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『相棒』は、なぜ20年も人気が続くのか?

碓井広義メディア文化評論家
最強コンビの右京(水谷豊)と亀山(寺脇康文)〈番組サイトより〉

昨年10月にスタートした、水谷豊主演『相棒 season21』(テレビ朝日系、水曜よる9時)。

今回は、初代の〝相棒〟である亀山薫(寺脇康文)が復帰し、杉下右京(水谷)と息の合ったところを見せています。

20年も続いてきた『相棒』ですが、一体なぜ、その人気は衰えないのでしょう。

主流ではなく「傍流」

ドラマの舞台は警視庁です。

しかし、右京は捜査1課の花形刑事でも、重大事件を指揮するエリートでもありません。

主人公が「傍流」であることが、国民的人気を得る重要な要素になっているのではないでしょうか。

推理力と洞察力に優れた右京は、いわば「斬れ過ぎる刀」です。

上層部にとっては煙たい存在でもあり、「特命係」という窓際に追いやられました。

「特命係」とは名ばかりの部署で、特別な任務が与えられているわけではありません。

組織から「邪魔者」の烙印(らくいん)を押され、隅っこに追いやられたにもかかわらず、活躍する右京。その姿は見る側をスカッとさせます。

私たちの社会でも、みんなが「主流」や「王道」を歩んでいけるわけではありません。

だからこそ共感を呼ぶし、応援もしたくなるのです。

相棒という「スパイス」

また右京の個性は、全く違うタイプの〝相棒〟を隣に置くことで際立ちます。

その最たるものが、愛すべき直情径行型の亀山でしょう。

これは推理ドラマの典型的な手法でもあります。

シャーロック・ホームズにワトソンが、エルキュール・ポアロにヘイスティングスがいたように、名探偵には相棒がつきもの。

20年前のスタート時、この普遍的な関係を、現代の警視庁を舞台に再現したところが新鮮でした。

亀山以外にも、個性に満ちた相棒が登場しました。

右京を監視するために送り込まれてきた、神戸尊(及川光博)。

右京にスカウトされる形で特命係にきた、甲斐亨(成宮寛貴)。

そして法務省のキャリア官僚だった、冠城亘(反町隆史)。

彼らとの関係も実に刺激的でした。

練られた脚本が生む「余韻」

また、そんな『相棒』を支えている一つが、よく練られた脚本です。

初期から参加している脚本家である輿水泰弘さん、岩下悠子さん、森下直さん。

さらに、『科捜研の女』などの戸田山雅司さんや、今年の大河ドラマ『どうする家康』の古沢良太さんも常連でした。

彼らが手掛ける脚本の特色は、事件を解決するラストが「勧善懲悪」という紋切り型ではないことです。

どこか割り切れなさが残る、余韻があります。

リアルな人間社会では、全てがマルとバツ、白と黒では片付けられないことが多い。

何が正解かを簡単には言えない世の中です。

そういうグレーな社会を反映したラストだからこそ、視聴者は納得がいくのです。

職人芸としての『相棒』

時代の変化が激しい中で、チャンネルを合わせれば一貫して変わらない右京がいる。

そのこと自体が、見る側にとっての幸せです。

そして『相棒』は、まるで伝統を継承する和菓子屋さんのようです。

脚本も演出も演技も、すべてが職人芸と言っていい。

変わらない味を守りつつ、時代によって新しい要素を組み入れて常に進化している。

だからこそ、『相棒』は開始から20年を経ても根強い人気を保っているのだと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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