森保監督が考える4-3-3から4-2-3-1へのシステム変更の狙いは何か?【パラグアイ戦分析】
W杯に向けたチーム強化のラストフェーズ
6月の国内4連戦は、森保ジャパンにとって、本番に向けたラストフェーズにあたる。もちろん結果を出すことも大切な要素のひとつではあるが、やはりこの段階では試合内容が重要になる。
いかにしてドイツやスペインから勝ち点を稼ぎ、グループリーグ突破を目指すのか。メンバー編成や戦術も含め、あくまでもその目標を基準にして、逆算しながら本大会までの日本の戦いぶりを見ていく必要がある。
その視点で見た場合、4-1で完勝した2日のパラグアイ戦をどのようにとらえるべきか。そこに、森保一監督が描く本番での戦い方は反映されていたのか。あるいは、本大会までに改善しなければならない問題点を見つけることはできたのか。
華々しい勝利という結果に流されることなく、W杯本大会での目標達成のためのプロセスとして、改めてこの試合を掘り下げてみる必要があるだろう。
まず、試合前日に森保監督が「ブラジル戦に最終予選を戦ってきた選手を起用しようと思っています」とコメントしたように、この試合のスタメンは、吉田麻也と遠藤航を除き、これまでプレータイムが限られていた選手と代表デビュー戦の伊藤洋輝が名を連ねた。
GKには2020年11月17日のメキシコ戦以来の出場となるシュミット・ダニエル。DFは右から山根視来、谷口彰悟、吉田、伊藤の4人。中盤センターは遠藤、右に原口元気、左に鎌田大地、そして前線は右ウイングに堂安律、左に三笘薫、1トップに浅野拓磨という11人だ。
もちろん、W杯メンバー入りを目指す選手たちにとっては、ここからが本当のサバイバル。そういう意味で、直近(3月のアジア最終予選)の招集メンバーから外れた堂安律と、昨年10月7日のサウジアラビア戦を最後にスタメンから外れ、最近は招集されなくなっていた鎌田大地のふたりが、とくに高いパフォーマンスを見せたことは、チームにとってポジティブな材料と言えるだろう。
もっとも、試合は対戦相手あってのもの。仕方がないとはいえ、この試合のパラグアイが本大会の戦いを想定できるレベルになかったのは明白だった。
長距離移動による疲労やモチベーションの違いはもちろん、W杯予選敗退を強いられたパラグアイにとって、現在は世代交代を含めたチーム作りの初期段階。
「経験値の高い選手たちがこの試合に出られなかった影響は大きく、今日の選手には、このレベルの国際試合を戦うには経験値が足りなかった」とは、昨年10月に就任したばかりのギジェルモ・バロスケロット監督の試合後のコメントだが、もうすぐ丸4年を迎える森保ジャパンとは、チーム強化の年月という点においても大きな差があった。
日本の攻撃は個の力で機能した
そんな主力不在のパラグアイを率いるバロスケロット監督が、この試合で採用した布陣は、スペインのセルタ(エドゥアルド・コウデ監督)も採用する4-1-3-2。ピボーテ(アンカー)の前に3人のMFと前線に2トップを配置する変則的な布陣だ。
ただし、守備時(日本がボールを保持した時)は4-4-1-1に可変し、2トップの一角を務める7番(デルリス・ゴンサレス)が遠藤へのパスコースを消す役割を担当。そして本来は守備的MFの20番(リチャルド・サンチェス)が1列下がって18番(アンドレス・クバス)とダブルボランチを形成し、日本のインサイドハーフ2枚(鎌田大地、原口元気)に対応する策をとった。
しかしながら、主力不在のうえにまだチーム戦術が浸透していないため、この可変システムが機能したとは言い難いものがあった。
とりわけ、2列目両サイドの10番(ミゲル・アルミロン)と21番(オスカル・ロメロ)の守備への戻りがおろそかで、逆に日本はそれを逃さず、立ち上がりから堂安と三笘薫の両ワイドを起点としながらチャンスを構築。前半だけでシュート10本を記録するなど、ゲームを支配することに成功した。
とはいえ、慣れないメンバーでチームを編成したこともあってか、再現性の高い組織的攻撃によってチャンスを作っていたかと言うと、そうではなかった。どちらかと言えば、鎌田や堂安の創造性、三笘の突破力といった、選手個人の力に頼ったアドリブによる攻撃が目立っていた。
事実、1トップに浅野拓磨が入ったこともあり、前半に記録した敵陣でのくさびの縦パスはゼロ。4-3-3に布陣変更してから縦パスが減少傾向にあったのは確かだが、さすがに1本もなかったことはない。
しかもクロスボールも4本しかなく、過去最低レベル。ダイレクトパス3本以上をつないだ連動性のある攻撃も、1度も見られなかった。
サイドチェンジが有効だった理由
そんななか、前半における日本の攻撃でとくに目立っていたのが、サイドチェンジの活用だった。これは、過去の試合では見られなかった攻撃パターンだ。
