Yahoo!ニュース

試合巧者メキシコはどのようにして日本からリズムを取り返したのか?【メキシコ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

両チームの間に存在する大きな差

 年内最後の代表活動となった11月17日のメキシコ戦。森保ジャパンは、後半に2ゴールを奪われて敗戦を喫することとなった。

 日本がペースを握れたのは、前半10分以降の約15分間。それ以外の時間帯は、メキシコのリズムで試合が進んでいたことを考えると、妥当な結果と言えるだろう。

 13日のパナマ戦では、前半はほぼ相手のペースながら日本が無失点でしのぎ、後半から日本が自力の差を見せつけて勝利したが、この試合はその逆パターン。特に後半、日本は中2日で試合に臨んでいたメキシコに、まざまざと実力差を見せつけられてしまった格好だ。

 そういう意味では、「日本>パナマ」の関係性が、そのまま「メキシコ>日本」という関係性にあたることが、この試合で証明されたと言える。多くの点において、メキシコは日本を上回っていたと受け止めるべきだろう。

 おそらく日本ペースの時間帯でゴールを奪っていたとしても、最終的に逆転負けを許していた可能性は高い。現在の両チームの間には、それくらいの差があったと見ていい。

 たとえば、印象的だったのは前半25分前後に起こった2つのシーンだ。

 伊東に激しいチャージを受けた百戦錬磨の15番(エクトル・モレーノ)は、ファールのホイッスルが鳴ると、伊東の胸を手で押して威嚇。その後、レフェリーは2人を呼び、特に伊東に注意をうながした。

 その2分後、今度は逆サイドで鈴木がジャンプしながらチャージした場面で、ファールを受けたセルタ所属の2番(ネストル・アラウーホ)が、立ち上がろうとした鈴木の背中を両手で押して威嚇。危険なチャージをした鈴木には、イエローカードが提示された。

 日本が中盤で激しくプレスをかけて、デュエル後のルーズボールをことごとく拾ってリズムをつかんでいた、メキシコにとっての苦しい時間帯の出来事だ。

 そんな中で、モレーノとアラウーホが「親善試合では怪我の危険性のある激しいファールはするな!」と言わんばかりの振る舞いを立て続けに実行すると、次第に日本の攻撃陣の守備はデュエルを挑むシーンがなくなり、ただパスコースを切るだけの大人しい守備に一変したのだった。

 それは、前半30分以降に日本の攻撃チャンスがなくなり、メキシコがボールを握ってリズムを取り戻した要因のひとつであり、メキシコの選手たちの強かさと経験値を示したシーンだった。自分たち(メキシコ)は、その後も球際に激しく行ってイエローカードをもらっていたにもかかわらず、である。

 選手個人の差だけではない。後半開始からは、指揮官のベンチワークにおいても大きな差を見せつけられた。

「普段やらない2ボランチにして守備を強化した。中盤で劣勢だったので、インテンシティを高くしたかった」とは、後半開始からシステムを4-2-3-1に変更したヘラルド・マルティーノ監督の試合後のコメントだ。

 この采配は効果てき面で、後半、日本はほぼ何もできないまま試合を終えることとなっている。つまりこの試合の日本は、個人戦術(技術)で試合の流れを変えられてしまい、チーム戦術で見事に仕留められたわけだ。

 日本にとっては、2022年W杯までに両者の差がどこまで縮められるかが問題となるが、それ以上に、来年9月に迫るアジア最終予選のことが心配になる。相手の多くは、メキシコ以下かもしれないが、間違いなくパナマ以上の相手だからだ。

 コロナ渦における親善試合とはいえ、森保監督も選手も日本サッカー協会も、この2試合の内容を正面から受け止める必要があるだろう。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】シュミット・ダニエル=5.0点

積極的にビルドアップに関わったが、持ち味のフィードに不安定さがあった。失点の場面では、飛び出すタイミングも含めて、シュートストップの課題を改めて露呈した格好に。

【右SB】酒井宏樹=5.0点

守備ではクオリティを示した場面もあったが、攻撃面では得意のオーバーラップが影を潜めてクロスボールの供給は珍しく0本に終わった。伊東とのコンビネーションも不足した。

【右CB】吉田麻也=5.0点

ボックス内だったために仕方ない部分もあるが、アタックが空振りして1失点目に関与。前半はロングフィードを繰り出したが、後半はそれもできず、局面を変えられなかった。

【左CB】冨安健洋=5.5点

2失点目の場面では相手の素早い動きに遅れをとり、吉田の背後をつかれる要因となった。ビルドアップ時のポジション移動の速さや的確さ、敵陣での攻撃参加は上々の出来だった。

【左SB】中山雄太=5.0点

コートジボワール戦に続き左SBで出場。前戦からの反省で、攻撃意識は高まったように見えたが、攻めるタイミングやポジショニングに課題が残った。守備で翻弄される場面も。

【右ボランチ】柴崎岳(57分途中交代)=5.0点

低調ぶりを継続。前半の良い時間帯の中でも存在感のあるプレーを見せられず、遠藤の方が目立っていた。また、守備面でも引き続き強度不足が否めず、多くの課題を残した。

【左ボランチ】遠藤航=6.0点

前半から積極的に縦パスを前線に供給し、攻撃の起点となっていた。後半は全体の流れに飲まれて良さを失ったが、パフォーマンスとしては及第点。チームの核となりつつある。

【右ウイング】伊東純也(85分途中交代)=5.0点

前後半ともにチーム最多を数えるクロスを供給したが、またしても精度不足を露呈。特に後半はプレーの選択が単調になった印象で、打開方法のバリエーションが今後の課題か。

【左ウイング】原口元気(72分途中交代)=5.5点

前半10分以降の日本ペースの時間帯では、すべてのチャンスに絡み、特に12分には抜群のミドルを放った。後半は攻守両面でワークレートが低下し、72分にベンチに下がった。

【トップ下】鎌田大地(77分途中交代)=6.0点

前半はスペースでボールを受け、多くのチャンスを作った。後半は相手に警戒されて消されてしまったが、11月の2試合で好調を持続。1トップ下の一番手であることを証明した。

【CF】鈴木武蔵(57分途中交代)=5.0点

10分、15分と、連続して決定的チャンスを逃した。特に15分の相手GKとの1対1のシーンは判断力とシュート精度に課題を残した。今回の試合でも、良さを出せずに終わった。

【FW】南野拓実(57途中出場)=5.0点

鈴木に代わって出場し、1トップでプレー。浅野投入後は1トップ下に移ったが、効果的にパスを引き出せず。2失点目の場面ではシンプルさを失い、ボールロスト。失点に関与した。

【MF】橋本拳人(57分途中出場)=5.0点

柴崎に代わって途中出場し、ボランチの一角でプレーした。何度か守備力の高さを示した場面もあったが、全体的に陰が薄く効果的なプレーを見せることができずに終わった。

【MF】久保建英(72分途中出場)=5.0点

原口に代わって左ウイングでプレー。2失点後の難しい時間帯での出場だったが、試合の流れに埋もれてしまい、存在感を発揮できず。その才能を試合の中で生かせずに終わった。

【FW】浅野拓磨(77分途中出場)=5.0点

鎌田に代わって途中出場し、1トップでプレー。相手がセットした状況では効果的な飛び出しもできず、中央でのプレーに難があった。状況によってはサイドの方が適している。

【MF】三好康児(85分途中出場)=採点なし

伊東に代わって右ウイングでプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事