なぜ、弥富市の残土置き場の税額が70倍に?~何がまずかったかを現地で不動産鑑定士・税理士が考えた
■はじめに
昨年のことですが、愛知県弥富市で「農地扱いで課税されていた土地を所有していたのだが、ある日、残土業者がやってきて残土を置くことを許諾したら、弥富市から農地扱いを外されてとんでもない額の固定資産税を課され所有者が嘆いていた」と報道されていました。
機会があれば行きたいと思っていたところ、令和6年1月下旬、近くの三重県の桑名駅からローカル私鉄に乗り換えた沿線の物件を鑑定評価する話をいただきました。
弥富駅はJR線で桑名駅から2つ名古屋寄りの駅です。
これはうってつけの機会だ…ということで、現地を見てみることにしました。
■ひねり出した現地へのアクセス手段
報道から件の残土置き場の場所は特定できたのですが、現地は弥富駅や弥富市役所から9Km以上も海側に位置し、この付近へ直通する公共交通機関もありません。筆者は足腰が強く、不動産鑑定業務で往復20Km程度をレンタサイクルで移動することもあるのですが、この付近にはレンタサイクルもなし。
最悪、徒歩かタクシーを考え始めたのですが、地図をよく見ると残土置き場は隣の飛島村の村役場から徒歩30分程度と、弥富駅や弥富市役所に比べて近い。
蟹江町の近鉄蟹江駅から飛島村へのバスがあり、そのバスは村役場が終点ではなくもう少し奥まで入っていて、現地へは「新政西」というバス停から徒歩20分強という点を発見しました。但し、地方の村ゆえ、バス便は限られています。
と、いうことで、バス便に合わせて早起きし、鑑定評価の翌日の令和6年1月30日の朝8時前に近鉄蟹江駅に着き、8時のバスで「新政西」バス停に向かい、さらに20分強を歩いて残土置き場に着きました。
■こんもりした丘が
周辺は、ところどころ駐車場や作業場、資材置き場が見られますが、冬ですので枯れてはいますけれど基本的には農地で、平坦な地形です。
その中に、見るからに異様な丘があり、これが件の残土置き場である旨が一目瞭然です。
これでは、弥富市の税務課も農地扱いの課税は無理でしょう。むしろ、この状況で農地扱いをすることは、他の納税者との公平性の観点からもアウトです。弥富市の税務課はきちんとよい仕事をしているとすら思いました。
もう一つ気が付いたのは、資材置き場等の作業場が近いために、県道沿いでトラックがひっきりなしに通る点。言い換えれば、残土を置きに来やすいわけで、立地条件的にも残土業者に狙われやすかったのかなとも思いました。
現地を見た結果としても、残土の積み方にモラルがあるように思えませんから、この残土がある日、崩れて県道に流れ込む…という危険性も感じました。その場合、人的被害でも出ようものなら土地所有者にも何等かの責任が…とすら感じました。
■どうして、この土地が狙われたのか?
現地は、歩行者をほとんど見かけず、但し県道沿いのため、法令等を考慮外とした「物理的な土砂の放置」には「良くない意味で、利便性が高い」と言えます。
このような残土運びに便利な立地で残土業者に狙われたと思われます。
言い換えれば、何か悪徳なことをしようという業者に「狙いやすい土地」があるとも言えます。
土砂置き場の用途に限らず、こちらが求めてもいなかったのに何かを提案してきた業者に対しては、「なぜ、自分の土地を狙って提案してきたのか」との背景を十分に看破してから、その対応をすべきでしょう。
■弥富市役所に行ってみた
徒歩20分~バス~近鉄蟹江駅~近鉄弥富駅と経て、弥富市役所に赴きました。
まず、税務課に聞きます。
回答は以下でした。
①あの物件の場合は、前面道路(県道)固定資産税路線価等に基づいて色々と補正して得られる、平米8,800円強程度(税務課聴取の結果を踏まえ筆者が概算)×面積×固定資産税税率1.4%で毎年の固定資産税の税額を算出する。
②標準農地としての価格はあの地域の田であれば平米121円(令和3年~ここ数年変わっていない)に面積を乗じて固定資産税評価額(農地の場合は固定資産税課税標準額も同額)を算出し、これに税率1.4%を乗じて算出。
③都市計画税は弥富市では課していない。
要するに、田として認められれば平米121円が課税ベースであったのに、農地ではなくなったために70倍以上となる平米8,800円強に課税ベースが変わったという状況でした。
次に、農地を管轄する産業振興課に行きます。
筆者は、「あの土地は農業振興地域や農用地に該当しますか」と問いました。
実は、農用地では農地以外の利用が禁じられているのです。
担当者は即答しました。
「ああ、あの土地は農用地です」。
農用地部分につき色を塗って記録した図面も拝見しましたが、確かにそのような内容となっていました。
ちなみに、残土置き場になる前は金魚池であったとも聞いていたのですが、その点を問うと、担当者もご存じで、但し色々と細かい判断で金魚池の状態であれば農地扱いをできていたとの認識でした。
つまり、残土置き場とする行為は、課税額が膨らむ云々以前の問題として、実は法令違反だったのです。
■不動産に「手を加える」時に覚えておいた方がよいこと
筆者の個人的見解では、本件では所有者の方は、あまり不動産の法令や税制をご存じではなく、「悪意はなかったが、甘い話につられてしまった」のではないかと思います。
ただ、「この土地に手を加えたら、税負担がこうなる」との視点が抜けており、これがまずかったと言えるでしょう。
即ち、課税上も不利になり、かつ、法令違反でもあると。
実は、実務上においても、土地に手を加えるに際しては、裁判での不動産の揉め事等での判断も含め、「この不動産をこのようにしたら税の負担はこうなる」という視点が抜けている方が実に多いのです。
ですので、筆者は以下の留意点を提唱します。
不動産を動かしたり、裁判上での和解等をしたりする場合は、その前に必ず不動産に強い税理士に税の面で不利ではないかの意見を求めるべきと。
現場からは以上です。