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【将棋】初代白玲&女流棋士の格付け決着へ~第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦 最終局面~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 2020年11月13日に記念すべき第1期が開幕したヒューリック杯白玲戦・女流順位戦の各組の戦いが終了した(一部プレーオフ除く)。

 このあと順位決定トーナメントが行われ、初代白玲を決める七番勝負も行われる。

 タイトルを分け合う「2強」里見香奈女流四冠と西山朋佳女流三冠の戦いぶりなど、各組の最終結果と初代白玲の展望などを解説する。

 全組の成績は公式ページをご参照いただきたい。

順位決定リーグ戦A組~D組

順位決定リーグ戦E組~H組

各組1位の8名

 8つのブロックに分けられ、それぞれの組で順位が決まった。

 各組の1位が第1期白玲と優勝賞金1500万円をかけてトーナメントを戦うことになる。

各組の1位
各組の1位

 タイトル保持者の里見(香)女流四冠西山女流三冠は順当な勝ち抜けといえよう。

 西山女流三冠は最終戦まで1位が決まらずに苦しんだが、最後は自力で決めた。

 その西山女流三冠と「女王」を争っている伊藤沙恵女流三段は全勝で駆け抜けた。

 タイトル獲得通算8期の加藤桃子女流三段も全勝での1位を決めている。

 この8名でトーナメントを戦い、1位と2位で七番勝負を行って初代白玲を決める。

 有力なのは里見(香)女流四冠と西山女流三冠で間違いないが、他のメンバーにもチャンスは十分にある。

 非公式のレーティングサイトで棋士にレーティング(現在の強さを表す指標の一つ)がついていることはご存知のファンの方もいるかと思う。

 女流棋士にもそのレーティングがついている。

 そのレーティングで上位10番までに入っていない(2021年5月28日時点、以下も準ずる)にもかかわらず、1位になった女流棋士が3名いる。

 そのうち、渡部愛女流三段はタイトル獲得経験もあるため、順当といえる。

 躍進したといえるのが、石本さくら女流二段加藤圭女流二段だ。

 石本女流二段は、BSフジで放送されている『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』で白玲戦へかける強い思いを語っていた。

 同世代の山根ことみ女流二段がタイトル挑戦中であることも、発奮材料になっているようだ。

 加藤(圭)女流二段はプロ入り(女流2級昇級)からわずか3年。全勝での1位には驚かされる。対局内容もよく、大きく実力を伸ばしていることは間違いない。

 この組は、レジェンドである清水市代女流七段や、昨年タイトル獲得にあと一歩と迫った室谷由紀女流三段などが属する、厳しい組だった。

 二人はシンデレラストーリーを描けるか。

 初代白玲に向けての戦いは最終局面を迎える。

A級

 来期にあたる第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は、本家順位戦と同じ形式で、A~D級までの4クラスに分かれてリーグ戦を行う。

 今回の各組での順位毎にトーナメントを行い、最終順位を決めてクラス分けをする。

 ここから女流棋士の「格付け」を最終的に決める戦いが始まるのだ。

 一番上のA級に入るのは、各組1位の8名と、各組2位のうち3名だ(白玲が1名、A級が10名)。

 順位戦A級となれば、女流棋士トップ10となる。

 本家順位戦のA級の重みをご存知であれば、そこに入る意味がどれほどのものかおわかりだろう。

 各組2位は下記の8名だ。

各組の2位
各組の2位

 タイトル経験者4名(甲斐・上田・香川・千葉)、タイトル挑戦経験者2名(中村・山根)と、全体的には順当に実力者が勝ち残った格好である。

 先ほどのレーティングでいえば、8名中7名が上位20番までに入っている。

 躍進したのは伊奈川愛菓女流二段だ。

 伊奈川女流は女流棋士として活動するかたわら、医師免許を持っていることでも知られている。B組は加藤(圭)女流のところでも書いたように厳しい組だった。そこで6勝1敗は見事の一言だ。

 波乱が起きたといえるのはB組だけ。全体をみれば、レーティング12位までの女流棋士は各組で1位か2位に入っている。

 リーグを勝ち抜く中でレーティングが上がることを加味しても、実力通りに決まったといえそうだ。

 7回戦を戦えば最後は実力が現れるということだろう。

 驚かされる躍進は少なかった。10代はゼロ。20代前半で上位に食い込んだ女流棋士はわずか。

 これは上位が手厚いのか、それとも若手が伸び悩んでいるのか。

 第2期以降に答えがみえてきそうだ。

格付け

 光もあれば影もあるのがこの棋戦、そして順位戦の特徴だ。

 各組の6~8位は一番下のD級に入ることになる(6位の1名のみCクラス)。

 日本女子プロ将棋協会(LPSA)代表理事の中倉宏美女流二段、株式会社ねこまど代表取締役の北尾まどか女流二段は、二人とも組の最下位に沈んだ。

 将棋界の発展に尽力する二人の成績不振は残念である。同世代の筆者は個人的に寂しさも覚える。

 全体的にはベテランの成績が伸び悩んだ印象だ。

 一方、若手でも星が伸びずD級に入ることが決まった女流棋士も多くいる。

 こうして順位がつくのはプロなら当然とはいえ、厳しい側面もある。

 しかしこれで終わりではなく、むしろ不振に苦しんだ女流棋士にとってはこれが始まりである。第2期以降に巻き返すよりない。

 女流に順位戦のシステムが誕生した時、多くの女流棋士は歓迎の言葉を口にしていた。この厳しさを女流棋士は望んでいたのである。

 実際、筆者も順位戦を戦うことで鍛えられている。茨の道は人を強くさせるのだ。

 期を重ねていくに連れ、女流棋士の実力向上が顕著になると筆者は予想している。

 そしてそれは棋戦創設時に「女流棋士にはもっと強くなってほしい」と西浦三郎会長自ら語ったヒューリック社の願いでもある。

 さて、先ほども少しご紹介した、BSフジで放送されている『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』

 次回の放送が6月6日(日)に決まっている。

 様々な女流棋士に密着し、知られざる素顔をみせてくれるこの番組は、ファン必見だ。筆者もいつも楽しみに観ている。

 6月はさらにもう一回放送が決まっていると聞くので、合わせてお楽しみいただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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