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「一回も満足したことはない」醍醐虎汰朗が注目される理由

中西正男芸能記者
映画「天気の子」で主人公の声を担当する醍醐虎汰朗

 映画「君の名は。」(2016年)の新海誠監督最新作「天気の子」(7月19日公開)で主人公・森嶋帆高の声に選ばれたのが俳優・醍醐虎汰朗さん(18)。声優初挑戦で戸惑いも多々あったと言いますが、そこから解放してくれたのが新海監督の言葉だったと言います。日々、役者として進化を続ける醍醐さんですが「これまで、一回も満足したことはないんです。自分に対して」と真っすぐな目で語りました。

実写とアニメ

 今回が初めての声のお仕事でした。同じお芝居でも、実写というか自分がカメラの前でお芝居をするのとは全く違う。その難しさは、すごくありました。

 当たり前なんですけど、アニメはもともと絵があります。表情も、テンションも、その絵にあるものが正解なので、そこに合ったものをこちらができないといけない。

 実写ならば、表情も声も自分が作っていくので「そのパターンでも、アリだな」ということが全く別の形でも成立する部分があると思うんですけど、もともと絵という定まったものがある以上、当然、正解の幅が決まってくる。これは明らかに実写とは違うところだと感じました。

 あと、声だけで表現するアニメでは、息切れの「ハァ、ハァ…」という声一つにしても、出し方が違うというか。実写は表情とか動きもあるので、そこでしんどそうにしていたら、そこの情報もプラスされて息切れ感が伝わっていく。でも、声だけだともっと強くというか、濃くというか、そういうものを乗せて「ハァ、ハァ…」としないと本当に息切れしているようには見えない。

新海監督の言葉

 これはやってみて感じた難しさですし、それがなかなかできないことが続くと「本当に、自分が選ばれて良かったのかな…」とも思いました。ただ、そんな中、新海監督から、すごく救われる言葉をいただきまして。

 「醍醐君はそのままで(主人公の)帆高だから、何も気にしないで、リラックスしてやったらいいよ」と。

 帆高とは性格も全然違うし、僕自身は似ているとは思っていなかったんですけど、監督の目には帆高だと映っている。この作品は新海監督の作品であり、新海監督の世界。その監督が「帆高だから」と言ってくださっているということはそれが答えなんだなと…。

 そこから、変に気構えせずにできるようになったというか、のびのびとやらせてもらえるようになりました。一つの言葉で、こんなに心が落ち着くことを知りました。

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中学3年の決断

 今回も本当にありがたいお仕事をいただけましたけど、そもそも、この世界に入ったのは、中学3年の冬休みでした。今の事務所に応募して受かりまして。

 それまで熱中していたサッカーの部活を引退して、情熱を傾けるものがいきなりなくなった。毎日、なんとなく友だちと遊ぶような日々だったんですけど、このまま何も考えずに生きていくのはイヤだ。そんな思いが強く出てきまして。じゃ、何をやるのか。そこで以前から心のどこかで憧れがあった芸能の仕事という考えが出てきたんです。

 実は、サッカーはかなり力を入れてやっていて、サッカー推薦で高校も決まっていました。決まっていた高校には本当に申し訳ないですが辞退をさせてもらいまして、そこでサッカーには区切りを付けました。

 いきなりの変化で、自分でよく決断したなと思うんですけど、ま、当時の僕は逆に何も考えてなかったんでしょうね(笑)。今だったら、もう少し、いろいろなことを考えると思うんですけど、中学生の僕はただただ直感で決めて、それで動いたというか。正直な話、モテたいという気持ちもありましたしね(笑)。

 ただ、そこの自分がいたからこそ、今の自分がある。ポンと飛び込んでくれた自分がいたことには感謝するばかりです。

一回も満足したことはない

 実際に今のお仕事をやって思うのは、やっぱり僕はお芝居好きなんだなということです。友だちと遊んでるのも楽しいんですけど、現場でいろいろな方とお芝居をして、自分じゃない役を生きて…。それが本当に楽しいんです。

 そして、おこがましい話ですけど、この仕事に向いているのかも?と思うのは、根性だけはあるところかなと。何回もオーディションに落ちたりすることもありますけど、そこで気持ちが折れるんじゃなくて、逆に「絶対に、負けない」という気持ちが湧いてくる。本当に、一回、一回、悔しいんです。でも、だからこそ、次頑張ろうと思う。その繰り返しです。

 今後のビジョンみたいなことは、あまり考えないようにしているんです。なぜかというと、今回の「天気の子」も思いっきりそうですけど、オーディションを受けて合格したら世界が一気に変わる。なので、先のことは分からない。でも、お仕事をいただけた以上、僕がやることは目の前のことを一生懸命にやる。それだけだなと。その積み重ねが、また良い作品に巡りあえるきっかけになっていくのかなと。

 先日、また別の映画で北村一輝さんと4カ月くらいご一緒させてもらったんです。すごくお世話にもなったし、セリフ一つに対して、これだけ考えてらっしゃるんだということを間近で見せてもらったのも衝撃的でした。

 あれだけすごい役者さんなのに、控室で一つのセリフに対して、何パターンも練習を繰り返して、いろいろな表現を試してらっしゃるんです。セリフに対して、いろいろなアプローチを考えられるだけやってみるという。

 そして、自分が演じる人物の“奥行き”を考える。これも勉強させてもらいました。カメラの前に映っているのは、その人物の人生の中のごく一部だけど、その人物はそれ以外のところでも生活をし、生きている。それを踏まえた上で役を作る。それもまた、必須だと。

 …ま、こんな偉そうなことを言っているんですけど、僕、全然できないんですけどね(笑)。もし思っていることが全部できたら、さぞ、すごい感じになれるんでしょうけど「できないなぁ」という葛藤の日々です。

 これまで、一回も満足したことはないんです。自分に対して。本当に、何をやっても「なんで、こんなにヘタクソなんだろう」と毎回思います。でも、だからこそ、また次頑張れるのかもしれませんけどね。良いように考えると(笑)。

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(撮影・中西正男)

■醍醐虎汰朗(だいご・こたろう)

2000年9月1日生まれ。東京都出身。エーライツ所属。中学のサッカー部を引退後、現在の所属事務所に応募し、芸能活動をスタートさせる。17年、舞台「『弱虫ペダル』新インターハイ篇〜スタートライン〜」の一般公募オーディションで舞台初出演にして主役を演じる。日本テレビ系のドラマ「先に生まれただけの僕」にも出演。新海誠監督の長編アニメーション映画「天気の子」(7月19日公開)では約2000人のオーディション参加者の中から主人公・森嶋帆高役に選ばれた。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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