はやぶさ2、衝突装置運用を開始。ロボットカメラ「DCAM3」は破片のカーテンを捕らえられるか?
2019年4月4日、JAXA 宇宙科学研究所「はやぶさ2」チームは、小惑星リュウグウに銅製の弾丸をぶつけ、人工的にクレーターを生成する「衝突装置(SCI)」の運用を開始した。4日13時すぎから、小惑星探査機はやぶさ2は予定通り、リュウグウへの降下を始めている。4月5日の日本時間9時44分には最終判断を行い、順調にいけば11時13分にはやぶさ2からSCIが切り離される予定だ。
SCIとは、銅製の円盤を火薬で弾丸状に変形させ、秒速2キロメートルでリュウグウ表面に衝突させてクレーターを生成する装置だ。小惑星や月、火星など天体の表面は、小さな岩が衝突してできたクレーターだらけで、小惑星そのものも太陽系の歴史の中で分離や衝突を繰り返し、破片がまた集積するというプロセスを繰り返してできたと考えられている。衝突は宇宙では非常に当たり前の自然現象だが、リアルタイムで間近に観測することは困難だ。そこではやぶさ2チームは、人工的にクレーターを作り出す方法と、それを安全に観測するための方法を考え出した。
衝突装置はリュウグウ表面から高度500メートルで切り離され作動する。弾丸にあたる銅製の「ライナ」がリュウグウに到達すると、岩石の破片が高速で飛び散る。高速の破片がはやぶさ2に衝突すると損傷する危険があるため、探査機はSCI分離後に小惑星の裏側に退避する。探査機本体は衝突の瞬間を直接には観測できないが、この重要な任務を担って活躍するのが分離カメラ「DCAM3( Deployable Camera 3)」だ。
DCAM3は、トマトの水煮でお馴染み、4号缶くらいのサイズの超小型・分離式のロボットカメラ。SCIの分離から18分後にはやぶさ2から分離され、衝突予定地点を約1キロメートルほど離れた側面から撮影する。衝突の瞬間とその前後の様子の画像データは探査機本体に無線で送信される。クレーター生成という重要な瞬間を目撃できるのは、このDCAM3だけだ。
DCAM3 は筐体の中にリアルタイム性を重視したアナログ低解像度カメラ (DCAM3-A)と、科学観測用のデジタル高解像度カメラ(DCAM3-D) の2つのカメラを内蔵している。それぞれが独立かつ自動的に撮影を行うことができる。アナログカメラDCAM3-Aはリアルタイムに探査機本体へデータを送信することができ、SCI実験の成否を真っ先に知らせてくれる。
そして、サイエンスの面で重要な役割を担うのがデジタルカメラDCAM3-Dだ。衝突体が小惑星の表面にぶつかった瞬間、「イジェクタ(掘削放出物)」と呼ばれる高速の破片が周囲に飛び散る。円錐状に広がりながら飛び散る様子を「イジェクタカーテン」といい、カーテンの形はイジェクタの飛び出す速さと角度によって変わる。ぶつかる対象であるリュウグウの表面がどの程度硬い物質で覆われているか、物質の大きさ、物質同士の間に隙間はどれほど空いているかもカーテンの形成に関わる。地球のように重力の大きな天体と微小重力の小惑星表面でもイジェクタカーテンの形は異なるとされている。
リュウグウのみならず、クレーター生成という現象の法則を知る手がかりとなるイジェクタカーテンだが、観測できるのはごく短い衝突の瞬間だけ。この重要な瞬間を捕らえるため、DCAM3-Dは画像サイズ2000×2000ピクセル、解像度1メートルの画像を1秒間に1コマ撮影できる機能を持っている。衝突はDCAM3分離から21分40秒後に予定され、DCAM3-D カメラはその衝突時刻の前後を含む30秒間を撮像する。
このとき、小惑星リュウグウと飛び出したイジェクタ、SCIはそれぞれ明るさが異なるという条件があるため、撮像するごとに得られる明るさと露光時間を周期的に変化させる。それぞれの観測対象がもっともよく見えるように働く、賢いロボットカメラなのだ。DCAM3の動作は 内部の電池を消耗するまでおよそ3時間続く。はやぶさ2本体へとデータを送信した後、電池が尽きると動作を停止。いずれは小惑星リュウグウの表面へと落ちていくと考えられている。
SCI運用後、はやぶさ2はいったんリュウグウから遠ざかり、表面から20キロメートルのホームポジションに戻ってくるのは約2週間後だ。また、SCI運用の直後に地球へと画像を送信できたとしてもごく限られたものになる。デジタル画像はその後にゆっくり時間をかけて送信される。小さなロボットカメラDCAM3が大活躍した瞬間を手にできるか、期待が高まる。