Yahoo!ニュース

試合のコートに立たなくても内海慎吾が京都ハンナリーズに必要不可欠なワケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
常にチームを第一に考え続けている内海慎吾選手の存在は大きい(右・筆者撮影)

【2勝2敗と五分のスタートを切った京都ハンナリーズ】

 シーズン第2節を終え、早くも全勝チームがいなくなるという波乱含みのスタートを切ったB1リーグ。昨オフは大物選手の移籍が相次ぎ、これまで以上にチーム格差が是正されており、今シーズンはより激しいチャンピオンシップ争いが展開されそうだ。

 昨シーズンは21勝36敗と西地区下位に低迷した京都ハンナリーズだが、第1節の新潟アルビレックス、第2節の大阪エヴェッサと2カード連続で1勝1敗のタイに持ち込み、2勝2敗のスタートを切っている。

 昨シーズンのメンバーが8人残り、就任2年目を迎えた小川伸也HCも、以下のように現在のチーム状況を説明している。

 「昨シーズン1年間の経験もありますし、(選手たちが)自分がやりたいバスケというものを理解してくれているので、(昨シーズンとは)全く違うチームじゃないかなと思います。

 僕自身も1年間経験できたことが大きなことですし、昨シーズンよりいろんな引き出しが増えているので、後は僅差になった時に勝ちきれるものを提供できればなと思います」

【まだ出場機会がないベテラン内海選手】

 まだキャプテンの満田丈太郎選手ら2人がケガのため出場ロースターから外れており、京都はまだまだ戦力アップが期待できる。

 その一方で、第2節までの4試合は11人の出場ロースターで戦ってきたが、まだ3選手に出場機会が訪れていない。そのうちの1人が、京都在籍8年目のベテラン、内海慎吾選手だ。

 bjリーグ時代の2014年に移籍して以来、ずっと京都を支えてきた選手で、浜口炎前HC時代は長らく不動のキャプテンを務め、チームをまとめてきた。今やチーム内で最も長く京都に在籍しており、“ハンナリーズの顔”ともいうべき存在だ。

 これまでも不平不満を一切漏らすことなく、チームのために与えられた出場時間、ポジションで自分の仕事を全うし続けた内海選手だが、まだ出場機会がないことについては「自分が(出場できる機会を)勝ち取れていないだけ」と話す一方で、チーム一番の姿勢は今も全くブレていない。

 「昨シーズンから積み上げてきたものがあるんですけど、それをふと(チームが)忘れてしまう時があるので、コートに立っている選手たちやベンチに戻ってきた選手たちに再認識してもらうのが大事かなと…。

 常にやらなければいけないこと、決まっていることをもう1回思い出させることというのが、今シーズン大事なことじゃないかなと思います」

 この4試合でコートに立つことはなかったが、内海選手はしっかりチームのために彼の役割を果たしていたのだ。

【昨季の苦い経験を経てバスケ選手として進化】

 京都における内海選手の存在感の大きさは、誰もが認めるところだ。小川HCも、以下のように説明してくれた。

 「選手のみんなが信頼していますし、僕自身も、(内海選手の)選手としてもそうですが、人間性の面でも凄く助けられています。凄く重要な選手の1人です。

 言葉数は多いわけではないですし、ぐいぐい引っ張っていくタイプではないですけど、何か問題があった時に彼がちょっと顔を出して一言助言してくれ、それで一発で解決してしまうことがいっぱいありました。

 それは僕に対してもあります。ハーフタイムの時とかいろんなアドバイスをくれて、それを参考にして勝った試合もあります。バスケIQが高くスマートな選手ですし、全体を俯瞰して見られる能力を持っています」

 昨シーズンの内海選手は、開幕前に左腓腹筋筋挫傷のため長期離脱を余儀なくされていた。ケガのため長期離脱をするのは、彼のバスケ人生の中でも初の経験だった。

 それでも彼はベンチからチームのプレーを見守り、復帰を目指しながら、改めてバスケというものを見つめ直し、バスケ選手として新たな気づきを得たという。37歳になってもまだ進化を続けたいと考える飽くなき探究心こそが、内海選手の凄みでもある。

【一生涯バスケ人生を生き続ける内海選手の思い】

 実は昨シーズン終了間もない頃に、個人的に内海選手にインタビューをお願いし、苦しかったシーズンを振り返ってもらったのだが、彼は以下のように話してくれていた。

 「今シーズン(2020-21シーズン)一番勉強させてもらったのは、チームのシステムを作り上げるという作業が如何に難しいか、それをチーム内に浸透させるのが凄く労力が必要だということです。

 ただ今シーズンの後半でチームとしてのかたちができるようになったことで、どんな新しいチームでも1シーズンやれば何とかなるんだという自信ですかね。それを感じることができました。今後はそれを周りの人に伝えることができるようになったのも、自分の財産として残るかなと思います。

 言葉で伝えて何かとしてもらうのは本当に難しくて、そのギャップを少なくしていくのが本当に大変だと思いました」

 昨シーズン内海選手が得たものが、着実に今シーズンに生かされているのが理解できるだろう。

 改めて内海選手が明かしてくれたのが、インタビュー当時は現役を続行するか、それとも指導者の道を進むか、いろいろ悩んでいたのだという。だが京都から選手としてのオファーをもらったことで、迷うことなく現役続行を選択したようだ。

 現在の内海選手が、毎試合のようにコートに立つことはないのかもしれない。だが彼は間違いなくチームのために日々尽力し続けている。

 そして彼が将来京都を離れたとしても、一生涯バスケと向き合っていく人生を歩んでいくことになるのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事