中国はアメリカ中間選挙の結果をどう見ているか――「環球時報」社説
中国の外交部報道官はコメントしないと言ったが、環球網の社説は詳細に中間選挙の結果を分析し、中国への影響のみならず、他国への影響も考察している。環球網が言わせたと思われるネットのコメントも見てみよう。
◆中間選挙の結果全般に関して
中国外交部の報道官は定例記者会見で「アメリカの中間選挙の結果をどう見ているか」という質問に対して「(また選挙妨害をしていると言われるので)コメントできない」と皮肉を交えて回答した。選挙期間中にトランプ大統領が、中国が選挙に介入し「(中国に厳しい)自分(の所属する共和党候補者)を落とそうと工作している」という趣旨の批難をしたことを指している。
しかし、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版である「環球時報」電子版「環球網」は、11月7日に「米民主党下院奪還、喜ぶ者もいれば嘆く者もいる」というタイトルの長い社説(評論)を掲載した。
その中で、中国に対する影響に関して分析しているが、まず、結果全般に関する中国側から見た解説の概要をご紹介したい。
1.下院の多数を民主党が制したために、トランプはやりにくくなっただろう。下院で共和党が負けたのは、アメリカ国民がトランプ流独断に対して下した審判の一つとみなすことができる。
2.しかし、これは決して2020年の大統領再選の命運を決したことにはならず、トランプは必ずさらなる強硬路線と民主党との妥協路線の両面を駆使して大統領再選を目指すだろう。民主党に大統領候補となり得るような見るべき大物がいないのも、今のところトランプには有利だ。
3.もっとも、下院は多数を頼みとして大統領の弾劾を主張するだろう。ただ弾劾は上院議員3分の2以上の賛同を取りつけないと成立しないので、弾劾自体が成功することはないと見ていい。それでも民主党は弾劾を主張することによってトランプの大統領再選を阻むことを考える可能性は大きい。
◆中間選挙の結果が外交、特に中国に及ぼす影響に関して
1.北朝鮮に対するトランプの融和的な姿勢が批判される可能性も大きく、トランプとプーチンの、本当は仲良くしたい関係にも相当な圧力がかかるだろうが、下院の外交権には制限があるので、トランプはこれまで通りの方針を貫くだろう。
2.さて、対中路線だが、今般の中間選挙の結果による影響を最も受けないのが、ほかならぬ中国だ。なぜなら、民主党はもともと対中強硬路線の傾向が強いので、対中強硬路線において、実は共和党も民主党も一致しているからである。その証拠に、今般の中間選挙で民主党はひとことも「トランプの対中強硬路線」を非難していない。それどころか、民主党は「人権問題」に関しては、トランプよりも激しく追及してくるので、アメリカの対中強硬路線が緩むとは考えられない。
3.米中関係がおかしくなったのは、中国が強大化するのをアメリカが怖れているからだ。高関税などによる米中貿易戦は、あくまでもトランプ流の個人的なやり方なので、政治情勢全体が何か変わったからと言って、(大統領が代わらない限り)それによって米中関係が代わるという可能性はあまりない。これは北京とワシントンが共に変化を推進していかなければならない方向だ。
4.もしトランプ外交に関して変化があるとすれば、それはヨーロッパ関係に対してだろう。トランプは大西洋両岸の信頼関係を損ねてしまった。米下院におけるトランプの敗北を最も歓迎しているのはヨーロッパ諸国だろう。
5.日本と韓国とオーストラリアは、内心ほくそ笑んでいるかもしれない。なぜなら中間選挙で打撃を受けたトランプが、同盟国に対しては、ちょっとだけ優しくなるかもしれないと期待している可能性があるからだ。
6.中国は、アメリカ政界の変動に関しては如何なる幻想も抱くべきではない。我々(中国)の利益は、アメリカ選挙民が何を選択するかによって左右されるものではない。中国は自分のやるべきことをきちんとやるのみで、このこと以上に堅固で、ビクともしないものはない。
◆「環球網友」という名のネットユーザーの反応
「環球網」には「環球網友」という名のネットユーザーがいる。さすがに「官」の側としては書けない本音を、環球網がこの「友だち」に言わせる仕組みだ。
●環球網友S1F5Co広東省のコメント
その通りだ!(社説の)識者の視点に非常に賛成する。中国が自分のやるべきことをきちんとやりさえすれば、それ以上に堅固なものはない。自分の希望を他人に預けるようなことは、中国は絶対にしない。他人がくれたものでもなければ借りたものでもなく、自分自身のポケットの中に自分が稼いだ金がありさえすれば、誰からも虐められることはない。
●環球網友NzzR0Zのコメント
国産の自主ブランド品を購入することは、わが国が「強国の夢」を実現するための最も有効な早道だ!われわれ中国人がみんな国産の自主ブランド製品を買えば、われらが工業企業の収入は増えて、最も優れた人材を呼び込むことができるようになり、最も優れた機械を購入することができるようになり、研究開発にも専念することができるようになる。そうすれば、われわれは世界一流品を創り出すことができて、工業強国になることができる。
これらはいずれも、2015年5月に習近平政権が打ち出した「中国製造(メイド・イン・チャイナ)2025」を完遂させようということを指しており、環球網の社説の最後にある「中国は自分のやるべきことをきちんとやるのみで、これ以上に堅固で、ビクともしないものはない」に呼応したものだとみなすことができよう。習近平国家主席が最近言い始めた「ハイテク製品における自力更生」を指している。
また「環球網友」ではないが、同じく環球時報社説のコメントの一つ(ハンドルネーム費尽周折)に「民主党に大統領候補として、これぞと思しき大物を立てるように全力を尽くし、全世界が連絡し合って反トランプの機運を盛り上げ、一致団結してトランプ打倒を目指していこう」というのがあり、削除されていない。ということは、「トランプ再選妨害」を目指そうとしている動きを環球網は抑え込もうとはしていないことになり、トランプが言ったところの「中間選挙における中国による妨害」が、必ずしも全くの虚偽ではないことを暗示するものとして興味深い。
一方、中央テレビ局CCTVは、中間選挙の結果に関してはほとんど報道せず、ただひたすら、結果が出た翌日の記者会見で、ロシアゲートに関して質問したCNNの記者をトランプが罵倒する場面(冒頭の写真に関する場面)だけを流し続けた。
なお、環球網社説の外交関係の3は、習近平の今後の動向を示唆するものとして注目される。事実、中間選挙が終わるのと時を同じくして、習近平はキッシンジャーと会っている。その背後にあるものに関しては、別途論じるつもりだ。
(来月出版する本のゲラ校閲に忙殺されていたため、しばらくの間コラムを休みました。申し訳ありませんでした。)