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医療、IT双方からデジタルヘルスへ歩み寄る

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

最近、ヘルスケア・医療とエレクトロニクス技術(世間ではデジタル技術と呼ぶ)が歩み寄るという発表会が立て続けにあった。一つは、インテルが東京女子医科大学と組んで、医師が行うべき手術などの治療を今よりも確実に行えるように支援するUI(ユーザーインタフェース)のRealSenseカメラシステムの例を紹介したこと。もう一つは、医薬品メーカーのバイエル薬品がヘルスケア分野に向けたハイテクベンチャー企業を支援するためのGrants4Appsと、過去1年間新規上場した企業の中から革新的な技術やアイデアで暮らしの質向上に貢献した企業を表彰するライフイノベーションアワード(LIA)の表彰イベントであった。LIAは2015年に設立された賞である。

インテルのような半導体企業は、半導体が使われる将来を予測しながら提案するビジネスに取り組んできた。インテルは、未来のあるべき姿を半導体チップに落としていく、という作業を創業以来続けてきた。だからハイテク企業であり続けている。もう10年間近くにもなるが、インテルは医療とヘルスケアビジネスで得意とするプロセッサの新市場創出に努力してきた。医療機器のインテリジェント化、ハイエンドコンピュータ、高解像度の画像データを記録できるタブレット、ハンドヘルドの機器、ウェアラブル端末などインテルが提供できるプロセッサを使った電子機器を提案してきた。意思の遠隔医療、患者の遠隔サービスなどもタブレット端末を利用して医療に生かす応用がこれから可能になる、とIntel Health and Life Sciences部門のGeneral Managerであるジェニファー・エスポジート(Jennifer Esposito)氏はいう。ゲノム解析、病院での作業効率の向上や患者のトラッキング、調剤の自動化など、半導体メーカーが貢献できる分野は山のようにある。

今回、東京女子医大と組んで、RealSenseカメラ技術を医師の手術を支援するためのツールに使う実験を見せた。このカメラは、映像そのものを撮る1080p(プログレッシブ方式で走査線が1080本の映像を出力)ビデオ、人体など発熱体を認識する赤外線カメラ、赤外線レーザー測距計プロジェクタの3つのセンサを持っている。IRレーザーは顔の凹凸など3次元的な距離を測るために使う。この3つのセンサがあればジェスチャー操作を認識し、その動きに追従してスクリーン上のアバターと全く同じ動きをリアルタイムで行うことができる。

病院の手術中には、モニターを使ってリアルな画像だけではなく、がんや病巣などをグラフィックスなどで表現し、手術で切り取るべきがんを正確に精度よく捕まえる必要がある。手術している手でコンピュータのキーボードやマウスを触るわけにはいかない。RealSenseカメラを使えばジェスチャーでコンピュータを操作でき、しかも遠隔地からも手をジェスチャーで動かしながら、手術室内のロボットに意図通りに手術させることができるようになる。平面的なジェスチャーだと手の3次元の動きを表現できないが、RealSenseは深さ方向の情報も加味しているためだ。

インテルと2年前から一緒に実験してきた東京女子医大先端生命科学研究所の村垣善浩教授は、「手術中はモニターに表示させたい情報が多く、以前撮影した画像をアーカイブから自分で読み出したいのに、それができなくてほかの人などに依頼するためストレスがたまることが多かった」と述懐する。RealSenseでのコンピュータ操作は触らなくても同じことができるため、医師にとってはありがたいツールだとしている。

 図1 バイエル薬品がデジタルライフビジネスを支援 受賞者たちとバイエル関係者
図1 バイエル薬品がデジタルライフビジネスを支援 受賞者たちとバイエル関係者

デジタルヘルスケア・医療技術は、これまでIT・エレクトロニクス側からのアプローチが盛んだったが、医薬業界からもアプローチしてきたのが今回初めてバイエル薬品が日本で開催した、ITベンチャー表彰プログラムGrants4Appsである(図1)。2016年度は、2016年6月創業のナノティス社が100万円の賞金を獲得した。これは、インフルエンザウィルスを簡単に無痛で調べるための装置の開発である。唾液や鼻かみ液などの体液を乗せたチップ(小片)をスマートフォンで撮影し、チップの画像パターンから解析・判定するというもの。チップはMEMS技術でマイクロ流路を形成している。スマホで撮影した画像を、開発したアルゴリズムで解析する。8月31日には米国に特許を出願したという。

もう一つの表彰ライフイノベーションアワードは、カナミックネットワーク社が受賞した。これは、医療・介護・健康情報を法人や職種の垣根を越えてリアルタイムに情報を共有し連携と相互コミュニケーションできるITプラットフォームを提供するというプロジェクトである。バイエル薬品オープンイノベーションセンター長の高橋俊一氏は、「デジタル技術はヘルスケア・医療の課題を解決する。これからも他の業界・企業と共に新しいアイデアを提供していきたい」と述べている。

インテルをはじめとする海外の半導体メーカーは、高齢化社会・医療費高騰などの社会問題を半導体技術で解決しようと2006~2007年ごろから主張し始めた。2008年に訪問した英国ファブレス半導体メーカーの1社であるトゥーマズ社(Toumaz)では、「バンドエイド」(これは商品名)のような絆創膏に半導体チップやセンサを貼り付け、そのデータを携帯電話などに送りさらに病院に送るというシステムを目指しているという話を聴いた(参考資料1)。同社はその後、2011年ごろ米国のFDA(日本の厚生労働省に相当)の認可を取得、2012年から1年間米国カリフォルニア州サンタモニカの病院で実証実験を始めた。その結果を、2013年にセミコンポータルで紹介した(参考資料2)。

参考資料

1. 欧州ファブレス半導体産業の真実、津田建二著、日刊工業新聞刊、2010年11月刊

2. 英Toumazのヘルスケア半導体チップ、米国の病院で効果を実証、セミコンポータル、(2013/06/05)

(2016/12/13)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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