改善に加え、政府の金利負担が大幅低下した点を挙げた。29日にS&Pは、債務返済に関する差し迫ったリスクは後退したとして、キプロスの長期ソブリン格付けを「CCCプラス」から「Bマイナス」に引き上げた。S&Pはスペインの格付けに対して見通しを「ネガティブ」から「安定的」に変更した。 しかし、これらがニュースにもならないほど、欧州の信用不安はマーケットには材料視されなくなった。

世界的な金融危機がFRBの量的緩和導入の主要因ではあったが、そこから脱する条件として、FRBは雇用の回復等を指摘してしまった。物価と雇用の安定がそもそもの目的である以上はしかたがないが、その条件もタイミング良く満たされつつある。景気や雇用の回復についてはまだまだ疑心暗鬼との見方もあるであろうし、物価も上昇する兆しはない。しかし、それについては伝統的手段でフォローすれば良く、つまり現在の実質ゼロ金利政策を必要とされる期間まで継続させれば良い。そのためFRBはフォワード・ガイダンスを取り入れている。

テーパリングの開始は新興市場にも影響を与えるとの見方もある意味正しいが、そのような政策に依存してしまったマーケットにも問題があろう。ただし、これについては9月あたりのテーパリング開始観測である程度は織り込まれつつあり、新興国のマーケットを含め、金融市場への影響についてはそれほど大きなものとはならないであろう。これは米国債券市場も同様か。実質的なゼロ金利政策が維持される以上、米長期金利が3%を大きく超えて上昇することも考えづらい。

バーナンキ議長が任期中の12月か来年1月のFOMCにおいてテーパリングを決定する条件は整いつつある。政府の財政協議の行方も不透明要因だが、これも問題がなくなれば12月17日、18日のFOMCでテーパリング決定の可能性はありうる。非伝統的手段から伝統的手段に舵を取るということは、今後の「もしも」の際に備えた市場への切り札をひとつ温存できることにも繋がる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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