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数字でみる、本当に怖い「雪下ろし」

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

クリスマスの日、シベリアのオイミャコンではマイナス56度まで気温が下がり、今季最低気温を記録しました。

このシベリアからの強烈な寒気団は、年末年始に日本に流れ込んで、特に日本海側の地域に災害級の大雪をもたらす可能性が出ています。

世界一雪の多い国日本

日本は「世界でもっとも雪深い国」です。

1927年に滋賀県伊吹山で観測された積雪11.82メートルは、ギネスブックにも登録されています。国内の豪雪地帯の面積は、国土全体の51%を占め、そこには全人口の15%が住んでいます。

そのため雪による事故も絶えません。年によっては130人以上が命を落とすこともあります。死亡事故の主な原因は、転倒や雪下ろしによる転落、さらに除雪の際の水分補給不足に伴う、心筋梗塞脳梗塞などもあるようです。

65歳以上の雪に関連する死亡事故の4分の3を占めるのが、屋根の雪下ろしなどの除雪作業です。積雪が30センチを超えると、屋根からの転落事故が急増するというアメリカの研究もあるようです。

雪下ろしのリスクを考えれば、しない方がいいのですが、大雪ならばそうもいきません。屋根の雪は想像以上に重いのです。

雪の重さ

ではどれほど重いのでしょう。

湿った雪は粉雪よりも6倍以上重いそうです。同じ1立方メートル当たりの重さで比べると、たくさん空気を含んだ粉雪は50キロ程度なのに対し、多量の水を含んだ湿り雪は300キロにも達します。

もし100平方メートルの屋根の上に均一に雪が2メートル降り積もったとしたら、重さは60トンに及びます。60トンはどれほど重いかと言えば、横綱・白鵬だと400人分、恐竜ティラノサウルスだと約10頭分です。

雪下ろしの注意点

これだけの重さです。雪は家屋にとって重荷であるばかりか、除雪作業中の命取りとなります。下記の点などを心掛けて、安全に雪下ろしをなさってください。

・1人で作業せずに、2人以上で行う

安全帯をつける

悪天候時を避ける

・完全に屋根から雪をなくすと滑りやすくなるので、屋根に少し雪を残す

雪の落下にも注意

屋根からの転落と同様に恐ろしいのが、落雪です。

落雪による死者数は、雪の死亡事故全体の15%にも上るようです。ある統計では、1~2メートルの雪に埋没した場合、25%の人が即死するというデータもあるほどです。

落雪事故を防ぐためにも、下記のような対策が必要です。

・雪下ろしをする際、監視する人も配置して安全確保する

・雪下ろしをする前に、下に人がいないか確認する

下で同時に除雪を行わない

ぜひ電話で注意喚起を

気象庁出典の27日の最深積雪の図に筆者加筆
気象庁出典の27日の最深積雪の図に筆者加筆

12月中旬に降った大雪で、1メートル以上の雪が地面に積もっている地域が多数あります。この上に大雪は降るわけですから、年末年始は大変危険な状態になると予想されます。

大雪が予想されている地域に、ご家族や知人の方がお住まいの方も多いかと思います。前述のように、65歳以上の雪による死亡事故で4分の3を占めるのが除雪作業です。

もしかするとテレビやネットなどで情報を得られていないかもしれません。年末年始は特に注意なさるよう、ぜひ電話などで呼びかけをお願いします。

**参考文献**

「降雪量と雪による死傷者数の関連とその地域差に関する研究」(明神大也、筒井秀代、中村美詠子、尾島俊之/社会医学研究) PDF

『気象災害を科学する』三隅良平、ベレ出版 

「豪雪地帯の現状」国土交通省 PDF

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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