消費者は「税抜き価格表示」は望んでいない・知りたいのは「支払価格」と「税額」
「税抜き価格表示」支持者は2.3%のみ
2014年4月から実施される可能性がある(附則第18条の条件が満たされる景況となった場合)消費税の税率アップに際し、価格表示の方法に関する消費者の意識調査結果が、先日博報堂から発表された。それによれば消費者は概して現行の「総額表示(税込金額)」形式を望み、特例措置として期間限定で認められる「税抜価格」表示を支持する人はほとんどいない、むしろ嫌う傾向にあることが明らかになっている。
この「税抜価格」表示は先日成立した「消費税転嫁対策特別措置法」によるもので、2013年10月1日に施行・2017年3月31日まで適用される。これによると「表示価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じていれば、税込価格を表示しなくてもよいとする特例が設けられる」。例えば「100円(税抜)」「100円(本体価格)」「100円+税」などの表記が可能になる次第。または別途店内に利用客が分かりやすい場所で「当店の価格は全て税抜価格となっています」という表記を行うことで、税抜き価格のみの表記が許される。
そこで想定される価格表示について9つのパターンを提示し、どのような表示が「消費者」「生活者」の立場としては一番望ましいかを聞た結果が次のグラフ。なおグラフをシンプルにするため、税率は引上げ後も5%と仮定している点に注意してほしい。
もっとも多くの人が支持したのは、現行税率でも税率引上げ後でも、「税込価格・本体価格・税額」すべてが記載されている様式。次点項目も「税込」「本体価格表示」「消費税額表示」とパターンは異なるものの、本体価格や税額が明確に分かる様式。税率引上げ後になると、より一層具体的な消費税額が一目で判断できるスタイルへの支持率が高まる。
要は「買い物時に自分がいくら支払うことになるのか」に加え「負担する消費税額はどれほどの額になるか」を知りたいという消費者側の需要が強まる次第。
逆に、税額があいまいな表記は人気が無い。「消費税転嫁対策特別措置法」で認められることになる「税抜き価格表記」(上記グラフでは右側3項目)は、税率引上げ後において、支持率は全部合わせても2.3%でしかない。
「税抜価格表記が嫌われる理由」を「税込価格表記が好かれる理由」から考える
次に示すのは店舗の選択により「税込価格表示」以外に「税抜価格表示」が可能になることに対する、消費者サイドとしての所感を尋ねたもの。店舗によって表記スタイルが異なると混乱を招くとする懸念がもっとも多く、87.7%に達している。要は「表記方法を統一化してほしい」。
また「商品を手に取る時点で支払金額を確認したい」「税込表示の方が支払金額を計算しやすい」「自分がいくら消費税を負担することになるのか知りたい」など、現行スタイルの「総額表示(税込金額)」が望ましいとする意見が多い。第3位の「税込表示に統一した方が混乱が無い」(77.5%)ことも合わせて考えれば、この意見は非常に強いものとなる。
一方で「表示方法が(税抜き価格表示に)変わっても、買い物行動には影響しない」とする意見は28.9%に留まっており、何らかの形で影響が生じ得るとする人が、最大で7割強居る可能性を示唆している。もっとも「馴染みの店が税抜価格に変わったら、税込価格表示の店に変える」という人も25.8%しかいないので、店舗替えという強い影響を受ける人は「そう多くは」ない。
ともあれ、消費者としては「商品購入時に自分が支払う実額を、レジに出してからでは無く、商品確認時に知りたい」「具体的な消費税額添付額を知りたい」という需要を持ち、それに叶う現行の「税込価格表示」が望ましいと考えていることに違いはない。法令で時限的に認められる「税抜価格表示」は、少なくとも消費者からは望まれていないどころか、嫌われる傾向すら見受けられるのが現状である。
小売側では「税抜き価格表示」を望んでいるが…
「税抜価格表示」については、一部小売店業界で積極的に展開する動きがある。これは税率が変更されてもラベルなどの貼り換えの手間が省けることに加え、税率引き上げに連れて実売価格が上昇することによる商品の値上がり感を少しでも避ける狙いがあると見て良い。
例えば日本チェーンストア協会は2013年6月25日付の公開要望書の中で、
当協会は、これまで「消費税額を含む商品の価値をどのような方法で表示すべきかについては法律で一律に課すべきではなく、事業者と消費者、事業者と事業者との関係において事業者自らが適切な方法を選択すべき問題である。」と主張しており、今般の措置を時限的な特別措置に留めることなく恒久化していただき、明確に総額表示方式の義務付けを廃止していただきたい。
と述べており、「税込価格表示」の義務化を廃止し、「税抜価格表示」の選択肢の恒久化を要望している。
しかし今回の調査結果を見る限り、消費者は現行の「税込価格表示」を望んでいる。そしてその理由も納得がいくものである。消費者が買い物の際に、商品を手に取った時点で知りたいのは「この商品で実際に支払う対価はいくらになるのか」と「この商品にかけられた消費税はいくらになるのか」。しかし「税抜価格表示」ではその双方が瞬時には分からない。暗算をするか、電卓で計算する必要が生じる。
事業者側の「税抜価格表示」導入に対する理由説明で、この要望を持つ消費者側を説得・納得できるのか。「馴染みの店が税抜価格に変わったら、税込価格表示の店に変える」25.8%の顧客を失いかねないリスクを事業者側は許容できるのか。今件調査結果から、考えねばならないことは多い。
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