またも岸田首相の詭弁?「処理水」海洋放出の不都合な事実を環境NGOが暴露
岸田文雄首相は、2011年に事故を起こした福島第一原発(東京電力)に大量にたまった放射性物質を含む水を、海洋放出すると表明。早ければ本日24日午後1時から、海洋放出が開始されると報じられている。この海洋放出をめぐっては、政府や東京電力(以下、東電)は、「トリチウム以外の放射性物質を除去した『処理水』を、基準以下に薄めて放出するので、環境や人体に影響はない」との主張を繰り返し、国内のメディアの多くが、そうした主張を踏襲している。そして、「科学的根拠に基づいて丁寧に説明することが必要」等、福島県他周辺の住民らや諸外国に理解を求めることが、報道における中心的な話題となっている。だが、果たして政府や東電の主張をそのまま鵜呑みにすべきなのだろうか?その点、環境NGO「FoE Japan」が公開した資料は注目に値する。
〇「処理水」に基準の2万倍近くの放射性物質
世界73カ国にサポーターを持つ国際環境NGO「Friends of the Earth(地球の友)」の、日本におけるメンバー団体であるFoE Japanは、事故発生当初から、福島第一原発事故に伴う諸問題について現地の住民の側に立ち、様々な調査や政策提言をしてきた。同団体は、今月1日、「【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント」と題し、放射性物質を含む「処理水」の海洋放出の問題点をまとめたものを公開(同月21日更新)。昨今のマスメディアの報道であまり語られていない重要な事実がいくつも記されている。
【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント
https://foejapan.org/issue/20230801/13668/
筆者がとりわけ重要だと感じるのは、「処理水」とされているものの実態だ。上述のように政府や東電は、「ALPS(多核種除去設備)によって、トリチウム以外の放射性物質を除去したもの」と説明しているが、実際には、「処理水」とされているもののうち、その7割弱で、ヨウ素129や、ストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239等の、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えた量を含んでいると、FoE Japanは東電公表のデータに基づき、指摘している。驚くべきことに、放射性物質によっては基準の2万倍近くという濃度で含まれているというのだ。これに関して、東電は「海洋放出する前に二次処理を行いトリチウム以外の放射性核種も基準値以下にする」としているが(関連情報)、膨大なものになるであろう海洋放出される各放射性物質の総量のデータを公開していない。
実態としては、「処理水」という言葉は適切ではないにかかわらず、各メディアが「汚染水」との表現を避け、政府や東電による「処理水」との言葉を使っていることは、海洋放出の問題を覆い隠すことになっていないか。FoE Japanは、「ALPS処理汚染水」または「処理汚染水」と呼称している。
もう一つ、筆者が特に重大な問題と考える点は「基準以下に薄めて放出するから問題ない」という政府や東電のロジックを、メディアが垂れ流しにしていることだ。上述のように、処理汚染水には、トリチウム以外の放射性物質も高濃度で含まれている。ところが、政府や東電の「基準の40分の1に薄める」という主張における基準はあくまでトリチウムに関するものであり、トリチウム以外の放射性物質における基準ではない。「基準の40分の1に薄める」という政府・東電の主張について、FoE Japanは「ミスリードさせるもの」と評している。
〇無視される代替案
海洋放出に対する代替手段の十分な論議や、放射性物質に汚染された水がどんどん増大していくことへの対応が行われていないことも大問題だ。FoE Japanは、米国サバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた「モルタル固化処分」を代替案として例示している。これは、汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するというものだそうだ。モルタル固化処分は、技術者や研究者も参加する「原子力市民委員会」(座長・大島堅一龍谷大学教授)が推奨しているが、こうした外部専門家を交えた代替案の論議は行われず、政府や東電が、あくまで海洋放出ありきで進めてきたことは、もっと注目されるべきだろう。
〇汚染水はどんどん増加する
そもそも何故、放射性物質に汚染された水がどんどん増えているかというと、事故を起こした福島第一原発の炉心に残るデブリ(溶けた核燃料等が冷えて固まったもの)に、周辺からの地下水が流れ込んでいるからである。つまり、福島第一原発周辺の地中に、地下水の流入を防ぐ壁を作れば、汚染された水の増加を食い止めることができるのだが、そうした具体策も一向に行われていない。凍土遮水壁は設置されたものの、効果は不十分で、コンクリートや粘土を用いた従来の工法で地中壁が設置されないのは、本当に不可解だ。
他にもいくつも論点があるが、詳しくは上述のFoE Japanのまとめを参照していただきたい。重要なことは、政府や東電に対し、メディアは批判精神を持つべきということだ。原発事故以前は、「事故は絶対に起きない」と主張する政府や東電に対し、メディアは及び腰であった。そうした、追及の甘さが、世界最悪レベルの事故が引き起こされた遠因であり、現在もなお、政府や大手電力会社が、このリスクの高い地震大国において原発を推進出来ている要因の一つでもあるだろう。
(了)