ANAインスピレーション、あの「壁」があっても無くても、18番でドラマが起こる!?
今週、女子ゴルフはメジャー大会のANAインスピレーションが開催される。日本では渋野日向子らの活躍に期待が集まっているが、米ゴルフ界では50周年を迎えている同大会で「壁なきダイナショア」が、どんな展開を導き出すのか」が話題になっている。
昨年大会では、18番グリーンの「壁」が勝敗を左右する形になり、大会後、その壁の存在の是非が大いに取り沙汰された。
だが、今年は「壁」が取り払われ、それはそれで賛否両論が出ている。
【「壁」が起こした昨年のドラマ】
「壁」とは、昨年大会で物議を醸した青い壁のこと。いや、正確には、大会の舞台であるミッションヒルズCCダイナショア・トーナメント・コースの18番グリーン奥側に立てられていた青い看板のことだ。
この看板は、一昨年も18番グリーンに立っていた。だが、それは18番グリーン奥の巨大なギャラリースタンドとグリーン面を隔てる境界として横長に渡されており、スポンサーの広告的な意味合いとともに、ギャラリースタンドの観客を打球から保護するためのものでもあった。
しかし昨年は、コロナ禍で無観客試合だったため、18番グリーン奥にギャラリースタンドは設置されておらず、その看板だけが一昨年より横長になって左右に張り出していた上に、さらにグリーンに近づいた位置に立てられていた。
その結果、最終日の優勝争いでは、その看板が「壁」となって韓国のイ・ミリムの2オン狙いの打球を受け止め、イは「壁」に当たって止まったボールを無罰でドロップ後、チップイン・イーグルを奪って首位に並んだ。そして、ブルック・ヘンダーソン(カナダ)とネリー・コルダ(米国)とのプレーオフを制し、勝利に輝いたのだ。
勝敗を左右する格好になったその「壁」の存在の是非は、大会後にあれこれ取り沙汰され、「グレート・ウォール・オブ・チャイナ(万里の長城)」になぞらえて「グレート・ウォール・オブ・ダイナ」とまで揶揄された。
優勝したイ自身、あの第2打はややヒール側に当たったミスショット気味のものだったと振り返り、「もしもグリーン奥にあの壁が無かったら、転がって池に落ちていたかもしれない」と胸を撫で下ろしたほどだった。
【「壁」は無くても、ドラマは起こる】
そして今年。ダイナショア・コースの18番グリーンに、あの「壁」、いやANAインスピレーションの青い看板の姿はない。
壁の存在の是非を取り沙汰するより、とにかく火種になりそうなものはあらかじめ撤廃するという姿勢のようで、なんでも徹底的に備え、「徹底」を貫ぬくことは決して悪いことではないと私は思う。
だが、「壁」が無くなった今年は、それはそれで賛否両論が出ている。
そもそも、18番で2オンが狙えるのは、言うまでもなく飛距離が出るパワーヒッターに限られるのだが、「その少数の飛ばし屋たちへの対策としてわざわざ壁を取り払わなくてもいいではないか」という意見は、それなりに頷ける。
実際、飛ばし屋で知られるマデレン・サグストーンやメル・リードといった選手たちは「あの壁がなくなって、ちょっとつまらない」と落胆気味の様子だ。
米男子ゴルフの世界では昔も今も、看板やギャラリースタンドをあえて狙って打球を止める攻め方がしばしば見られる。ボールを「受け止めてくれる看板」「使えるスタンド」「使える壁」は、堂々と使う。それが「プロのワザ」「プロならではの離れワザ」と評価さえされてきた。
しかし、ゴルフコースは自然な状態であるべきゆえ、人工的なものは無くして然るべきだし、一部の選手だけが活用できるものが存在するのはアンフェアだという意見もあり、そうした意見の持ち主たちは、今年の「壁なきダイナショア」を歓迎している。
米メディアによれば、ステイシー・ルイスは、これまでこのコースの18番で2オンを狙ったことは一度もないが、「コースが設計された通りの元来の姿に戻った」と喜んでいるそうだ。
いずれにしても「壁なきダイナショア」をどう受け止めるかは、今年の大会がどんな展開になり、どんな結末を迎えるか次第であろう。
すでに練習ラウンドを行なっている選手たちの手ごたえを総合すると「4I、5I で18番グリーンを狙ったら、ボールはまず止まらない」「6Iぐらいで、止まるかどうかは微妙だが、グリーンに届くかどうかも微妙」というところ。しかし、昨年大会でレクシー・トンプソンは「7Iで届いた日もあった」と言う。
18番のティの位置、風や気温、湿度、芝の刈り具合、そしてボールのライ。さまざまな状況次第で手にするクラブは様変わりするはずで、それこそがゴルフの真髄であり、「壁」があっても無くても、やっぱりANAインスピレーションは最終ホールの18番でドラマが起こりそうである。