経済・犯罪・移民の視点で西欧諸国のニュースメディアへの評価をさぐる
経済と犯罪への評価は高い
社会の日々の移り変わりや国内外のさまざまな動向を知るのに欠かせないニュース。そのニュースの情報源となるニュースメディアへの西欧諸国の評価を、アメリカ合衆国の民間調査会社Pew Research Centerが2018年5月に発表した調査「In Western Europe, Public Attitudes Toward News Media More Divided by Populist Views Than Left-Right Ideology」(※)の報告書の内容を基に、経済・犯罪・移民の視点から確認する。
次に示すのは西欧諸国で大きな社会問題となっている3つの要素「経済」「犯罪」「移民」の視点に関して、ニュースメディアが本来果たすべき義務を果たしているか、仕事をよくやっているかの評価を「大変よくやっている」「それなりによくやっている」「あまりよくやっていない」「まったく駄目」の4選択肢から選んでもらい、そのうち肯定派に当たる「大変よくやっている」「それなりによくやっている」を合算した値。
おおよそどの国でも「経済」「犯罪」「移民」の順に評価は落ちる傾向がある。他方、イタリアやスペイン、イギリスでは「犯罪」の値がもっとも高く、ドイツでは「経済」の値が突出しているなど、それぞれの国における視点、見方を変えれば問題点の実情や、ニュースメディアの姿勢が透けて見える結果となっている。
「経済」や「犯罪」と関連するニュースが少なからず見聞きされる「移民」については、どの国もニュースメディアへの評価は低め。ドイツやイギリスでは5割を割り込んでいる。「経済」「犯罪」にかかわる報道と比べ、「移民」に関してはニュースメディアはよい仕事をしているとは言えないとの評価は西欧諸国共通のものであるが、どちらかといえば南部にある国の方が評価が低いように見える。
ポピュリストはニュースメディアを評価しない
今件について昨今ヨーロッパ諸国で問題視されているポピュリスト(※※)か否かに区分した上で回答動向を見たのが次以降のグラフ。
まずは「経済」について。
押しなべてポピュリストの評価が低く出ている。理由は恐らく、ポピュリストがそもそも現在の国家社会に否定的で、その原因の一つとしてニュースメディアが社会的存在意義を果たしていないからだとする考えがあるからだろう。「社会が悪いと思っている。その原因はニュースメディアにもある。そのような対象を評価できるはずがない」という具合だ。
「経済」ではどの国も一定の度合いで両派の肯定派意見の値で差が出ている。一番大きな差はスペインの32%ポイント、一番小さいのはイギリスの12%ポイント。当然、ポピュリストの方が現状の経済はよくないとの認識なのだろう。
次いで「犯罪」。
ポピュリストの値の方が低いのは「犯罪」でも同じだが、国によって両派の差異の出方に違いが出ているのは興味深い。イタリアとオランダは大きな差が出ておらず、ドイツは極めて大きな差が生じている。それぞれの国の犯罪情勢によるものか、それともニュースメディアの仕事の実態ぶりが本当に評価されない質のものなのか、それともその双方か。差異がもっとも大きなドイツでは非ポピュリストですら肯定派意見の値が70%に留まっており、犯罪に関するニュースメディアへのドイツ国民の思惑が色々と透けて見えてくる。
最後は「移民」。
ポピュリストの値の方が低いのは「移民」でも同じ。両派の差異があまり無い国は皆無で、いずれの国もそれなりの差が生じている。また、フランスやドイツ、スウェーデンでは大きな差が生じており、移民に対する姿勢の厳しさが、特にポピュリストの間で広まっている感を覚えさせる。
ポピュリズムは大衆迎合主義とも表現できるように、その場限りの、勢いのある無しで方向性を定められることが多く、またその旗振りを行うカリスマ性のある人物や組織、さらには不特定多数に向けた高い公知能力を持つマスメディア組織によって扇動されることが多々ある。ヨーロッパでポピュリズムの台頭がなぜ生じているのか、何に向けて走っているのか、その一端が垣間見られる結果かもしれない。
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※In Western Europe, Public Attitudes Toward News Media More Divided by Populist Views Than Left-Right Ideology
2017年10月から12月にかけて西欧諸国(デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリス)を対象にしたもので、有効回答数は各国2000人強。RDD方式によって選ばれた18歳以上の自国居住者を対象に電話(固定電話と携帯電話双方)によるインタビュー形式で実施されている。結果の値にはそれぞれの国の国勢調査の結果を用いたウェイトバックが行われている。
※※ポピュリスト
現状における国家社会・社会体制を否定し、打破を掲げる政治思想(ポピュリズム。大衆主義、大衆迎合主義とも表現される)を持つ人のことを指す。その行動の際に一般市民の権利や利益、思惑を提示したり、不安などを悪用して扇動する方法が用いられる。
今調査では2つの設問「国全体の問題を解決する場合、一般の人は選挙で選ばれた人よりもよい成果を出すか否か」「選挙で選ばれた公務員は回答者自身のような一般の人の考えを気にするか否か」への回答を基に、回答者自身がポピュリストか非ポピュリストかを属性付けている。「一般の人の方がよい成果を出す」「公務員は一般の人の考えを気にしない」との回答ならポピュリストの属性に区分され、「選挙で選ばれた人の方がよい成果を出す」「公務員は一般の人の考えを気にする」ならば非ポピュリスト、いずれか・双方の設問で回答をしなかった人などは中庸的立場と区分される。
昨今のヨーロッパ諸国ではこの考えが浸透しつつあるとの指摘もあり、今回の調査では精査対象項目として取り入れられたと思われる。
(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。