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菅首相とバイデン大統領はガリバー旅行記に学べ 何万の糸で巨人を縛り付けた小人のように中国を封印せよ

木村正人在英国際ジャーナリスト
バイデン米大統領の誕生で菅義偉首相の役割は大きくなる(写真:つのだよしお/アフロ)

「日本は中国の脅威を封じ込める鍵」

[ロンドン発]菅義偉首相は12日、米大統領選で勝利を確実にした民主党のジョー・バイデン前副大統領と初めて電話会談、日米同盟強化の重要性を確認しました。バイデン氏は沖縄・尖閣への日米安全保障条約5条の適用についても明言しました。

バイデン大統領の誕生を受け、英紙タイムズの外交編集者ロジャー・ボーイズ氏がコラムの中で「日本はバイデン氏の外交政策にとって中国の脅威を封じ込める鍵になる」と指摘しています。

ボーイズ氏はバイデン氏の当選でアメリカは真夜中に発信されるドナルド・トランプ米大統領の衝動的なツイートから解放されて「再び夜に眠れるようになる」としながらも、バイデン氏は中国の広大な力を封じ込める計画を立てる必要があると説いています。

真の頭痛の種はトランプ氏というよりも購買力で見た国内総生産(GDP)ではすでにアメリカを逆転し、軍事力でも世界一の軍事超大国アメリカを脅かし始めた中国というわけです。21世紀に入ってからの米中関係は次のように変遷してきました。

【責任あるステークホールダー2001~10年】

ジョージ・W・ブッシュ米大統領時代の対中政策を担ったロバート・ゼーリック国務副長官(後の世銀総裁)が提唱。中国が世界貿易機関(WTO)加盟。世界金融危機で米中は協調するも、中国は国家資本主義への自信を強める。

【アジア回帰政策2011~16年】

当初、G2(米中対話)を掲げて登場したバラク・オバマ米大統領は逆に中国の習主席から「新型大国関係」を突きつけられ「アジア回帰政策」に転換。

東シナ海や南シナ海の緊張高まる。中国がインフラ経済圏構想「一帯一路」を支援するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立。アメリカは中国に対抗するため日本やベトナムなどアジア諸国と連携を強める。

【米中新冷戦に突入2017年~】

マイク・ポンペオ米国務長官が「共産主義者の中国と自由世界の未来」と題して演説。対中関与の門戸を開いたリチャード・ニクソン元大統領は「中国共産党に世界を開くことにより“フランケンシュタイン”を作ってしまったのではないかと心配していると語ったが、それが今日実現した」と糾弾。対中関与政策の終結を宣言するマイク・ペンス米副大統領(共和党)が対中関与政策の終結を宣言。

ガリバー旅行記に学べ

バイデン氏はオバマ政権下の副大統領として「アジア回帰政策」に関与しました。ボーイズ氏はアジア回帰政策について「さまざまな側面から中国問題に対処するため連合を交差させるアイデアだ」と解説し「最大の驚きは新しい秩序を築く計画の中心が日米同盟であるということだ」と表現しています。

「アジア回帰政策のすべてが実現すれば、アメリカは太平洋の大国としての将来を保証され、中国はその野心を縮小することを余儀なくされる。そして日本は東の不可欠なプレーヤーとしてみなされている」と日本の重要性を強調しています。

トランプ大統領は対中貿易赤字を解消するため関税を引き上げ、5G(第5世代移動通信システム)ネットワークから中国を締め出すよう同盟国に働きかけました。

ボーイズ氏はしかし、トランプ大統領は中国に対して壮大な腕相撲を仕掛けたものの、実際、封じ込めはガリバー旅行記のリリパット国渡航記に登場した小人たちが「何万もの小さな糸」で巨人ガリバーを拘束したように行われた場合、より成功すると言います。「何万もの小さな糸」とは何を指しているのでしょうか。

【QUAD】

安倍晋三前首相が第1次政権下の2007年に提唱した日米豪印4カ国の「安全保障ダイヤモンド」は今や「QUAD(4カ国)」と呼ばれるまでになった。10月6日に2回目の日米豪印外相会合が開かれ、年1回の定例化が決まる。イギリスが加わる可能性も。

【T12】

技術的に進んだ民主主義国家連合。イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、韓国、オーストラリア、インド、スウェーデン、フィンランド、イスラエル、アメリカ、日本。例えば5G対策で共通の立場を考え出すフォーラムになる。

【D10】

G7にインド、オーストラリア、韓国を加える。貿易や投資を武器化した中国のいじめに対応。

バイデン氏が環太平洋経済連携協定(TPP)に復帰すれば「何万もの小さな糸」はさらに強化されます。米英を中心としたアングロサクソン5カ国による電子スパイ同盟「ファイブアイズ」と日本、韓国、インドの情報協力を強化するという話も浮上しています。

2回目の日米豪印外相会合では「自由で開かれたインド太平洋」の実現が確認され、岸信夫防衛相は10月19日、豪国防相と平時に豪軍艦艇の防護実施に向け調整を始めることで合意しています。

ボーイズ氏は「これらのクラブは2つの目的を果たす。急成長する勢力によってもたらされる脅威について世界的なコンセンサスをもたらすことと、中国が単なるアジアの問題ではないことを確立することだ」と言います。バイデン大統領の誕生で、巨人・中国を縛り付ける糸の中心を担う菅首相の役割はさらに大きくなりそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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