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「LGBTばかりになると足立区が滅ぶ」東京・足立区の自民党議員が差別発言

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
足立区議会WEBサイトより

東京都足立区議会で、自民党の白石正輝議員が少子化問題に関連して「日本中がLGBTになってしまうと足立区や日本が滅んでしまう」と発言。偏見に基づく差別的な言動に批判が集まっている。

LGBTが広がると足立区は滅んでしまう

9月25日に開かれた足立区議会の定例会で、白石議員は少子化問題に触れ、LGBTについて「こんなことはありえませんが、日本人が全部L(レズビアン)、全部G(ゲイ)となってしまったら、次の世代をになう人が生まれない」などと発言した。

その後「B(バイセクシュアル)とT(トランスジェンダー)は生まれつきだが、レズとゲイについては、もし足立区に完全に広がったら足立区民がなくなってしまう」と述べ、さらにレズビアンやゲイが「法律で守られている、ということだと足立区は滅んでしまう」と続けた。

性の多様性を教育で取り上げることについては「普通に結婚をして、普通に子どもを産むことが、いかに人間にとって大切なことか」と話し、足立区教育長にLGBTについて取り上げることの是非を質問した。

また、自身が3人の子どもを育てていることに触れ「ああ、子どもを産んでよかったな」と述べ、「国会議員が子どもを最低3人は産んで欲しいと発言すると、女性蔑視だ、子どもを産むか産まないかは女性の権利なんだとめちゃくちゃに叩かれてしまった」と発言した。

偏見による妄言

白石議員の発言は、事実に基づかない憶測や偏見で少数者をおとしめる極めて悪質なものだろう。

“こんなことはありえない”と自身で否定しているにもかかわらず、「日本中がLGBTになると国が滅びる」という点については論理的にも破綻している。

まず、自身が今すぐに同性愛者になれと言われたらなれるのだろうか。性の多様性を教育で取り上げることは、今すでに存在しているLGBTの可視化には繋がるが、”LGBTばかりになる”ことはない。

「BやTは生まれつきだが、レズやゲイが広がったら足立区民がなくなってしまう」という点も、全く論理的ではない妄言といえる。

自身が子育ての経験から「ああ、子ども産んでよかったな」と述べたが、出産したのは白石議員ではないだろう。それにもかかわらず、「子どもを3人は産んで欲しいと発言すると叩かれる」などと女性を産む機械と捉えることに肯定的かのような発言を続けている。

議員によるヘイトスピーチの問題

議員という立場で差別的なヘイトスピーチを行うことは非常に問題だ。

なぜならその侮蔑的な発言が、当事者に押しつけるスティグマ(負の烙印)を強化してしまうだけでなく、その考え方や発言が具体的な政策につながってしまった場合に、マイノリティの人権が侵害されてしまう可能性があるからだ。

10代のLGBTの当事者のうち、約半数が学校でいじめ被害を経験しているという調査結果がある。2016年の初回調査に加えて、2019年の調査でもその割合はほぼ変わっておらず、状況は改善していない。

LGBTについて取り上げる教科書は増えつつあるが、学習指導要領には未だ含まれておらず、LGBTの子どもの生きやすさは、たまたま意識のある教員やLGBTについて取り上げられている教科書と出会えるかといった"運命"に委ねられてしまっている現状だ。

いじめ被害をなくすという観点からも、既に世の中が多様であるという社会の現状を認識するという点からも、多様な性のあり方について教育で取り扱うことは重要だろう。

政治家による差別発言の増加

近年は、LGBTに関する政治家の差別的な発言が増えている。

2019年1月には、自民党・平沢勝栄議員が「LGBTばかりになると国がつぶれる」と発言。同年9月、鹿児島市議会の上田勇作議員が、パートナーシップ制度について「自然の摂理に合った男女の性の考えを強調すべき」などと述べ、批判を集めた。

最も物議を醸したのは、最近も性暴力被害に関し「女性はうそをつける」などと差別的な発言をし批判を集めている自民党・杉田水脈衆議院議員による「LGBTは生産性がない」という言説だろう。

これらの議員に共通するのは、まさに子ども産めるか産めないかという「生産性」によって命を選別し、マイノリティの人権を制限する考えだ。

少子化問題について、ただ「産めよ増やせよ」と言い続け、「生産性」によって多様な性や家族のあり方を否定することは、そもそも少子化対策に繋がらないだけでなく、マイノリティの命をおとしめる非常に有害な考えだと言える。

足立区議会の白石議員は議会での発言の中で、「私たちが政治をやっているのは、将来の足立区民が幸せに、日本人が豊かに過ごせるためではないですか」と述べている。

その”足立区民"の中にLGBTやマイノリティの幸せや豊かさは想定されていないのだろうか。

こうした差別的な考え方の人物が、この程度の知識で議員を務められてしまう現状に憤りを覚える。

何のために政治をやっているのか、白石議員こそ今一度考え直すべきだ。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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