中国は北朝鮮をめぐり、どう動くのか?
北朝鮮が水爆実験とする核実験を行って以来、中韓首脳間の電話会談は行われていない。昨年末の日韓外相会談が影響しているからだ。中国は日米韓ブロックに対して今後どう動くのか?中朝間ジレンマを含めて考察する。
◆中韓蜜月関係は終わった
習近平政権誕生以来、習近平国家主席はパククネ大統領を抱え込もうと、中韓蜜月関係に向かって邁進してきた。特に北朝鮮訪問前に韓国を訪問したのは、中華人民共和国建国以来、初めてのことだ。
しかし、そこまでした中韓接近は、昨年末の日韓首脳会談で終わってしまった。
昨年12月28日付の本コラム「日韓外相会談により中国の慰安婦問題は困難に――今後の日中関係にも影響」にも書いたように、日韓の間で慰安婦問題に関して一応の「決着」を見たことによって、中国としては韓国とともに対日歴史共闘を戦えなくなってしまったからだ。
中国としては、この時点で「韓国は、結局は日米側を選ぶのか」という不快感を強く抱いている。
中国政府系香港メディアの鳳凰網は、日韓外相会談の翌日にすぐに(大陸の)ネット上の民意調査を始めた。
それによれば、「日韓が仲直りしたが、中日も同じように仲直りすべきか?」という質問を投げかけている。
この質問に対して90.26%のネットユーザーが「アメリカは日韓関係改善を促進させることによって中国を孤立させようとしているが、中日が仲直りすることは困難だ」としている。
このことからも推測できるように、日韓関係改善は「中国を孤立させる役割を果たした」と中国側は思っているのである。アメリカに言われれば、結局は「日本になびく韓国、パククネ大統領」に中国は苦々しい思いをしている。
韓国側としても、中国が北朝鮮に「影響力を持っているはずだから、核実験の抑止力として働くだろう」という期待を中国に抱き、また「いざ北朝鮮からミサイル攻撃をされたら、助けてくれるのは、すぐ隣にいる中国にちがいない」と期待していたにちがいない。
しかし中国は北朝鮮の核化に関して、いかなる抑止力も発揮できなかったことが判明した。
韓国としては、中国に頼っていてもしょうがないと思ったに違いない。
その微妙な心理を読みこんだのか、アメリカのB52爆撃機が、韓国上空を低空飛行した。米韓の戦闘機も随行。これはアメリカが「いざとなったときに韓国を守るのは、中国ではなくてアメリカだ」ということを、韓国に思い知らせたシグナルとして中国の目には映った。韓国の戦闘機も随行したことは、中国にとっては決定的だっただろう。
中韓蜜月は、夢のごとく消え去っていったのである。
◆中国は今後どうするのか?
では中国は「日米韓」というブロックおよび北朝鮮と、どのような距離を取っていくのだろうか?
まず確実に言えるのは、国連安保理などで北朝鮮制裁を決議するときには、拒否権を行使しないだろうということだ。
国連安保理で最も大きな力を持っているのはアメリカで、安保理常任理事国間で決議するときも、最も大きな存在感を持っているのはアメリカである。
となると、中国は韓国と距離を置き、日本とも自ら関係改善に動こうとはしない状態で国連において協力的であろうとすれば、アメリカと接近するしかない。
その意味で、1月7日付の本コラム「北朝鮮核実験と中国のジレンマ――中国は事前に予感していた」に書いたように、北朝鮮の「水爆実験」(と北朝鮮が主張する核実験)によって、米中間の距離が縮まるだろうことが考えられる。
それが軍事的協力にまで行くか否かは大きな分岐点となるが、米中の接近は北朝鮮にとっては一番大きな「屈辱」であり、脅威となることを、中国は計算している。
◆中朝関係は50年代からギクシャクしている
中朝関係は1950年6月に起きた朝鮮戦争時代から、本当はギクシャクしている。朝鮮戦争は北朝鮮の最高指導者・金日成(キム・イルソン)が旧ソ連のスターリンと示し合わせて発動したものである。建国の父・毛沢東は金日成とスターリンの策略に嵌(は)められ、やむなく参戦した。1949年10月に建国したばかりの中国は、体力を消耗しているのに中国人民志願軍を編成して北朝鮮を応援した。毛沢東は自分の息子である毛岸英を北朝鮮の戦場で戦死により失っている。にもかかわらず、朝鮮戦争が1953年7月に休戦すると、金日成は自分の権威を高めるために、まるで「朝鮮戦争を休戦に持っていき、敗戦しなかったのは自分の手柄だ」とばかりに中国人民志願軍の死の貢献を高くは評価しなかった。自分の息子を北朝鮮のために失った毛沢東としては、「耐え難い」思いをしたにちがいない。
そればかりか、60年代から中ソ対立が始まると、北朝鮮はソ連と中国の両方に等距離関係を保ち、漁夫の利を得ようとしていた。旧ソ連から豊かな原油をもらい潤った北朝鮮は、64年に核実験に成功した中国に核実験のノウハウを求めた。
しかし、あの戦略家の毛沢東が北朝鮮を警戒しないはずがない。核の技術は伝授しなかったが、経済支援と軍事同盟を約束している。
このときに毛沢東が使った言葉が「唇亡歯寒(唇なくば、歯寒し)」という中国の故事成句だ。
かつてはソ連とのパワーバランスにおいて、そして今はアメリカとのパワーバランスにおいて、「俺様がいなければ、お前は困るんだろう?」と中国の足元を見ては「やりたい放題」をする北朝鮮。中国の怒りとジレンマがいかほどのものか、想像できるだろう。
◆中国の責任を詰め寄るアメリカ
その中国を「北朝鮮を説得できるのは中国だけだ」として、中国が十分な抑止力を発揮していないことを、アメリカは非難している。
中国外交部の報道官は、「関係国全員の責任ではないのか?なぜ中国にだけ責任を押し付けるのか?関係国は自分の胸に手を当てて自問自答するがいい」と抗議した。
事実、1992年の中韓国交正常化で最悪の仲となった中朝関係は、1994年にアメリカと北朝鮮の間に米朝枠組み合意(2002年に完全崩壊)が出来上がると一変し、改善の兆しを見せた。中国の北朝鮮への経済支援を担保にした上だったが。
米朝合意が崩壊した翌年である2003年から、中国は六カ国会談を提案して北京で何度か朝鮮半島の非核化に向けて北朝鮮を交えて努力してきた。
しかし今さら、六カ国会談など、もう夢のまた夢だ。
朝鮮半島の非核化は、遠のくばかりなのである。
その責任はすべて中国にあると言っていいだろうか?
中国は北朝鮮の改革開放を目指して、中朝貿易をも盛んにさせてきた。それを率先して動かしてきた張成沢(チャン・ソンテク)氏が公開処刑されてからは、もう朝鮮半島の非核化など、元に戻せるはずがない。
かといって、アメリカもまた今さら米朝合意のようなことはできまいし、今になってそれをやれば、北朝鮮の脅しという瀬戸際外交に負けたことになってしまう。
中国が「唇」を無くすことを恐れず、陸続きで米軍が駐在していることを容認できるのなら、北朝鮮への支援(の抜け穴)を本気で断(た)ってしまえば済むことではある。
その可能性を模索するためには、70年代のキッシンジャーによる忍者外交のような米中の接近が必要となってくる。
今はロシアが、それを許さないだろう。
出口のないトンネルのようだが、このジレンマは中国だけのものではないことにも、目を向ける必要があるかもしれない。