「日本経済の回復は韓国より遅い」携帯料金引き下げが円高招く? 世界経済は今年後半にコロナ危機を克服
[ロンドン発]「世界の実質GDP(国内総生産)は今年第3四半期にコロナ危機前の2019年後半のピークを超えると予測されるものの、日本や欧州単一通貨ユーロ圏は来年後半にずれ込む」――英金融情報会社IHSマークイットのエグゼクティブディレクター、サラ・ジョンソン氏は22日こう予測した。
「アジア太平洋地域が世界経済の回復をリードしている。中国、台湾、ベトナムは昨年半ばにはコロナ危機前のピークまで戻し、インド、インドネシア、韓国は今年夏に回復を完了する見通しだ。アメリカ経済も今年第2四半期に新たなピークに達する」
「来年後半までコロナ危機前までの回復がずれ込むのはユーロ圏、日本、南米。(コロナ危機によるダメージが大きかった)イギリス、イタリア、スペイン、南アフリカや、ナイジェリアの回復は2023年半ばから後半になるだろう」
米英ではワクチン接種が広がり、ボリス・ジョンソン英首相は3月8日から段階的にロックダウン(都市封鎖)や学校閉鎖などの活動制限を緩和していく方針を表明。世界の実質GDP成長率は今年第2四半期、年率換算で5%まで回復、企業は持続的回復の自信を取り戻し、新規投資を行うと予測する。
「ワクチンの調達可能性の拡大、治療法の改善、季節的影響に応じて、今年はこれからコロナ危機が後退すると予測している。今年7月までに世界は最も脆弱なグループが保護され、死亡率は低下し、入院患者数を管理できる転換点に達する。活動制限はそれほど重要ではなくなり、経済が再開できる」
「世界経済の年間成長率は今年後半、平均で6%に近づく。昨年、3.7%縮小した後、世界経済の実質GDP成長率は今年5.0%、来年4.2%まで上昇するだろう。2023年にはより持続可能な3.1%のペースに落ち着く」とIHSマークイットのジョンソン氏は予測する。
アメリカの実質GDPは今年4%回復すると先月に予測されていたが、今回、5.7%に上方修正された。米議会に提出されている1.9兆ドル(約200兆円)の刺激策も予測に織り込まれており、来年第2四半期に完全雇用に達する見通し。米連邦準備理事会(FRB)は2024年半ばに政策金利の引き上げを開始するとみられる。
欧州は昨年後半から今年初めにかけ、コロナの第2波で景気の「二番底」に見舞われている。しかし感染率の低下とワクチン接種プログラムにより経済の再開が促進され、今年春から消費者主導の急成長が見込まれる。しかし債務負担の増加、高齢化、弱い生産性の向上は長期的な成長の見通しを低下させている。
中国はコロナの新規発生をほぼ完全に封じ込めているものの、封じ込め措置と、消費者需要の軟化により、今年第1四半期の成長は鈍化。今年の実質GDP成長率は7.6%に達するものの、経済改革の停滞により生産性の伸びが鈍化するため、再び2012年以降の減速傾向に戻る。
コロナ危機によるサプライチェーンの混乱は価格を押し上げている。 IHSマークイット商品価格指標は2月中旬、前年比で53%もハネ上がった。IHSマークイットのアナリストは今後数カ月の間、完成品価格の上昇が短期的に加速すると予測。コロナ危機が収まった後、インフレ圧力が強まる恐れもあるという。
以上がIHSマークイットのジョンソン氏の見立てだが、気になるのは対ドルの円相場がIHSマークイットの予測では昨年の1ドル=103.5円から2025年には92.9円と円高が進むことだ。
少子高齢化が急激に進み、個人消費の回復と生産性向上、投資がそれほど見込めない日本は今年こそ2.2%まで回復するものの、その後は1.8%、1.1%、1%、0.9%と成長率は年々、低下していく。
安倍晋三前首相の経済政策アベノミクスで円安・株高が進んだものの、菅義偉首相の携帯電話料金引き下げや観光需要喚起策「Go To トラベル事業」は市場からデフレ要因とみなされる恐れがある。
日経新聞は「物価の下落は実質金利を押し上げ、投資マネーの流入を誘う。そうすると、通貨高を招く」との見立てを紹介している。
日経平均株価は30年半ぶりに3万円の大台を回復したものの、円高傾向が強まると、輸出企業の収益悪化、株価下落、政権の支持率低迷という悪循環に逆戻りしかねないリスクをはらんでいる。菅首相の顔がますます「貧乏神」に見えてきたのは筆者だけだろうか。
(おわり)