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試合復帰の前祝い!?タイガー・ウッズの「告白」と「吐露」に沸く昨今のゴルフ界

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
2015年のタイガー・ウッズ。今より細身。サンデー・レッドシャツが眩しかった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

このところ、タイガー・ウッズの周辺が何かと賑わっている。その最大の理由は、11月30日からバハマで開催されるヒーロー・ワールド・チャレンジにウッズが「出場する」と発表したからだ。

今年2月の欧州ツアーの大会、ドバイ・デザート・クラシックで途中棄権して以来、9か月ぶりのウッズの試合復帰にファンも関係者も大喜び。米ゴルフ界はまさに今、ウッズ復活の前祝いに沸いているという様子である。

今年1月に米ツアーのファーマーズ・インシュアランス・オープンで試合に復帰したときのウッズ。大勢のファンが詰め寄せ、初日のスタートを見守った(写真/舩越園子)
今年1月に米ツアーのファーマーズ・インシュアランス・オープンで試合に復帰したときのウッズ。大勢のファンが詰め寄せ、初日のスタートを見守った(写真/舩越園子)

だが、この現象を少々クールに眺めれば、これはウッズ財団がサポートする“ウッズの大会”での試合復帰へ向けて、ウッズへの注目度をアップさせ、ウッズの存在感や価値感を最大限に高めるためのウッズ側のプロモーションの一環であろうことも頷けてくる。

これまでウッズは自身の心境や決意を自身のHP上のブログで発信することが常だった。短い言葉やちょっとした画像だけであれば、ツイッターを使うこともあった。

しかし今回は、ESPNのポッドキャストで声の出演というウッズにとっては“新たな媒体”“新たな手法”を活用。しかも、ゴルフ専門のアナリストやジャーナリスト、アナウンサーなどではなく、リオ五輪で米国女子バスケットボールチームを率いた名コーチ、ジーノ・オリエンマを相手に話をするという設定だった。

その中でウッズは、自身の胸の内を赤裸々に、いや質問や相槌で遮られることなく自分のペースで語り、誰もが「えっ?本当に?」と驚くような内容を2つも3つも織り込んでいた。

【生きるレジェンド】

まず驚かされたのは、ウッズの2人の子供が父親であるウッズのことを、プロゴルフ界の現役プレーヤーではなく「生きるレジェンドだと思っていた」という衝撃の告白だ。

「僕の子供たちは僕のことを“ユーチューブ・ゴルファー”だと思っていた。ゴルフレジェンドだけど、もはやプレーしていない“いまなお生きるレジェンド”だと思っていたことを知って、僕はとてもショックだった」

長女サムは2007年、長男チャーリーは2009年に生まれた。ウッズが最後にメジャー優勝を果たしたのは2008年の全米オープン。最後に米ツアーで優勝したのは2013年のブリヂストン招待。以後は、手術やリハビリ、それに伴う棄権や欠場、戦線離脱を繰り返してきた。

2人の子供たちは、父親のあの力強いフィストパンプや雄叫び、優勝トロフィーを誇らしげに掲げる姿もほとんど見たことがなく、見たとしても幼すぎて記憶していないのだ。

会見の様子はしばしばTVでも放映される。ウッズの子供たちは会見など大勢の前で語る父親の姿を見て「生きるレジェンドだ」と思っていたらしい(写真/舩越園子)
会見の様子はしばしばTVでも放映される。ウッズの子供たちは会見など大勢の前で語る父親の姿を見て「生きるレジェンドだ」と思っていたらしい(写真/舩越園子)

覚えているのは自宅でリハビリしている姿やメディアに登場している姿ばかり。そんな父親のことを子供たちが「現役選手ではない」と思っても不思議ではないのかもしれない。

だが、子供たちからそう思われていたことを知ったことはウッズにとってはかなりショッキングだっただろうし、それをポッドキャストで語ったことは大勢のファンにとって驚きだった。

【8000ヤードのゴルフコース?】

ウッズが次に語ったのは、ボールの進化に対する自身の考えだった。

近年、モダンテクノロジーを駆使して開発されているゴルフボールの恩恵を受け、ゴルファーの飛距離はどんどん伸びている。だが、ウッズはボール開発の行き過ぎに警鐘を鳴らす言葉を口にした。

「ゴルフボールに対しては何か手を打たなければいけないと思う。このままボールが進化し続ければ、8000ヤードのゴルフコースが必要になる日も決して遠くない。それはかなり恐ろしいこと。そんなコースを(あちらこちらに)造るに足る十分な土地はなく、ゴルフにまつわる様々な状況を複雑化するだけだ」

【2000年当時のスイング】

さらにウッズは自身の肉体とスイングに関して、胸に秘めていた想いを吐露した。

かつて「ウッズ最強時代」と言われたのは2000年のこと。あの年、ウッズは20試合に出場し、メジャー3勝を含む年間9勝をマーク。勝率45%は驚異の数字だった。

ウッズ自身も当時のスイング、当時のゴルフが自分のベストだったと感じている。だが、失われた過去には戻れないのが現実である。

「いろんな人から、なぜ2000年のスイングに戻さないのか、戻せばいいのにと、よく言われる。僕だって、そうしたいのは山々だけど、戻りたくても戻れない。僕の膝はボロボロなんだ」

黄金時代を築いていた中で、2003年にはジュニア時代からのコーチだったブッチ・ハーモンと決別し、ハンク・ヘイニーを新コーチに付けてスイング改造に着手した。

せっかくのグッドスイングを、なぜ今、わざわざ変える必要があるのかと疑問や批判の声が多数上がったが、あれは大学時代から手術を繰り返してきた膝への負担を軽減し、膝や腰、肉体全体、ひいてはゴルファーとしてのウッズの寿命を少しでも長くするために不可欠なスイングチェンジとコーチチェンジだったのだ。

つまり2003年には、すでに2000年のスイングに耐えがたいところまで膝が悪化していたことになる。そして今は、腰も4度の手術を経ている。ウッズが言う通り、今の肉体で2000年当時のスイングには「戻りたくても戻れない」のは明らかである。

【タイガー・イズ・タイガー】

哀愁さえ漂うウッズの言葉、告白を聞いて、ファンは何を感じただろうか。

「頑張れ、タイガー!」

「まだ勝てるチャンスはある!」

「たとえ勝てなくても、プレーを見たい!」

「居るだけでいい!」

「カムバック、タイガー!」

「Tiger is Tiger!」

何があっても、やっぱりタイガー・ウッズが大好きというファンは多い(写真/舩越園子)
何があっても、やっぱりタイガー・ウッズが大好きというファンは多い(写真/舩越園子)

それは、大勢のファンの素直な気持ちであり、ウッズ側の巧みなプロモーションの成果でもある。だが、そうわかっていても、やっぱり応援したくなる。そう、たとえ何がどうなろうとも「タイガー・ウッズはタイガー・ウッズ」。

今、ゴルフ界の人々の声は、そんなふうに集約されつつある。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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