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9.11犠牲者の方たちを社会的に弔うリフレクティング・プール

矢崎裕一データ・ビジュアライゼーション実務家兼研究者
(写真:中尾由里子/アフロ)

2001年9月11日、テロリストのグループによって旅客機がハイジャックされ、そのうち二機がニューヨークの象徴でもあったワールド・トレード・センターのツイン・タワーに激突しました。二つの110階建てタワーは崩壊し、三千人以上の人たちが亡くなりました。

ワールド・トレード・センター跡地に建てられた「9.11メモリアルパーク」は、遺族の間やNY市民の間で対立が続いたため、完成までに十年を要しました。その一つの施設である、ツイン・タワーがあった場所に設置されたリフレクティング・プール(ノース・プールとサウス・プール)に刻まれた犠牲者の方たちの氏名の並び順は、実は社会的な関係性に基づいています。

(c) 2016 National September 11 Memorial & Museum
(c) 2016 National September 11 Memorial & Museum
犠牲者名の配列について http://names.911memorial.org/#lang=ja&page=about&id=0
犠牲者名の配列について http://names.911memorial.org/#lang=ja&page=about&id=0

2004年のコンペで勝ち抜いた当時無名で若かった建築家マイケル・アラッドさんは、このリフレクティング・プールに刻む犠牲者の方たちの名前はアルファベット順などではなく、彼らがどこにいたとか、彼らが何者でいつ亡くなったかによって配列されるべきだと考えていました。

実際には、社会的な結びつきに応じて、配列が決められました。被害に遭われた場所(ノース、サウスタワー)、搭乗してた飛行機(アメリカン航空11便/77便、ユナイテッド航空93便/175便)、レスキュー隊員の方たちで大きくグルーピングされ、その中で、家族、友人関係、勤務先のほか、あの瞬間、偶然出会い共に惨事に直面した人たち(リサーチにより明らかになりました)に基づいて、配列が決定されました。窓口になった9.11記念財団が、誰と誰を近くに配置してほしいという遺族からのリクエストを数年間にわたり受け取り続けて、リクエスト数は1200件以上にもなりました。

これらのリクエストをできる限り受け入れた上での氏名の並び順を成立させるという問題に、プログラミングでジャー・トープ氏が挑みました。

最初のスタディ
最初のスタディ

実空間に設置するならではの問題もありました。名前を刻むパネルの大きさが均一ではなく、また、接合部の金属部分には名前を刻めないため、名前のタイポグラフィ的な並び順にも配慮する必要があった、とのことです(日本語エディトリアルデザインの世界で「泣き別れ」といわれる状態が近いですね)。

配置に使われたオリジナルのプログラム (c) Jer Thorp
配置に使われたオリジナルのプログラム (c) Jer Thorp
配置に使われたオリジナルのプログラム (c) Jer Thorp
配置に使われたオリジナルのプログラム (c) Jer Thorp
配置に使われたオリジナルのプログラム (c) Jer Thorp
配置に使われたオリジナルのプログラム (c) Jer Thorp

オリジナルのプログラムで配置の最適化をはかりながら、最後は人の手で一つひとつ調整していったとのことです。

またプログラマーは犠牲者の方たちと面識のある人はいなかったそうですが、コーディングをしながら思わず彼らの名前を叫んでいたこともあったそうです。

並び順のリクエストをどのくらい達成したかという数値を、元請けのLocal Projectsが99%といい、実装したプログラマーは98%以上といい、施設の公式サイトでは80%と言っているのは、それぞれの価値観や判断基準(こだわり)が少し揺れていることが垣間見れて興味深いです。

ニューヨークの9.11メモリアル・パークへ行く機会があったら、このことを思い出してモニュメントに接してみてもらえたらと思います。

公式サイト「記念碑のご案内」

データ・ビジュアライゼーション実務家兼研究者

コード・フォー・トウキョウ 代表/データ・ビジュアライゼーション・ジャパン 発起人/多摩美術大学 情報デザイン学科 非常勤講師/東京大学空間情報科学研究センター 柴崎研究室 協力研究員/千葉工業大学大学院 デザイン科学 修士修了/おもちゃコンサルタント。株式会社ビジネス・アーキテクツにてデザイナー及びアートディレクターを7年間経験後、2008年に独立。近年では、データ・ビジュアライゼーションの実践と普及に関する様々な活動をおこなっている。共著書に「RESASの教科書」がある。

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