辣椒(ラージャオ)さんとの出会い――亡命漫画家『嘘つき中国共産党』
アメリカ政府のメディアVOAの要望により、中国大陸からの亡命漫画家である辣椒(ラージャオ)さんに会った。彼の『嘘つき中国共産党』に感銘して会いたいと思っていたところだった。二人の共通点と理念をご紹介したい。
◆VOA(Voice of America)からの問い合わせ
筆者は滅多に日本で出版された中国分析に関する本を買わない。しかし『マンガで読む 嘘つき中国共産党』を見たときは、迷わず一瞬で購入した。彼が中国大陸からの亡命漫画家であるという理由もあるが、「中国共産党が国家の根幹にかかわる嘘をついている」という事実を追跡して、その証拠をつかんだ筆者としては、彼がどの点において「中国共産党が嘘をついている」と思っているのかを知りたかったからだ。
案の定、辣椒さんの『マンガで読む 嘘つき中国共産党』は、よくある「中国崩壊論」や「習近平の権力闘争といった煽り記事」などと違い、筆者が主張してきた「習近平政権の真の敵は中国人民である」という視点が入っており、何よりも「中国の言論弾圧に抵抗しているからこそ、この本を書いている」という、筆者との強烈な共通点があり、「この人だ!」と心が躍る。
漫画も、パンチの利いた風刺もの。実にいい。魅力的で新鮮だ。
この人に会わなければという、一種の運命というか、使命感のような衝撃が走った。
見れば、新潮社から出ている。
筆者の『毛沢東 日本軍と共謀した男』も新潮新書だ。
急いで新潮社に連絡しようとしたときに、パソコンから「メールが届いた」という音がした。この音は大きく設定してあり、すぐに気が付くようにしてある。
それはアメリカ政府のメディアで、大きなウェブサイトも持っているVOA(Voice of America)(アメリカの声)の記者からのメールだった。
なんと、そのメールには、「日本に亡命している中国の漫画家・辣椒が、どうしてもあなたに会いたいと言っている。彼はあなたが書いた『毛沢東 日本軍と共謀した男』に関するVOAの報道を見て、何としてもあなたに会いたいと思ったようだ。あなたの本を漫画化したいと望んでいる。会ってもらえないだろうか?」とあるではないか!
これを天の采配と言わずに、なんと言おう。
新潮社の編集担当者に電話しようとして手にしていた携帯を置き、あわててVOAの記者からのメールに返事した。
「会いたい!すぐに会いたい!」と。
◆辣椒(ラージャオ)さんと会った!
二人とも気がせいていた。一刻も早く会いたいと互いに思っていたのだ。
そんなわけで、翌日に会うことになった。なんと彼は筆者のすぐ近くに住んでいた。まるで天の悪戯(いたずら)のようだ。
素朴で、いかにも誠実そうな笑顔。風刺漫画は辛らつだが、穏やかな人柄である。
二人とも相手に聞きたいことや自分の言いたいことなどが溢れ出て、努力して自分の言いたいことを抑えないと相手の言うことを落ち着いて聞くことができない。そんな嬉しい努力をしながら、二人は互いの理念の一致点に改めて感動した。
彼の活動の動機も筆者と同じく、中国における言論弾圧に抵抗するためだ。
辣椒さんの実名は王立銘。1973年、中国の新疆ウィグル自治区で生まれた。文化大革命中、親がそこに下放されていたからである。2009年から「変態辣椒」というペンネームで政治風刺漫画をネット公開し始めた。「変態」というのは、中国語で「変態と言っていいほど凄い」というニュアンスで、たとえば「激辛」的に使う。
2012年に国内安全保衛部門という公安機関に初めて捕まった。
中国人は「国内安全保衛」を「国保」(Guo-Bao、グォー・バオ)と略すが、これは「国宝」(Guo-Bao)と同じ発音なので、「国の宝」である「パンダ(熊猫)」を隠語として「国保」を指すことが多い。そのため『嘘つき中国共産党』には醜悪な顔をしたパンダが頻繁に出てくる。
◆『マンガで読む 嘘つき中国共産党』を描いたわけ
風刺の仕方が面白く、中国の現状を実によく肌で分かっていることを表しており、説得力があるだけでなく、思わず吹き出してしまう場面もある。
本のp.10の3コマ目には「私の夢は中国近代史の真相をストーリー漫画で描くことです」とあり、そばに並べてある本のタイトルの中に「毛沢東真相」とあるのを見て、筆者の心は躍っていた。
辣椒さんは、わざわざ亡命のために日本にきたというのではなく、2014年8月に観光ビザで来日して、帰国時期が来たときに「帰国したら必ず逮捕される」という状況になってしまい、そのまま日本に留まるしかなくなったようだ。だから夏服しか持ってきていなかったので、当初は非常に困ったとのこと。
でも言論の自由、描写の自由がある日本が大好きだという。
中国では何度か危ない目に遭ったが、それでも表現せずにはいられない欲求を抑えがたく、何としても描き続けたいと思ったと語る目には力があった。
彼が描いた中国共産党と戦う理由の中に、「移動の自由」「言論の自由」などがある。
中国共産党の一党支配が終わらない限り、中国に民主が訪れることはなく、真実を言っても逮捕されない日々が来ることはない。
筆者は自分が生きている間に、言論の自由が保証される中国が来ることはないと見極めたので、中国の真相を思い切って書くことを決意した。
彼もまた中国に民主が来るために、故国を捨てででも表現しているのだという。
そして「中国共産党の嘘」の正体を徹底して暴くには、そもそも中国共産党がどのようにして強大化するに至ったのかという「党史」を調べなければならないと思っていたが、それにはとてつもない時間がかかる。そんな中、日中戦争時代の毛沢東に関する遠藤の本の存在を知ったので、一刻も早く会いたかったとくり返した。
◆中国共産党の嘘を見やすい形に
中国共産党が国家の根幹に関わる大きな嘘をついているのは明らかだ。
筆者は中華人民共和国誕生までの嘘を描き、辣椒さんは建国後および現在の嘘を描いている。その二つがつながれば、中国の嘘の全貌が見えてくるだろう。もちろん彼が描いているのは筆者も知っている嘘ではあるが、しかし、漫画という、しかもこの風刺のきいた手法によって描く効果はひとしおだ。中国の嘘の全貌が、非常に見やすい形で伝わるにちがいない。
ただ、その中国に対して、なぜ日本政府は強いことを言わないのか、なぜ中国が嘘をついていることを示していかないのか。そうすれば中国で虐げられている人々がいつか自由になる日が来るかもしれないというのに、日本は中国に厳しいことを言わないと辣椒さんは嘆く。日本が大好きだが、しかし一方では、そういう日本のあり方を悔しがっている。この視点においても、われわれ二人は共鳴し、理念を共有したのだった。