日本のエネルギーは効率よく使われているのか・エネルギー消費量とGDPの関係
日本のGDPとエネルギー消費の流れ
震災以降電力関連を中心に、これまで以上に大きな注目を集めるようになったエネルギー問題。その中で、日本のエネルギー消費効率に疑問符を投げかける声もある。その論説は正しいのか否か。諸外国との違いを、資源エネルギー庁が発表したエネルギー白書を基に探っていくことにする。
まずはGDPと消費されるエネルギーの動向について。このGDPとは「Gross Domestic Product」の略で国内総生産のこと、具体的には一定期間内に該当国で生み出された付加価値の総額を指す。
まずは日本におけるGDP、そして各部門の消費エネルギーを同一グラフ内に納め、その動向を確認する。GDPの値は2005年水準に換算している。なお実質GDPとは詳しくは「日本の経済成長率をグラフ化してみる……(上)用語解説」で解説をしているが、実質GDPが「インフレが起きても影響を受けないGDP」、そしてそれと対で説明されることが多い名目GDPは「見た目の、額面上のGDP」である。
また、伸び率が分かりにくいかもしれないことから、日本でエネルギー政策の大きな転換点となったオイルショック時の値を100%とした時の、各値の推移も併記しておく。
・産業部門…第一次、第二次産業で消費されたエネルギー。ただし該当施設の外で、運送などに使われたエネルギーは「運輸部門」に属する。
・家庭部門…家計が住宅内で消費したエネルギー。
・業務他部門…第三次産業で消費されたエネルギー。また第一次・第二次産業企業に属していても工場などから独立した事務所での消費の場合も該当する。
・運輸部門…人や物の輸送、運搬に消費したエネルギー。
オイルショックを機会とし、とりわけ産業部門では省エネ化が進み、エネルギー消費を抑えながらの経済成長が推し進められる。一方運輸部門・家庭部門・業務他部門は右肩上がりで伸びたが、運輸部門は1990年代に入り省エネ化が叫ばれ、産業部門同様に省エネ効果が見えてくる。家庭部門は21世紀に入るとほぼ横ばいに推移しているが、これは主に家電部門での省エネ化の成果によるもの(テレビや冷蔵庫、エアコンの単体あたりの消費電力は、年々低減されている)。
また業務他部門は一様に成長し続けており、該当する第三次産業の成長ぶりがよく分かる。その分、2007年度以降の金融不況に伴う下落ぶりも目立つものとなっている。なお1990年度に業務他部門が急上昇しているのは、算出方法の変更によるもので、何か産業上に変移が生じたわけではない。
諸外国との違いは?!
気になるのは日本におけるGDPと消費エネルギーの関連。一部で叫ばれているように、日本のエネルギー消費量には無駄が多いのだろうか。GDPの産出量とエネルギー消費(供給)量で指標を計算し、それを主要国と比較したのが次のグラフ。日本を1とした場合、他国のGDP算出効率がどの程度のものかを掲載した結果である。この値が小さいほど、エネルギーを効率よく用い、価値を生み出していることになる。
日本は諸外国と比べ、(単純計算ではあるが)いかに少ないエネルギーで富を生み出すことに成功しているのか、その実態が分かる。為替レートの問題なども要因の一つだが、この値の低さは賛美されてしかるべきもの。もっとも2011年は震災の影響でエネルギーの置換効率が悪化しており、前年白書で掲示された2009年分と比べると、他国との差異は縮まっているのにも注目しておきたい。
また、イギリスの値の低さも目に留まるが、これは「なぜイギリスは対GDP比でエネルギー効率が無茶苦茶良い値を出しているのか」で解説の通り、産業構造の違い(イギリスの方がエネルギー効率の高い第三次産業の比率が高い)や転換部門の割合の違い、日本のデフレ、さらに直上にある通り震災の影響で相対的にイギリスの値が下がったことが原因。
ともあれ、単純なGDP比率でのエネルギー効率という視点ではあるが、少なくともこの観点からは、日本がエネルギーの消費において、無駄使いをしているとの指摘は正当性を持ちえないことが分かる。
冒頭で触れた「日本はもっと節約すれば、効率を良くすれば何とかなる」論の他に、「世界規模で経済発展を遂げながらエネルギーの節約を推し進める」「だから日本はもっとがんばれがんばれ」との主張がある。くだんの二酸化炭素削減周りの話も良い例だ。それならば日本やイギリス、ドイツのような高効率の国に無理にさらなる削減を求めるより、効率が悪い国の状態の改善をうながした方が、全体的には容易に、スマートな形で目標を達成できる。一律同じような絶対値による数字目標を掲げられたら、日本の苦労の度合いは他国とは比べ物にならない状況は、誰の目にも明らか。
他国と比してエネルギーの効率化云々を語る・精査する場合、まずは現状を正しく認識し、公平な判断の上で行うよう求めたいところだ。
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