立ち上がり5分、敵陣右サイドの堂安から三笘へのロングパスを起点に、大外からオーバーラップした伊藤がマイナスのクロスを入れ、ボックス内で堂安がシュート。惜しくもシュートはGKにセーブされたが、その後も11分、15分、33分と、前半だけでサイドチェンジから4度のチャンスを作り出している。
しかも、11分は自陣右ハーフレーンから遠藤が左の三笘へロングパスを入れ、最後は鎌田がポストを直撃するシュートを放ち、15分には左の鎌田から右の堂安へサイドチェンジしたあと、原口がシュート。
33分は、11分のシーンと同じように堂安から左の三笘へサイドチェンジしたあと、オーバーラップした伊藤がクロスを入れたところでDFにブロックされたが、いずれもサイドチェンジをきっかけに、相手ゴールに迫ることができていた。
要するに、パラグアイの10番と21番の戻りがおろそかななか、4バックの相手に対して日本の両ウイングが幅をとったことで、ボールサイドとは逆の相手サイドバック(SB)は中央に絞らざるをえなくなり、その背後にサイドチェンジを打ち込むスペースが生まれたというわけだ。
森保監督が4-3-3に基本布陣を変更して以来、右に伊東純也、左に南野拓実を配置した過去の試合では、今回のようなサイドチェンジは見られなかった。なぜなら、攻撃時は左ウイングの南野が中央寄りに移動し、左で幅をとる役割を担うのは左SBの長友佑都になるからだ。
SBが高い位置をとれば、当然、相手のマーカーもついてくる。そこにサイドチェンジを使えるスペースはなくなり、逆に長友から右で幅をとる伊東にサイドチェンジするスペースも時間的余裕もない(相手4バックが左にスライドしているため)。
この試合の前半を振り返る時、伊藤のロングフィードから縦に速い中央突破で浅野が決めた36分の先制ゴール、あるいは堂安の高精度クロスが相手GKの判断ミスを誘い、鎌田がヘッドで決めた42分の追加点と、ゴールシーンだけが注目されがちだ。
しかし、サイドチェンジが前半のパラグアイを苦しめていた点は、この試合の日本の攻撃を見るうえで見逃せないポイントだった。
問題は、これが本番を想定するなかでチームとして意図したプレーなのか、それとも単純に選手のキャラクターによって起きたプレーなのか、という点だ。これについては、今後の試合でも確認していく必要があるだろう。
本大会に向けた4-2-3-1の使い方
2-0で迎えた後半は、日本が開始から遠藤、吉田、浅野を下げて、アンカーに板倉滉、左SBに中山雄太、1トップに前田大然を起用。左SBの伊藤がセンターバック(CB)に移動し、陣形を変えずに4-3-3を維持した。
遠藤と吉田の交代は、4日後のブラジル戦を考慮してのもので、おそらく予定されていた交代策だと思われる。
このように、フレンドリーマッチの後半は、試合展開とは無関係な選手交代が多くなるため、参考になるような材料が少なくなる傾向は否めない。
しかしそのなかで、ひとつだけ確認しておくべきは、森保監督が後半61分に原口に代えて田中碧を起用し、布陣を4-2-3-1に変更したことだ。
森保監督は、本大会に向けて4-3-3以外のオプションを準備する意思を表明している。4-2-3-1は、アジア最終予選のオーストラリア戦(ホーム)より以前に、一貫して採用してきた布陣だ。
しかし4-3-3を基本布陣に変更してからは、昨年11月16日のオマーン戦の後半、あるいは今年3月29日のベトナム戦の後半のように、攻撃的に戦う際に採用している。そしてこのパラグアイ戦でも、その傾向が見て取れた。
後半のパラグアイは、前半に機能しなかった守備時の4-4-1-1を修正。20番と21番の位置を入れ替えて、21番を遠藤の見張り役とする中盤ダイヤモンド型の4-4-2のかたちにして、2トップが日本のCBに圧力をかける守備方法に変更した。
そして後半59分、その守備方法が見事にはまり、伊藤のパスミスを誘発。最後はデルリス・ゴンサレスがネットを揺らすことに成功している。
日本はその直後の60分に三笘のゴールで3-1としたわけだが、田中をピッチに送り出したタイミングを考えると、森保監督が1点差に追いつかれた時に攻撃的布陣に変更することを考えた可能性は十分にある。
いずれにしても、1トップ下に移動した鎌田がよりゴールに近いエリアでプレーするようになってPKを誘発し、後半85分には田中のゴールをアシスト。後半はクロスも10本に増加するなど、改めて4-2-3-1の攻撃面における有効性は示すことができた。
果たして、森保監督はW杯本大会に向けて、4-3-3と4-2-3-1をどのように使い分けるつもりなのか。あるいは、過去数回だけ採用した3バックの採用も視野に入れているのか。
パラグアイ戦では確認できる材料が少なかった守備面の課題も含め、森保監督の本大会に向けた青写真がいかなるものなのか、注目すべきポイントは多い。
(集英社 Web Sportiva 6月5日掲載・加筆訂正)