FRB批判を繰り返すトランプ大統領の愚かさ=安倍首相に学ぶべき二つの理由
トランプ米大統領が連邦準備制度理事会(FRB)の政策運営に対し、「速いペースで利上げする必要はない」と改めて批判した。最高権力者が中央銀行を批判するのは、金融政策の独立性を侵害する行為なのは言うまでもない。この点について、同大統領が学ぶべきは日本の安倍晋三首相であろう。二つの理由からFRB批判が愚かな行為であることに気が付くはずだ。
トランプ大統領のFRB批判は今回が初めてではない。8月には、利上げ路線に「感心しない」と不快感を表明。連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが決定された先月下旬には、記者会見で「うれしくない」と述べた上に「(FRBが)利上げを好んでいるように見受けられ、心配している」などと“口撃”している。
日銀を一貫して評価した安倍首相に学ぶなら
対照的なのが、安倍首相だ。同首相は、日銀の政策運営に不満を表明したことは一度もない。「(黒田東彦総裁の)手腕を信頼している」と一貫して評価し、今春には5年の任期を終えた黒田総裁の再任を決めた。当たり前だ。自分の望む金融政策を実行してくれる人材として黒田氏を選んだのだから、不満は何もない。その露骨な人選は問題含みではあるが、少なくとも政府・日銀の足並みが乱れて金融市場が混乱したことはない。
これに対し、トランプ大統領は昨年11月、FRBの理事だったパウエル氏をイエレン前議長の後任に指名。今年2月にパウエル体制が発足した。民主党政権で発足したイエレン体制に不満を示すならまだしも、自らが発足させたパウエル体制を批判するのは議長人選の失敗を露呈するかのようだ。利上げ路線が不満なら、安倍首相の“わがまま人事”を見習って、ハト派の人材を議長に指名すべきだっただろう。
さらに学ぶなら、金融政策で経済は意のままに動かせない、ということ
ただし、この点もまた安倍首相に学ぶべきことだが、金融政策を通じて実体経済を意のままに動かせるわけではない、ということだ。同首相は「デフレは貨幣現象」とみなすリフレ理論に傾倒し、大規模緩和をやってくれる人物として黒田氏を登用。ところが、いくら緩和しても物価は上がらず、5年以上が経過してもデフレ脱却できない。金融政策だけで物価が上がらない経済構造である以上、金融政策は空回りしたままだ。
これは米国にも当てはまる。仮にトランプ大統領がハト派の議長を任命して利上げを避けても、景気回復でインフレが高進すれば否応なく利上げが必要だ。利上げが遅れてインフレが加速すれば、その抑制で大幅な利上げを余儀なくされ、経済は急激に悪化しかねない。景気の大きな振幅を避けるために早めの利上げが必要なら、容認する以外に手はない(インフレが加速しないなら利上げは不要だが、それは景気の弱さも意味する)。
トランプ大統領が金融政策運営について、安倍首相を見習うなら、最初から好みの金融政策をやってくれる人物を議長に登用すべきだった。そうすれば後で不満を表明することはなく、自らの人選ミスを疑われることはなかった。さらに深く学ぶなら、中央銀行にお好みの金融政策をやらせても、実体経済はお好みのように動かせないことに気が付くはずだ。
つまるところ、「餅は餅屋」であり、金融政策は実務に精通する専門家に委ね、余計な口出しはしない方がいい、という結論に尽きる。