株価下落が示唆するものは…=単なる水準調整か、あるいは不況の到来?
今月に入って内外株式市場が下落傾向を強めている。その理由として、金融市場では「高値警戒感も出ていた米株の単なる水準調整だろう」(銀行系証券アナリスト)との見方が今のところは優勢だ。ただし、株価は景気に対して先行的に動くこともあり、この先行性を重視すると「不況到来の予兆」(大手邦銀)である可能性も否定できない。いずれが正しいのか、今後の指標の出方に注意を払う必要がある。
日米株とも高値から10%以上もの下落を演じる
米国のダウ工業株30種平均は今月初めに2万6828.39ドル(終値)の史上最高値を付けたが、その後は反落。大幅な下落を演じながら直近は2万4000ドル台に落ち込んだ(下のチャート参照)。日経平均株価も同様の展開となり、今月上旬の2万4000円台半ばから足元は2万1000円台前半まで売り込まれた。高値から10%以上もの切り下げは「相当な下落であることは確かだ」(大手運用機関マネージャー)という。
それでもこの株安が「単なる調整」と考えられるのは、米国の主要な経済統計が良好なためだ。住宅関連では金利上昇の影響で冴えない統計もあるが、雇用・所得関連は好調だ。特に雇用統計は失業率が空前の水準まで低下し、「個人消費の前提となる雇用が好調なら景気は底堅い」(米系証券エコノミスト)という。従って、米株下落は「それまで一本調子に上がってきたことの反動」(先の銀行系証券アナリスト)であり、米長期金利の上昇がこの反動の契機となったわけだ。
株安が水準調整なら再び上昇基調へ
もし、内外株式の下落が水準調整に過ぎないなら、株価は近く下げ止まり、値固め局面を経た後に再び堅調地合いに戻ることになる。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げがインフレ期待を抑制し、景気回復の持続性を担保する方向に作用すれば、改めてダウ平均は高値を更新。「日経平均も上値を切り上げて2万円台後半も狙える」(大手証券)というシナリオが描ける。
その一方で、株安が不況の兆候である可能性も捨てきれない。株価はしばしば「景気に対して半年から1年ほど先行的に動く」(大手運用会社のファンドマネージャー)ことがある。例えば、日経平均は1989年にピークを付けて反落し、当初は調整論が強かったが、結果的に長期低迷の予兆となった。ダウ平均もリーマンショックの前から下がり始めている。今回の内外株安も「不況の前哨戦」(先の大手邦銀)と懸念される。
唯一の未来の鏡となり得る株式、不況の兆候か
経済統計は、どんなに急いでもデータ取集から発表まで時間がかかり、月次統計は前月のものが最新となる。つまり、「指標が映すのはちょっと前の経済の姿であり、どんなに分析しても未来は分からない」(日銀幹部)のだ。そうした中で、株価は唯一の未来の鏡となり得る。株安が不況の兆候なら経済指標は徐々に悪化していくはずだ。今後、数か月以内の経済指標には十分な注意を払う必要があるだろう。