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頭がかゆい…でもシラミシャンプー効果なし 「抵抗性アタマジラミ」の対処法とは

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
写真はイメージ(写真:イメージマート)

「アタマジラミ」という頭に発生する虫を知っていますか? 一般的には夏のプールなどで感染すると思われがちですが、実際には一年中生息しています。近年、薬剤に対する耐性が強く、通常のシラミとりシャンプーでは効果がない「抵抗性アタマジラミ」が増えてきています。この記事では、その生態や対策方法についてお話します。

アタマジラミの基本情報については以下の記事をご覧ください。

「子どもが頭をぽりぽり「アタマジラミ」の仕業かも 清潔にしていても要注意」

日本のアタマジラミの歴史

第二次世界大戦前後にはシラミ症が蔓延していました。しかし、米軍によるDDTなどの薬剤散布によって流行は収束しました。その後、1971年に環境汚染や発がん性などの問題からこれらの薬剤の使用が禁止され、次第に集団感染が多く起こるようになりました。アタマジラミに対する駆除剤が一時期なかったのですが、ようやく1982年に、ピレスロイド系有効成分を含んだシャンプーが発売され、手軽に駆除ができるようになりました。

ピレスロイドとは?

蚊とり線香の原料として使用される除虫菊の花に含まれる成分と似た作用・構造を持つ化合物のことです。害虫に対して殺虫効果や忌避効果を示し、かつ哺乳類に対して安全性が高いため、古くから「家庭用殺虫剤」の成分として使用されています。

ピレスロイドに耐性を持つアタマジラミの増加

日本では、シラミに対する薬剤としてピレスロイドが主に使用されています。しかし、その使用を繰り返すことで、ピレスロイドに対する耐性を持つアタマジラミ(以下「抵抗性アタマジラミ」と記載します)が生き残り、増え続ける結果となりました。生物の生存競争の中で「強い者が生き残る」という自然の法則が働いた結果です。その結果、従来のシラミとりシャンプーが効かなくなるケースがあります。

抵抗性アタマジラミの割合は?

フランスでは1990年代にピレスロイドに抵抗性を持つアタマジラミが確認されています。日本でも2006年から2011年の調査で、17の都道府県で抵抗性アタマジラミが確認されました。当時、抵抗性アタマジラミの割合は10%未満がほとんどでしたが、沖縄県では96%が抵抗性アタマジラミでした。その後の調査は行われていませんが、各地で増加傾向にあるとされています。

見た目は変わりません

抵抗性があるかどうかに関わらず、アタマジラミの見た目は変わりません。シラミとりシャンプーを使用しても効果がない場合は、抵抗性アタマジラミを疑った方がいいかもしれません。見た目ではわからないため、ピレスロイドを含むシャンプーを使い続けても十分に効果がなく、かゆみに悩み続けることになります。そんな時は、以下の駆除方法を試してみてください。

抵抗性アタマジラミの駆除方法

・梳き櫛で除去する

シラミ駆除専用の櫛を使用して、毛髪の根元近くから梳き取る方法です。ただし、髪が長いと痛みを伴うことがあるので、髪を短くすることをおすすめします。ただし、この方法だけでは、複数の兄弟姉妹がいる場合は保護者の方には大変な作業となります。

・抵抗性アタマジラミに効果のある製剤を使用する

ヨーロッパでは広く使われている「ジメチコン」という製剤は抵抗性アタマジラミに効果があります。日本では2021年から販売が認可されました。ジメチコンの抵抗性アタマジラミに対する駆除効果は79〜97%とされています。ジメチコンは医薬品や薬用化粧品などで広く使われており、安全性が高い成分です。

ジメチコンは、ローション状になっており、髪に塗布することでアタマジラミを包み込み、呼吸をする気門に入り込むため、アタマジラミが窒息し駆除ができます。物理的な作用で効果があるため、抵抗性アタマジラミの幼虫、成虫にも効果があり、卵に対しても効果があるため、次世代の幼虫の発生を予防することができます。

イラストはイメージ
イラストはイメージ提供:イメージマート

最後に…

アタマジラミが発生するのは昔の話だと思っている方も多いかもしれませんが、現在でも問題となっています。アタマジラミについて知ることで、子どもの「頭がかゆい」という訴えと「アタマジラミ」を結びつけることができ、早期に対処することができるかと思います。また、シラミとりシャンプーの効果がないときは、抵抗性アタマジラミを疑ってみることもお勧めします。

(※)国立感染症研究所 アタマジラミの駆除剤抵抗性についての全国調査結果

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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