Yahoo!ニュース

大学卒業者の就職率74.2%…大学生の就職状況などをさぐる

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
大学生の就職率の実情は(写真:アフロ)

今やブランド化の傾向もある大学だが、その大学の卒業者の就業の実情はどれほどのものだろうか。文部科学省が毎年実施している全数調査「学校基本調査」の公開結果値を基に確認する。

直近となる2021年においては、同年3月の大学卒業者のうち、正規・非正規雇用を問わず就職した人は74.2%。大学院や専修学校、海外の学校への入学など進学をした人は11.8%。一時的な仕事に就いた人は2.0%、進学も就職もしていない人(就職浪人や資格取得のための勉強、家事手伝いなど)は9.6%となっている。

そのうち「就職した人」の中で「非正規就業(フルタイムの契約社員、派遣社員)」に該当する人、一時的な仕事に就いた人(パート、アルバイト)、進学も就職もしていない人(進学準備中、就職準備中、家事手伝い、ボランティアなど)を合わせて、「安定的な雇用に就いていない人」の率を算出すると、2021年では全卒業者のうち14.4%となる。この値は「学校基本調査」で2012年分から新たに算出されたものだが(それ以前は「非正規就業(フルタイムの契約社員、派遣社員)」の値が算出されていない)、試算当初の22.9%から直近の14.4%へと大いに低減している。非正規就業に就く理由は人それぞれだが、その立場が正規就業と比べて低評価のものと仮定した場合、大学卒業生の雇用状況は改善されていることになる。

ただし直近の2021年では前年比でプラス3.4%ポイント。新型コロナウイルスの流行による景況感の後退が原因だろう。また就職した人の割合も前年比で悪化しており、やはり同様の原因によるものと考えられる。

これらの値のうち主要なものを抽出し、前世紀末からの推移を見たのが次の折れ線グラフ。「安定的な雇用に就いていない人」の動向も別途グラフ化する。

↑ 大学(学部)卒業者の就職率など
↑ 大学(学部)卒業者の就職率など

↑ 大学(学部)卒業者のうち安定的な雇用についていない人の割合
↑ 大学(学部)卒業者のうち安定的な雇用についていない人の割合

今世紀に入ってからは金融危機直前にピークを迎えた就職率だが、その後急落(むしろ2008年9月のリーマンショックがタイミング的には近い)。これは雇用市場の冷え込みから、大学卒ですら就労先が決まらない、見つからない人が増えたことを意味する。次のグラフでも示すが、「進学も就職もしていない人」の比率がその分増加しているのが分かる。また、就職率の上下とほぼ反する動きとして「一時的な仕事に就いた人」と「進学も就職もしていない人」の合計率は増加する動きを示している。就活(就職活動)をしている、あるいは就活しながら短期的なアルバイトをしている人が増えていると考えれば、この動きは納得がいく。

もっとも2011年あたりから、雇用市場は回復を迎えている気配が見られる。就職率は少しずつ増加。それとともに「一時的な仕事に就いた人」と「進学も就職もしていない人」の合計も減少している。この動きは厚生労働省発表の就職(内定)率推移からも確認できる。

↑ 就職(内定)率(大学・全体)(2020年10月1日まで)(厚生労働省・大学等卒業者の就職状況調査から作成)
↑ 就職(内定)率(大学・全体)(2020年10月1日まで)(厚生労働省・大学等卒業者の就職状況調査から作成)

気になるのは「進学率」も低迷の動きを示していること。これは大学からさらに大学院に進学しても、就職の上では必ずしも有利とは限らない現状が、大学院などへの進学の魅力を押し下げているものと考えられる。あるいは大学院でさらに深く勉学に励むことと、就職先で生き甲斐などを見つけることへの優先順位・価値観に変化がでてきたのだろうか。実際、就職率の値にこだわって実情を確認すると、大学院の修士課程はともかく、博士課程や専門職学位課程の卒業者における就職率は、単なる大学卒業者よりも低い結果が出ている(グラフ化は略)。

同じ期間の動向について、他の区分も含め詳細な比率の推移を見たのが次のグラフ。

↑ 大学(学部)卒業者動向(詳細内訳、各年卒業者別)
↑ 大学(学部)卒業者動向(詳細内訳、各年卒業者別)

前世紀末から今世紀初頭においては、大学卒に占める「進学・就職をしない人」の割合がかなり高かったこと、進学率や就職率も低めだったことが分かる。また2005年あたりから就職か進学のいずれかを選ぶ人の比率が増加し、進学・就職をしない(できない)人の比率が減少傾向にあったこと、直近の金融危機でやや「就職派」が減ったもののここ数年は再び増加、しかし「進学派」は継続して減少していることなどの動きが分かる。

また直近の2021年において、就職率の減少や進学・就職していない人率の増加など、大学(学部)卒業者の就職状況に大きな変化が生じていることが、改めて確認できる。

少なくとも今世紀に限れば、現状では大学生(学部)の就職率は最高水準にある。それとともに進学や就職をしていない人は漸減を続けており、こちらも今世紀では最低水準に違いない。ただし直近年では新型コロナウイルスの流行による影響で就職率などが悪化している。注意が必要である。

金融危機で就職率は10%ポイント近く下落している。これがこの数年における「大卒でも就職できるとは限らない」との印象を強く与えた主要因と考えられる。しかしその下落した値ですら、前世紀末期から今世紀初頭と比べれば高値を示しており、世間一般に語られている話について、やや首をかしげたくなるのも事実ではある。無論、就職先の内情まではこのグラフからは判断できないので、その点まで考査すればこの疑問も解消されるのかもしれないが。

■関連記事:

【日本の学歴・年齢階層別完全失業率の最新情報(2019年公開版)】

【大学54.1%・短大4.4%、前世紀末から漸増中…大学進学率(最新)】

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事