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またも生活扶助規準と母子加算切り下げ 高齢化で受給者増はこれでは解決しない

赤石千衣子しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長 

 報道によると、厚生労働省は、来年度の生活保護費の見直しで、「生活扶助」を

最大1割程度引き下げる検討に入ったという。また、各種の加算も見直す考えで、

母子加算は子ども1人の場合、現在の平均2万1000円から1万7000円に引き下げる

一方、児童手当に相当する児童養育加算の支給対象は現在の中学生までから高校

生までに拡大するという。(共同通信より)

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(https://www.photo-ac.com/より)

 生活扶助規準の切り下げの理屈付けや、母子加算の削減の理屈付けは、読んでもわからない。

ただ、低所得層と比較して、少しだけ多く消費しているからということらしい。

 そこには、十分に生きていく、十分に子どもを育てて自立させていくといった視点が欠けているように思える。

 これまで何度も生活扶助は切り下げられてきた。また、母子加算も2009年に廃止、さらに復活して今に至っている。

なぜ生活保護費の切り下げは政策のターゲットになり続けているのだろうか。

そのこと自体が問題ではないだろうか。

 厚生労働省によると、生活保護費負担金は、3.8兆円(平成29年度当初予算)で、過去10年間に1兆2000億円増加しており、受給世帯も214万1881人(平成29年2月)であり、増加傾向にある。

 その内訳をみると、被保護人員のうち、全体の45.5%は65歳以上であり、高齢者の伸びが大きい。高齢社会になり、年金や医療がカバーできない暮らしを生活保護制度がカバーしているのだとすれば、生活保護予算が増えていくのは必然的な結果だ。

 しかし、その増加をわずかでも抑制するために、生活扶助費を削減する、母子の加算額を減らすなどすることが、どんな意味があるのだろうか。

予算削減効果もそれほどでないのに、こうしたチクチク削減していくことで、この国の文化的で最低限度の生活保障をする最後の制度である生活保護制度が、その権利性を失っていっているのではな

いか。

 私が理事長を務めるしんぐるまざあず・ふぉーらむは、母子世帯の当事者を中心とする支援団体である。会員は1000人いるが、東京周辺の会員が6割、あと4割は地方の会員である。

 生活保護を受給している会員の人たちの多くは、DV被害経験があり、うつ病など精神科に通院している人が多く、働くことがむずかしい。作業所に通う人もいるが、就労までは結びつきにくい。あるいは、パートで就労しているが、それ以上の長時間働くことがなかなかむずかしい人もいる。この実態は、厚労省の「一般母子世帯及び被保護母子世帯の生活実態について」調査と同様である。

 何度も何度も生活保護の切り下げのターゲットにされてきた彼女たちは、抱かなくてもいい罪悪感を抱えている人も多く、今回の動きに声を上げるという気持ちをもつことはなかなかむずかしい。

 また、児童扶養手当と併給しているために、児童扶養手当は4カ月に1度の支給、生活保護費は毎月児童扶養手当分を差し引かれるため、自分の生活保護受給額を把握しづらい人がほとんどであるし、家計管理を困難にしている。児童扶養手当を毎月支給にしないとこの問題は解決しない。

 また生活保護を受けたほうがいいのではないか、と思われるシングルマザーも多いが、この1年だけでも生活が苦しいという相談を受けて、「生活保護を受けてみませんか」「一緒に役所に行くので申請しましょう」ともちかけて断られたことが、主に東京以外に住む方で数件に上った。

 一度申請に行って断られて二度と申請に行きたくないという人もいて、私たちができるせいいっぱいの支援、食糧支援をつないできている。その中には老親の年金で暮らしており、中学生の子どもの教材費が払えないので子どもが学校に行けないなどの声や、児童扶養手当約4万3000円と児童手当1万円のみで暮らしている、ほんとうに暮らしがギリギリの方もいた。出産後出血が止まらないまま働きに出て、結局お子さんを手放した人もいた。子どもたちも貧困の影響をもろに受けている。

 中学高校などの入学時のお祝金をお渡しした方たちは、病気になって短時間しか働けないなど年収100万円以下の人がたくさんいたことも付け加えたい。

 そこには、水際作戦の問題や、DV被害者の扶養義務者の問題、自動車保有を認めない問題など生活保護制度が抱える多くの問題点がある。特に自動車保有の問題は大きい。

 抱かなくてもいい罪悪感を抱かせ、さらに精神的にも追い詰め、暮らしを困難にするような、今回の削減では得られるものがない。

生活保護制度については、今議論すべきことは、増大する生活保護費について、国として大きな視点から考えていくべきことではないのか。雇用は若干持ち直していると言われるが、今後も国民健康保険の保険料の未納者や、過去の国民年金保険料未納者がいることで(その中には高齢になった母子家庭の母もいる)、生活保護制度に頼る人が増えていかざるをえない。

一方でほかのセーフティネットが不十分なために生活保護しか頼れない人を増大せざるをえないのに、一方で生活保護規準を切り下げていくことでは制度はさらに疲弊する。

 消費税を上げた分は幼児教育と高等教育に使うという。高齢社会の中で、子育て世代にも恩恵がくるように、税と社会保障について、国の方向性を変えざるをえない時に来ているからこそ、不十分でもそういう政策が出てきたのだろう。

 今回のような、生活保護を削りとっていくことで、さらに受給者の権利性を奪い、受給したほうがいい人々を結果的に制度から遠ざけ漏給(本来受給できる人が漏れてしまうこと)を産むことでは、国民の最低限度の生活が脅かされていく。

 生活保護制度はこの国の社会保障の根幹である。生活保護受給者とそれ以外の人々の分断をあおり、その風を削減に利用するようなやり方ではなく、すべての人の生活を守るために生活保護制度が必要であることを政府として提示していくべきなのではないか。そして今後の高齢社会において、生活保護制度や暮らしを支える制度をどう構築していくのかを考えていくべきではないのか。

 この国と社会が、人々の暮らしをどう支えていくのか、どう働き、どう育て、どう学び、どう暮らし、どう支え合っていくのか、その中で生活保護制度をどう位置付けるのかの議論こそ必要なことなのである。

しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長 

NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生きくらせる社会をめざして活動中。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援の在り方専門委員会参考人。社会福祉士。国家資格キャリアコンサルタント。東京都ひとり親家庭の自立支援計画策定委員。全国の講演多数。著書に『ひとり親家庭』(岩波新書)、共著に『災害支援に女性の視点を』、編著に『母子家庭にカンパイ!』(現代書館)、『シングルマザー365日サポートブック』ほかがある。

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