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コロナにかかって隔離期間が明けたあとの話 ”Covid-19 Aftermath” -後編-

國松淳和日本内科学会総合内科専門医, 日本リウマチ学会リウマチ専門医
イタリアのシチリア, パレルモ県プリッツィでの復活祭:Devils Dance(写真:アフロ)

前編から引き続いて今回は後編です。

後編では、コロナ感染後、隔離状態が終わった後でもなお残る諸症状(”aftermath/余波・後遺症”)を、臨床医として私が実際にどうみているか、どう取り組もうとしているか、について説明します。

はじめに、新型コロナの後遺症「LONG COVID」の(1)〜(4)を抜粋し直しておきます。これは前編の復習です。

(1) 肺、心臓への恒久的障害

(2) 集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)

(3) ウイルス後疲労症候群(post-viral fatigue syndrome)

(4) 持続するCOVID-19の症状

今回(前編・後編)の私の記事では、(3)(4)を意識しています。

ちなみに、ちゃんとしたことを最新の知見に基づいてしっかり学びたい人は、忽那先生の最新の記事のこちらをご覧ください。

■私のpost Covid-19(ポスコロ)診療

そこで、そんな状況におられる患者さんたちに対して私自身が考えていることを説明していきたいと思います。

隔離期間が終わっていても、症状があるのなら、医療機関に受診したほうがいい

すべての症状が「コロナのせい」と言えないこともあります。

たとえば実は隠れて肺がんがあるとか、コロナにかかって参ってしまい不眠症になってしまっているとか、自粛し過ぎて膀胱炎をこじらせ腎盂腎炎になってしまっているとか、この際なんでもいいですが、症状がつらいのなら医者にかかったほうがいいと思います。

私の臨床医としての心がけ

コロナ禍では、特に発熱患者さんにですが、医者や看護師は患者に触らなくなりました。発熱外来に受診した人やコロナ病棟に入院した人などならわかると思いますが、医療者が体じゅうしっかりと覆われた医療用ガウンをきて、力強いマスク(N95)をして、ゴーグルやフェイスガードで顔にカバーがかかっていたりもして、そしてそもそも病室にも頻繁に出入りしません。

診察ですら必要最低限にするか、控えます。

つまりコロナ患者さんは、ずっと触られてこなかったのです。

これは、家族や恋人からもそうだと思います。

そこでは私は、このような「ポスコロ患者さん」に対しては、丁寧に身体診察をすることを心がけています。

実際に患者さんに触り、口の中や服の下などを観察し、聴診器を当てて、丁寧に診察をします。

そして、(過剰にではなく)普通に、その諸症状から類推してそれに見合う必要だと思える検査を、普通にします(要らないと思ったらしません)。

繰り返しになりますが、発熱外来に受診した人やコロナ病棟に入院した人は、入院中検査すらあまり念入りに実施されません。なぜなら、感染者を検査室に移動させたり、検査のたびに患者に接触したりすることは、医療者への感染あるいは院内感染のリスクになるからです。

■私がみた post-acute COVID-19 syndrome(ポストコロナ症候群)

最初に紹介した忽那先生の記事で忽那先生も述べておられますが、

海外では「LONG COVID」「Post COVID」などと呼ばれていますが、日本国内では「後遺症」と呼ばれることが多いため、ここでも新型コロナ後遺症という表現を使います。

と、呼称には”ゆれ”があります。

私ももちろん同意見というか、正直なんでもいいと思っておりますが、こちらの米国感染症学会が提供する情報サイトでは、「non-critical COVID-19における、post-acute COVID-19 syndrome」という言い方を採用しており、これをあえて説明的に訳せば「重症ではなかったが症状はあった新型コロナ感染症にかかった後の、一連の諸症状」となると思います。

確かにややこしいので忽那先生のように、「新型コロナ後遺症」と呼ぶのもいいです(これだと、重症例も包括することができて便利です)が、私のこの記事ではpost-acute COVID-19 syndromeを「ポスコロ症候群」と略して呼ぶことにしますね。

ポスコロ症候群にはいくつかのパターンがあると思いました。それは、次のような感じです。

①かぜ症状が続く人

これは、単に最初のコロナかぜの症状が、ぐずぐず続いているイメージです。

せき・のど・たん・はな あたりの症状がじとっと続いている感じです。

対症療法(症状を和らげる治療)を行います。

驚きなのは、退院の時に特に薬を出されず、ポスコロで受診の時になって初めて(あるいは久々に)お薬をもらうという人がいるということです。

これは、対症療法への医師の関心の低さもあるでしょうし、また患者さんも医療機関というところへ受診することを控えてしまう心理(おっくう、自粛、申し訳ない、など)が働いてしまっているのかもしれません。

症状がつらいのなら医者にかかったほうがいいと思います。

②味覚・嗅覚が低下している人

もはやコロナで有名な症状になってしまいましたね。

感染が終わっても、味覚・嗅覚が低下している人もいます。

しかも回復のスピードが非常にまちまちです。

嗅覚よりも、味覚が落ちた人のほうが生活の質が低いです。

臭いだけの人は、比較的楽に過ごしている印象です。

個人的にはあまりまだ特効薬的な治療法を見いだせていません。

嗅覚に関しては、この辺りの理屈を今後応用していきたいと個人的には考え、当帰芍薬散や加味帰脾湯などを試してみてはいます。今後、診療で改良を重ね、良い方法を見出していきたいと思います。

③気道過敏・アレルギーのような症状が残る人

これは咳がずっと続いている人のイメージです。

これは、医者は慣れていると思います。これまでもいわゆるかぜをひいた後に咳がずっと続く人などは普通にいて、それと同じ原理だからです。

普通の内科系の医者ならわかるはずので、是非医療機関におかかりください。

私なら、胸のレントゲンをとったりした上で、(喘息ではないのですが)喘息に使う薬を借りてアレルギーを抑える治療をすると思います。

(ところで、コロナ後遺症の咳と思っていたら、全然それとは別個に心不全を発症しているかもしれませんよ?)

