フランス 120日ぶりロケット打ち上げ再開で53機の衛星を搭載。Facebookの通信試験衛星も
フランスの衛星打ち上げサービス企業アリアンスペースは、新型コロナウイルス感染症の影響で中断されていたロケット打ち上げを再開する。日本時間6月19日午前10時51分10秒に予定されている小型ロケットVega(ヴェガ)16号機は、13カ国21事業者、53機の衛星を搭載するライドシェア(相乗り)打ち上げとなる。
---6月19日追記:打ち上げは天候不順のため延期。新たな予定日時は日本時間2020年6月21日午前10時51分となった。
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6月22日追記:射場地域で高層風のため、6月21日の打ち上げは延期。新たな打ち上げ予定日は、アリアンスペースより今後発表の予定。
静止通信衛星の打ち上げ事業で長年シェアを維持してきた欧州のアリアンスペースは、2020年2月19日にスカパーJSATの通信衛星「JCSAT-17」打ち上げ以後、ロケット打ち上げを休止していた。3月17日には感染拡大防止のため仏領ギアナのギアナ宇宙センターでの作業休止を発表、衛星やロケットの準備作業も休止していた。
5月11日、宇宙センターの作業再開にともない新たな打ち上げ日程が発表された。再開後の最初の1機は、小型固体ロケットVegaの16号機となる。Vegaロケットは、2019年7月の15号機打ち上げ失敗と原因究明、対策のため打ち上げが中断されていた。新たな16号機は、多数の小型衛星を同時にロケットに搭載し、目的の軌道に届けるライドシェア型打ち上げ「SSMS」の実証第1回となる。
ロケットのライドシェア市場
ロケットのライドシェア打ち上げとは、複数の衛星をロケットに搭載して費用を分担する打ち上げで、1事業者がロケット1基すべてを買い上げるより打ち上げコストを低く抑えられる。同様の方式に大型衛星打ち上げの際の余剰能力を利用する「ピギーバック」型があるが、こちらの場合は主衛星となる大型衛星が最優先で、相乗りする小型衛星にとっては軌道投入の自由度が低いというデメリットがある。ライドシェアの場合、乗り合わせる衛星どうしが比較的近い軌道を目指している必要があり、需要の多い太陽同期軌道(SSO:地球を南北に周回し、毎日ほぼ同じ時刻にある地点の上空を通過する軌道)向けの機会が多い。
アリアンスペースは「今後10年間で毎年200~300機の超小型衛星打ち上げが見込まれ、その80パーセント以上はコンステレーション需要」とみており、需要が高まるライドシェア打ち上げの市場へ、Vegaの新型ロケット「Vega-C」や大型ロケット「Ariane 6」で本格的に参入する目標だ。
VEGA16号機では、新たに開発された小型衛星を目標の軌道に向けて切り離すためのディスペンサーが採用された。チェコのSAB エアロスペースが開発したディスペンサーには、7機の超小型衛星(重量15~150キログラム)と46機のキューブサットが搭載される。高度515キロメートル、軌道傾斜角97.45度のSSOに7機の超小型衛星を投入し、高度530キロメートル、軌道傾斜角97.51度の軌道にキューブサットを投入する。打ち上げから1時間44分56秒で全53機の投入が完了する予定だ。
これまでロシア、インドのロケットが多くライドシェアを行ってきたが、米スペースXも大型ロケットFalcon 9(ファルコン9)でライドシェア打ち上げに乗り出している。日本の小型固体ロケット「イプシロン」も2019年1月の革新的衛星技術実証1号機で7機の衛星を搭載した。
スペースXはライドシェア市場で後発ながら、200キログラムまでの衛星をSSOへ100万ドルという圧倒的な低価格と打ち上げ機会の多さで衛星事業者から期待が集まっている。Vegaの打ち上げコストは非公開だが、1基あたり3700万ドルというVegaのコストと衛星の総重量(SSO搭載能力1500キログラム中、衛星総重量は756キログラム)から考えれば、200キログラムの衛星の打ち上げコストはおよそ980万ドルとなり、スペースXの10倍近い。Vegaのほうが計画では先行していただけに、できる限り早く実証打ち上げを成功させ、より搭載能力が大きくコスト面で有利なVega-CやAriane 6へライドシェア事業を移行させる目標があると考えられる。
注目の衛星
今回のVega16号機で打ち上げられる超小型衛星には、「小型通信実験衛星」と呼ばれる名称非公開の衛星が含まれている。衛星の製造者はマクサー・テクノロジーズとなっており、重量138キログラム、リチウムイオンバッテリーを搭載しているという。この衛星は、Facebookが子会社PointView Techを通じて計画中の通信実験衛星Athena(アテナ)に該当する。
PointView Techは2018年に米連邦通信委員会(FCC)に提出した文書で、アテナと名付けられたNGSO衛星(非静止通信衛星)を計画していることを公表した。衛星は高度517キロメートル、軌道傾斜角97.4度の軌道で運用される計画で、重量は150キログラム以下となる。打ち上げはVegaロケットで2019年を予定していたが、2019年のVega15号機打ち上げ失敗により、2020年にずれ込んだのが今回の16号機だ。また、衛星の製造者としてFCC提出文書に記載されているSSL(スペースシステムズ・ロラール)は、現在はマクサー・テクノロジーズに吸収されその衛星製造部門となっていることから、製造者名でも一致する。
アテナ衛星に関する米海洋大気庁NOAAの資料によれば、E帯と呼ばれるミリ波の帯域での通信実験を予定しているほか、カリフォルニア州上空でカメラによる地表の観測(通信機能の実証が目的)を行う。また、IEEE SPECTRUMの報道によれば、PointView Techはカリフォルニア州のマウント・ウィルソン天文台にレーザー通信設備を設置する許可を取得している。非静止通信衛星によるメガコンステレーションと呼ばれる大規模衛星通信網はAmazonやスペースXなどが計画、整備を進めており、計画段階の衛星は総数5万機にのぼる。周波数の確保が難しくなる中で、Facebookは電波のように周波数の制約を受けないレーザー衛星通信の実証を試みるとも考えられる。
また、イタリアの衛星サービス企業D-Orbitは、小型衛星放出システムION(InOrbit NOW) Satellite Carrierの初実証を行う。IONはキューブサットのような超小型衛星を複数納め、目標の軌道へ放出する機構で、今回は地球観測企業Planetのキューブサット型地球観測衛星12機を放出する予定だ。
D-Orbitは、2020年4月に日本のインターステラテクノロジズ(IST)、丸紅とともに業務提携を発表している。超小型衛星の運用企業は、こうした小型衛星放出システムを通じて打ち上げロケットを決めることがあり、衛星放出機構の事業者は超小型衛星とロケット事業者をつなぐ打ち上げコーディネーターとしての役割も持っている。D-Orbitを通じて、ISTが開発中の衛星打ち上げロケットZEROに顧客を獲得できる可能性もあり、初実証の成果が期待される。
アリアンスペースによるVega 16号機打ち上げの模様は、YouTubeのアリアンスペースチャンネルで中継される予定だ。