米国で犬を安楽死させるときに獣医が与えるチョコ「お別れのキス」が話題に。日本のペットの最後は?
ペットの最後は安らかに眠るように逝ってほしいと思うのは、飼い主の願いです。犬や猫が長寿になりより深い絆を結ぶいま、ペットにどのような最後を迎えてほしいのかを若いころから考えておく必要があります。そこで、今回は、米国と日本のペットの安楽死について解説します。
米国で最後晩餐は「お別れのキス」としてチョコを
米国でのペットの安楽死は、病気や事故で治る見込みがないペットの苦痛を取り除く医療行為としてされています。そのときに、「最後の晩餐」としてハーシーズのキスチョコを犬にあげることから「お別れのキス」と呼ばれていると、日刊ゲンダイDIGITALが伝えています。
その記事によりますと、「ドクター・ナミエさん」のフェイスブックの投稿で「この瓶(ハーシーズのキスチョコが入っている)は安楽死の予約が入ったときだけ使います……犬は最後にチョコレートを味わうことなく天国に行くべきではないからです」とあり米国で話題になったそうです。
チョコは犬の好物ですが、犬にとっては心悸亢進や興奮などを起こすおそれがあり、NGの食べ物になっています。でも、最後に犬に好きなチョコを食べて安らかに眠ってもらうという配慮なのでしょう。
日本では、米国ほどペットの安楽死は行れていません。次に日本の事情を見てみましょう。
獣医療の進化でペットが長生きして安らかな死を迎えられるのか?
獣医療が進化し、そのうえ飼い主の意識が高くなりペットをきめ細かく世話するようになりました。そのためペットは長生きできるようになってきています。元気で長生きできればいいのですが、何か病気を抱えながらも治療を受け、病気と共に後半生を送るペットが増えています。そのペットたちの最後をどのように看取るのかについて、よく考えておく必要があります。
実際問題、愛犬や愛猫が若くて元気なころは、病気で亡くなることを想像しないと思います。もし想像したとしても家族の腕の中で眠りにつくような最後を考える人が多いでしょう。
しかし、どの子も穏やかな死を迎えるとは限らないのです。たとえば、脳に腫瘍ができて長い時間発作を起こす子もいますし、また、肺に腫瘍ができて呼吸困難になり酸素室から出られない子もいます。
だからこそペットを飼ったら、元気なうちに別れを意識しておくことが大切だと思います。
安楽死という選択
日本ではペットの場合の安楽死は合法的です。そうはいっても、その子を安楽死させていいのかという議論は、難しいところです。犬や猫に直接に尋ねることができないのもその理由のひとつです。
どんなに病気や障害で苦しんでいても、命を奪うことなく鎮静剤などで痛みを取れればいいという考え方もあります。
一方、薬を使わなければ、痙攣や痛みがあるので普通の暮らしができないのであれば、安楽死を選択したほうがいいという考え方もあります。
一概にこれが正しいとはいえないテーマです。しかし、飼い主が決めた結果が尊重されますが、獣医師と話し合って慎重に話し合いながら決めます。
安楽死の方法
安楽死とはどのような方法で行うのかについても、飼い主は医学的な知識をもっておく必要があります。
現在行われている方法には、主に2つのパターンに分かれます。
1つ目は、動物病院で注射をし、飼い主に抱いてもらったりしてその場で旅立ちを見送る方法です。2つ目は、強い麻酔や鎮静剤を注射し、寝ているような状態で別れを惜しみながら見送る方法です。
1つ目は、最後に苦しむようなことは、まずありません。2つ目は、薬の量の問題がありますが、ずっと寝ていることが多いと思います。どの程度の薬を使うかは、かかりつけの獣医師とよく相談してください。
どちらを選ぶにしても命の最後の時間を決めることは、やはり非常に重い決断です。家族、そしてかかりつけの獣医師とよく話し合ってください。当然ですが、亡くなった子は蘇って来ないので、飼い主の悔いのないようにしましょう。
どんなとき、安楽死を選ぶのか?
欧米などではもっと早い段階で決断する飼い主さんが多く、治療を続けなければならない病気が見つかった時点で決断するケースもあります。
筆者は、日本は文化的にあまり安楽死は選ばないように思っています。眠るように、ロウソクの火が消えるような死を望んでいます。
それでも犬や猫は、長寿になりがんなどにかかるようになりました。がんになったとき、飼い主は「どうして?」「何が悪かった?」と過去を振り返り自分を責める人もいます。ひとつの原因は、長生きしたのでがんにかかりやすくなったりもしますから、飼い主の問題ではないことが多いです。
一般的には、重い病気や障害で苦痛を取り除くことが無理な場合に安楽死が行れます。懸命にペットの世話をしていた場合は、死生観の違いはありますが、ペットたちは、飼い主の決断を信頼しているはずだと筆者は考えています。どんな道を選択しても、懸命に世話をしてくれた飼い主にペットたちは最後には感謝して天国に旅立って逝くのでしょう。それでは実際に筆者の動物病院であった話を紹介します。
食事も数日食べず、発作が続いている犬は
1年近く前から心臓が悪い15歳の柴犬タロウちゃん(仮名)は、薬もあまり飲んでくれませんでした。そのため飼い主は、無理な延命は望んでいませんでした。
「タロウがもう食べなくなってね。このまま見送るつもりだったのですが、発作が数日前から続いていておさまらないのです。連れて行っていいですか」と飼い主から電話がありました。
タロウちゃんが病院に到着したときは意識もほとんどなく口から泡を出していました。「タロウの治療はいいので、発作を止めてやってほしい」と飼い主に開口一番に言われました。
筆者は、血液検査をしようかと一瞬、頭によぎりましたが、やめて発作を止める座薬を入れて注射をしました。
タロウちゃんは、口の中の粘膜は蒼白で舌がだらりと出ている状態でした。そのため、筆者はそう長く生きられないし、いま呼吸が止まってもおかしくない状態だと判断しました。
「どれぐらい持ちますかね」と飼い主に尋ねられて、いま呼吸が停止してもおかしくないことを告げました。「タロウを楽にしてほしい」と飼い主は、何度も言われていました。
タロウちゃんは、耳は聞こえていたかもしれませんが、診察台に横になって注射に反応することもありませんでした。注射などが効いたのか、タロウちゃんの発作はおさまりました。「いま、どうかなってもおかしくないので、タロウちゃんに会わせたい人には連絡してください」と筆者は飼い主に伝えました。
「これでほっとしてタロウを連れて帰れます」と飼い主が言って、タロウちゃんは飼い主に抱かれて車で帰りました。
数時間後、「タロウは、抱いているときに眠るように息を引き取りました」と連絡がありました。
筆者は積極的にタロウちゃんに安楽死を行ったわけではありません。鎮静剤などが効いたせいなのか発作が止まってタロウちゃんは天国へ逝きました。
ペットが元気なときは、どのように最後を迎えるかをあまり深く考えないものです。ずっと元気でいてくれるといいのですが、長生きになり病気をします。そのときに改めて考えるより難しい問題ですが、ペットにどのような最後を迎えさせたいかを考えておくことも大切です。