中国的になれない欧州の悲劇 コロナ第2波の感染爆発防げず スペインで再び国家非常事態宣言
[ロンドン発]欧州が新型コロナウイルスの第2波にのみ込まれています。10月23日時点で世界全体の1日当たり新規感染者数は約39万5600人。イギリスと欧州連合(EU)を合わせたそれは約13万8700人で、世界全体の35%を占める勢いです。
統計サイト「Our World in Data」のデータをもとに作成した上のグラフを見ると、欧州(イギリスとEU加盟国)の新規感染者数は指数関数的に増えていることが分かります。欧州各国は第1波の時のような医療崩壊を避けるため、夜間の外出禁止令など厳しい移動・接触制限の措置を再発動しています。
スペインは2度目の国家非常事態宣言
「欧州とスペインは第2波にのみ込まれているのが現実だ。私たちが直面する状況は尋常ではない。この半世紀で最も深刻だ。生命の犠牲は可能な限り抑えなければならない。しかし私たちは経済も守らなければならない」――。
スペインのペドロ・サンチェス首相は10月25日、2度目となる国家非常事態を宣言し、午後11時から翌日午前6時までの外出禁止令を発動しました。半年間は継続される可能性があります。例外は出勤、医薬品の購入、高齢者や子供ら家族の世話などに限られます。
それぞれ17自治州や2自治市の首長は外出禁止となる時間を午後10~12時、午前5~7時の間で調整、家族以外の人の集まりを6人までに制限し、自治州や自治市の境界を閉鎖することもできるようになります。医療崩壊を恐れる自治州は中央政府に対して国家非常事態を宣言するよう要請していました。
スペイン政府は今月1日、7人以上の会合を禁止、飲食店についてカウンター席を禁止し、午後10時閉店の措置を取りました。9日には首都マドリードで15日間の非常事態宣言を発動。感染者は16日に計100万人を超え、サンチェス首相は「300万人になる恐れがある」と危機感を募らせていました。
スペインでは社会労働党が少数政権を担っています。コロナ危機を勢力拡大の好機と見た野党の国民党や極右政党VOXの協力が得られず、第1波で被害を拡大させた一因になりました。効果的な検査・接触追跡・隔離システムを設定できたのは一部の地域にとどまりました。
イタリアでは結婚式、葬式も禁止
イタリア政府も25日、映画館・劇場・プール・ジムを閉鎖、午後6時にはバーやレストラン、アイスクリーム店を閉店する措置を発動。ジュゼッペ・コンテ首相は「11月中、新しい対策を順守できれば流行曲線を抑制できる。12月にはより穏やかなクリスマス休暇を迎えることができる」と記者会見で話しました。
飲食店で一緒にテーブルに着席できるのは4人まで。イベントやフェアだけでなく結婚式、洗礼式、葬式の集まりも禁止されました。高校では少なくとも75%の生徒を対象にオンライン授業を実施します。
イタリア政府は今月7日、非常事態宣言を来年1月31日まで延長することを発表。マスクは公共交通機関利用時だけでなく、屋内外では住居を除き着用が義務付けられました。13日には飲食店の営業は着席午前0時まで、着席なしは午後9時までと規制しました。
ミラノを州都とするロンバルディア州は22日から午後11時から翌日午前5時まで外出を原則禁止。職務や生活上の必要性や健康上の理由、自宅に帰る場合も自己宣誓書の提示を求められます。首都ローマがある中部ラツィオ州でも23日から30日間、夜間の外出禁止措置がとられました。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「私たちの集中治療サービスには持続不可能な圧力がかかっている」と危機感を募らせ、10月17日から最低4週間の衛生緊急事態宣言を全土に発動しました。フランスでは1日当たりの新規感染者数は5万2千人を突破しました。
パリを含む9都市圏で午後9時から午前6時まで外出が禁止され、レストランや劇場、映画館が閉鎖されました。外出申請書や身分証明書の携帯が義務付けられ、違反者には135ユーロ(約1万6700円)の罰金。結婚式や学生パーティーは禁止。家族や友人の集まりも6人までです。
「チェコのトランプ」がワースト1
人口100万人当たりで見た1日新規感染者数では「チェコのトランプ」と呼ばれるアンドレイ・バビシュ氏が首相を務めるチェコが最悪。ベルギー、スロベニア、オランダ、フランス、スペイン、クロアチア、イギリスの順に多くなっています。
しかし死者数は第1波に比べるとスペインで約4分の1、フランスやイギリスで約5分の1、イタリアで約6分の1程度です。
欧州各国とも第1波の時に比べて検査態勢が充実し感染状況をより正確に把握できるようになりました。そのため第2波の山が第1波より大きいように見えますが、血清検査をもとにした英誌エコノミストのモデルでは実際の山は第1波の方がはるかに大きくなっています。
しかし新規感染者数がこのまま指数関数的に増えていけば入院患者が激増して医療が逼迫し、今後、死者が拡大する恐れは十分にあります。
欧州が第2波を防げなかった理由とは
それにしても欧州各国が第2波の発生を抑えることができなかった理由は何なのでしょう。
(1)経済への影響を恐れて厳しいコロナ対策を継続できなかった
国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると欧州単一通貨ユーロ圏の成長率は今年マイナス10.2%。ドイツはマイナス7.8%、フランス、イタリア、スペインはそれぞれマイナス12.5%、同12.8%、同12.8%。イギリスもマイナス10.2%と深刻な落ち込みが予測されています。
欧州各国とも都市封鎖(ロックダウン)で第1波を収束させたあと、ホリデーを解禁するなどコロナ対策を下のグラフのように大幅に緩めてしまいました。これが第2波を拡大させる大きな要因になりました。
(2)裏目に出た自由放任主義
基本的に自由主義、個人主義が根付く欧州では国家権力の介入を嫌う傾向が強くあります。特に自由奔放な若者たちは第1波の規制が解除されたとたん、パブやバーで飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎを繰り広げました。その結果「見えない感染」を家庭の中にまで広げてしまいました。
(3)国境を越えた移動の自由が認められている
欧州26カ国はパスポートなしで国境を越えることができるシェンゲン協定を結び、「人の自由移動」を認めています。さらに多くの国が旧植民地と人のつながりを持っています。コロナ危機で「人の自由移動」はある程度、制限されたものの、移動・接触制限が緩和されて人の行き来が活発になると感染拡大を止められません。
(4)移民社会
欧州の多くの国は国内に移民社会を抱えています。低所得者層の移民はリモートワークができない仕事をしているケースが多く、狭い住宅に住んでいるため感染のホットスポットになる恐れがあります。
(5)中央集権的でないことがハンディに
中央集権国家のフランスでさえ第2波の拡大を防げませんでした。一方、他のEU加盟国は連立政権が多く、地方分権も進んでいるため、今回のコロナ危機では強力な国家介入を決断できないというハンディを抱えています。
(6)緊縮財政で医療が逼迫している
世界金融危機に続く欧州債務危機を乗り切るため緊縮財政が敷かれ、多くの国で平時から医療が逼迫しています。
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中国はコロナの封じ込めに成功し、ワクチン開発でも欧米をリードしています。欧州における第2波拡大は皮肉なことに、自由と民主主義はコロナに対して非常に脆弱であることを改めて浮き彫りにしています。
(おわり)