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清宮幸太郎の登場でNPBが抱くべき危機感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今年のドラフトで最も注目を集めた清宮幸太郎選手は笑顔で日ハム入りを決めたのだが…(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 高校3年間で通算最多本塁打数で史上最多の111本を放ち、今年のドラフトで最も注目を集めた清宮幸太郎選手が正式に日本ハムに入団した。

 高校生ドラフトとしては史上最多タイの7チームが競合した末、日本ハムが交渉権を獲得し、まさに相思相愛のかたちで契約合意に至った。これまで日本ハムを支えた大谷翔平選手がMLB挑戦のためチームを去ることを決めた直後に新たなスター候補生が入団したことで、日本ハムファンならずとも多くの野球ファンが画に描いたようなシナリオを喜んだことだろう。

 確かに清宮選手にとっても日本ハムにとっても最高のドラフトだったことは間違いない。だがNPB全体で考えた時、清宮選手の出現が手放しで喜んでいい状況とは思えない。それは彼がドラフトの目玉選手で初めて入団前から将来的なMLB挑戦を表明した選手だからだ。先日行われたファン感謝デーに登場した際も、清宮選手はファンの前で堂々と「北海道から世界へ」と宣言を行っている。

 大谷選手も日本ハム入団前からMLB挑戦を希望していたのは周知のことだ。しかし彼は元々高校卒業と同時にMLB挑戦を正式表明し、ドラフト指名を辞退していた。それを日本ハムが強行指名し、二刀流挑戦を提示しながら説得を行い翻意させたものだ。ところが清宮選手はNPB入りを希望した上でさらに将来的なMLB挑戦を表明しているのだから、大谷選手とはまったく性質が違うものだ。

 清宮選手のMLB挑戦が単純に海外FA権を取得してからのものを指すのなら何の問題もない。だがNPBで順調に成長を続け、ある程度の実績を残せるようになれば、すぐにでもMLB挑戦したくなるのは選手の本能として仕方がないところだ。そうなれば必然的にポスティング制度を利用してのMLB挑戦という選択肢を考慮せざるをえなくなってくる。

 今回はポスティング制度に前向きな日本ハムが交渉権を獲得したので何事もなかったが、果たしてポスティング制度を認めない巨人やソフトバンクが交渉権を獲得していたら、これ程すんなりと契約合意に至ったのだろうか。

 別に清宮選手のMLB挑戦を認めるなと言っているわけではない。むしろどんどん挑戦すべきだと思っているし、スター選手たちのMLB流出自体を危惧しているのでは全くない。ただ清宮選手の出現で、今後はドラフトの目玉選手たちが将来のMLB挑戦を公言しながらプロ入りできる環境が出来上がってしまったことを心配しているのだ。

 仮に来シーズンの大谷選手がMLBで大活躍をしたならば、MLB挑戦を望む選手たちは早い時期から挑戦したいと思うだろうし、MLB各チームも大谷選手のような未完成の若手選手たちに食指を伸ばすようになっていくだろう。現在は昨年12月から施行されている労使協定の影響で25歳未満でのMLB挑戦は難しくなっているが、大谷選手の活躍次第では次回の労使協定では「25歳ルール」からNPB選手が除外される可能性もある。そうなればNPBの若手選手のみならず、ドラフト指名前の選手たちにとってもMLB志向はより高まっていくだろう。

 これまでも特定チームへの入団を希望し、他チームからのドラフト指名を受け入れなかった選手が存在している。清宮選手の場合、特定チームが将来的なMLB挑戦に代わっただけにすぎない。今後彼のような選手が登場するようになったら、ポスティング制度によるMLB挑戦を認めないチームが敬遠される方向に向かう危険性はないだろうか。更には希望チーム以外から指名された場合、直接MLBチームと契約してしまう選手が出現しないだろうか。これはNPBにとって危機的状況のはずだ。

 繰り返しになるが、清宮選手の登場でドラフト目玉選手たちが入団前から将来的なMLB挑戦を表明しやすい環境が整った。現在もポスティング制度への対応で大きなチーム差がある以上、今後はNPB全体で対策を考えていかねばならない問題ではなかろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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