④咳反射亢進状態

これは③とセットにして考えるべきもので、少し専門的です。

私だけの、まだまだ少ないポスコロ診療の中で考えていることではありますが、③とは違う咳のしくみを想定しています。

日常的な言い方をすれば、アレルギーを抑える治療をしてみたのによくならない咳と考えればいいと思います。

この④では、咳過敏症症候群 cough hypersensitivity syndrome に近い病態になっているとみています。

この診断・治療は普通は難しく、呼吸器内科専門医にかかることが必要になるかもしれません。

私が治療するならば、通常は手足のしびれを和らげるために使うお薬があるのですがそれを応用して、咳の反射が過敏になってしまっているのを抑える治療を試みることにしています。

ウイルスが出てないからいい、ではありませんよね。

やっぱり咳は止めたいですよね。

手段を選ばず、という気持ちにもなってしまうのも無理もないと思いますし、私としてはそのニーズに応えたいです。

⑤微熱・体力低下・意欲減退・疲労感

これらに対する治療は、画一的なものはありません。

なぜなら、同じような症状に見えても、1人1人症状やお困りの内訳などが、全然違ったりするからです。

これに関しては、施設や検査機器などの差ではなく、臨床医の技術(みたて)の差が出てしまうかもしれません。

患者さんという全体をみる必要があり、ここで簡単に説明するのは難しいです。

私の場合はこの⑤については、つらい症状や、その人が同時に持っている病気(例えば片頭痛、便秘症、不眠症、過敏性腸症候群、月経困難症、頸椎症、過活動膀胱、など、他なんでも)の全部にまず取り組むようにしています。

なぜかというと、1人の体の中でさまざまなことがつながっているからです。

関係ないように見える問題でも、少しでもよくしてあげると、他の問題がよくなるということはよくあります。

今回の記事はだいたい以上になります。

コロナにかかり隔離期間が明け、そのあとの余波《Covid-19 Aftermath》を受け始めた段階での、診療の実際のお話でした。

季節はこの後、スギなどの花粉症の季節になります。

ポスコロ症候群と花粉症の症状は、似ていて紛らわしいということもありますし、症状がある人はチャンスをみて受診しておきたいものです。

コロナに感染した人たちというのは、命に別状はなく隔離期間を終えても、さまざまな苦痛を内に秘めて暮らしています。

その苦痛の内訳が「症状」であるならば、医療機関の出番だと個人的には思っております。

医療者の中には

  • 「こんな医療リソースが逼迫しているときに軽い症状で来られても」
  • 「コロナのあとは、症状があっても対症療法くらいしかないのだから来られてもやることがない」

という言い分もあるかもしれません。

それも分かります。ですが私は、今は社会をそういうムードにしないほうがいいと思ってます。

なぜなら、このコロナ禍のさまざまな問題というのは、単純に”誰か”のせいにして済むような社会問題とは、質も量も構造も異っている と思うからです。

* お医者さんはじめ医療者の人たちへ

どうやらコロナは、社会全体のバランスを考えると、「命を取り止めればそれでいい」とも違うようです。

ですが、重症のコロナの入院を受け入れることができるような総合病院の先生がたに、こういう軽症の「ポスコロ診療」をお願いするのは酷です。

「A病院に入院していたんだから、またA病院でみてもらいなさい」と言いたくなる気持ちも分かりますが、隔離期間が終わっているなら、どうか諸症状をどの医療機関であってもみてあげてください。

それは、重症コロナを受け入れる病院の崩壊も防ぎますし、ひいては何より患者さんのためになりますよね。

みんなで力を合わせたいところです。

* 患者さんへ

治せ!!

おれは治っていない!!!

・・・などと医療者にすごむのは控えましょう(そもそも大きな声を出してはいけません)。

医療者のせいでコロナが流行したり感染したりしたのではありません。

不安で、症状もつらいのは分かりますが、すみませんが辛抱づよくお話を伝えてみてください。

私も順に話を聞いて、丁寧に診察するようにしますので。

医療者を代表するわけではないのですが、なんだか現在、一からコロナ社会仕様の医療文化を構築するような気分になってしまっています。そういう意味では少しお待ちください。

あ!待っていてはダメでした。

手洗い・マスク・三密回避がありました。

そして、家族以外との会食は「今はやめとこーぜ」のスローガン

これらを引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

日本内科学会総合内科専門医, 日本リウマチ学会リウマチ専門医

内科医(総合内科専門医・リウマチ専門医)/医書書き。2005年~現・国立国際医療研究センター病院膠原病科, 2011年~同院総合診療科。2018年~医療法人社団永生会南多摩病院総合内科・膠原病内科部長。不明熱や不定愁訴, 「うちの科じゃない」といった臨床問題を扱っているうちわけがわからなくなり「臓器不定科」を自称するようになる。不定, 不明, 難治性な病態の診断・治療が専門といえば専門。それらを通して得た経験と臨床知を本にして出版することがもう1つの生業になっており, 医学書の著作は多い。愛知県出身。座右の銘:特になし。※発信内容は個人のものであり, 所属した・している施設とは無関係です。

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